第250話 犯罪者はどこにでも湧いてくる
誰の許可を得て倉庫内に入り込んでいるのかは知らないが、男達は扉から倉庫内に入ると壁を背にして横に並ぶ。そして、その内、一人が前に出ると、俺に視線を向けた。
「こんにちは、高橋翔さんですね? 私は、公益財団法人アース・ブリッジ協会の職員、小御門と申します。本日は、先日からお話しさせて頂いております。レアメタルの環境エコ認定マークについてご説明をさせて頂きたく……」
「……ああ、あんたらか」
そう言えば、契約書で黙らせた理事達が何か言ってたなキャリア国家公務員御用達の天下り先認証機関のお墨付きをもらえば様々な優遇措置を受ける事ができるとかなんとか……。
返事をしよう、返事をしようと考えているだけで、返事をするのを忘れていた。
折角だ。良い機会なので今ここで返事を返しておくことにしよう。
俺は毅然とした態度を取ると、ハッキリ告げる。
「間に合ってます。今回はご縁が無かったという事で、正式にお断りさせて頂きたいと思います。つきましては、今すぐ私有地であるこの倉庫内から出て行ってくれませんかね? つーか、出ていけ。アポイントメントもとらずに勝手に倉庫内に入ってくるなんて何を考えているんだ? 一分以内に出て行かない場合、警察を呼びます。ただ扉から出て行くだけなので、一分もあれば充分ですよね? はい。いーち、にーい、さーん――」
問答無用でそう告げると、小御門は顔を引き攣らせる。
「――な、何故です。この提案は任意団体宝くじ研究会にとって非常に有益な……それに断れば理事の面子を潰す事になりますよ!?」
理事の面子? なんだそれ?
顔が物理的に潰れる訳でもあるまいし、潰れる面子はうちの理事の面子だろ?
あまりにも必死になって薦めてくるから軽く調べてみたが、レアメタルの環境エコ認定マークを受け入れた所で、こいつ等が薦めてくるほど、目に見えたメリットはない。
この環境エコ認定マークを取得する為には、公益財団法人アース・ブリッジ協会が定めた基準をクリアするだけではなく、認定を受ける為の審査料、そして、審査通過後、毎年発生する環境エコ認定マークの使用料をアース・ブリッジ協会に支払わなければならず、メリット所か俺にとってはむしろ害悪。
俺が行うビジネスにお前等のお墨付きは必要ないとそう結論付けた。
「それが何か? 別にいいじゃん。面子なんて潰れても、別に顔が物理的に潰れる訳じゃないんだろ? よんじゅういーち、よんじゅうにー」
それに、その提案のどこに有益な点があるんだ?
理事達の面子を立てて必要のない金を支払う事に有益性を全く感じない。
そう言って話の腰を折ると、顔を強面に整形したブローカー達が一斉に公益財団法人アース・ブリッジ協会の人達を睨み付ける。
まさかここまで頑なに拒否されると思っていなかったのだろう。強面ブローカーに睨み付けられたアース・ブリッジ協会の人達は、表情を引き攣らせながらも顔を見合わせどうしようかと逡巡する。
「――で、ですから……ああ、もうわからない人ですね!」
いや、わからない事を言っているのはお前だろ。宝くじ研究会の実質的支配者である俺が何故、名ばかり理事の顔を立てて、やる意味も必要もない高い買い物をしなければならないんだ?
しかも、手に入るのは、その協会がお友達と共謀して作り上げた環境エコ認定マーク。
審査費もかかるし、累進課税の様に売上高に応じて支払う使用料も増える。
いらねーよ。そんなもん。
企業にたかる寄生虫かお前等は?
誰も寄生虫との共生なんて望んでいないんだよ。
「――ごじゅうきゅう、ろくじゅーうっと、退去を命じ、それに必要な時間が経過したにも関わらず、退去する気はないと……そういう事ですか……」
六十秒数え終えた俺は、スマホを手に持つと電話アプリを起動し、110通報する。
「警察ですか? 今、私有地に公益財団法人を名乗る不審者達が不法侵入しています。もしかしたら詐欺師かも知れません。敷地内に勝手に侵入した挙句、環境エコ認定マークを導入しろとしきりに声を上げて……えっ? 場所? 場所は東京都港区新橋〇〇の◆◇です。取り敢えず、逃げられると面倒なので、不法侵入の現行犯で私人逮捕しておきます。不法侵入及び不退去の証拠動画と共にお待ちしてますので、すぐに来て下さいね」
そう言って、電話を終えると、俺はエレメンタルの力をほんの少し借り、公益財団法人アース・ブリッジ協会の人々の逃げ場を封じてからブローカー達に指示を出す。
「それじゃあ、皆、確保。犯罪者達を確保した人にはもれなくレアメタルの割引券をあげるよー。何と、一回の取引につき十パーセント割引になる割引券二枚組だ。先着十人の早い者勝ちだよー」
「「な、なにっ!?」」
そう言うと、ブローカー、公益財団法人アース・ブリッジ協会の方々は共に声を上げる。
ブローカー達は、俺がそんな大盤振る舞いすると思っていなかったのだろう。一方、公益財団法人アース・ブリッジ協会の方々は、不法侵入如きで警察に通報され、私人逮捕されるとは思っていなかったようだ。
『なにっ!?』という反応を見れば、不法侵入や不退去罪を如何に軽く考えていたのかがよくわかる。
「へっへっへっ……悪く思うなよ」
「そうそう。不法侵入してくるお前達が悪いんだからな……大人しく俺達に捕まりな……」
パッと見、どちらが悪党かわかったものではないが、正義は間違いなくこちら側にある。
悪人顔したブローカー達が犯罪者共を私人逮捕する為、周りを囲むと、犯罪者共が慌て始めた。
「ち、ちょっと待っ……! わかった。わかったから、すぐに出て行くから服を引っ張るなっ!」
「で、出ていけばいいんだろ! 道を開けろ! 道を開けないと訴えるぞ!」
道を開けないと訴えるぞ?
犯罪者如きが何を言っているんだ?
お前等は全員これから顔の怖いブローカーに捕らえられ警察に売られるんだよ。
今のうちにシャバの空気を存分に吸っておきな。しばらくの間、留置場にお世話になるんだろうからよ。
「わ、わかった。わかったからっ! 私達は一旦引き上げる! だから警察だけは止めてくれ!」
「はあ? 何都合のいい事を言っているんだ? つーか、一旦引き上げるってなんだよ。一旦引き上げるって……また来る気なのか? 都合の良い事ばかり言ってんじゃねーぞ、不法侵入の腐れ犯罪者共。この俺が犯罪者をただで野に放つ訳ねーだろ」
犯罪者を見つけたら通報し警察に引き渡す。これは国民の義務である。
普通であれば、それでおしまいだが、今回の場合、不法侵入の被害に遭ったのは俺。
示談はしないし、不起訴処分なんて絶対にさせない。
ブローカー達の活躍により次々と捕らえられていく公益財団法人アース・ブリッジ協会の方々を眺めていると捕らえられた小御門が俺を睨み付けてくる。
「――で、出て行くと言っただろう。こんなの不当だっ! 絶対に訴えてやるからなっ!」
俺が出て行けと言った時には出て行かなかった癖に、警察を呼ばれた瞬間出て行きたいと喚くのか?
良い性格をしている。
だったら、最初から出て行けよ。逮捕されるのが嫌なら最初から倉庫内に入ってくるな。
社会通念上、建造物への不法侵入は犯罪なんだよ。
交渉名目で勝手に倉庫内に入り込んできた公益財団法人アース・ブリッジ協会の面々には、そんな簡単な一般常識も理解できねーのか?
それとも、自分のやった不法行為は棚に上げて、被害者ポジションに収まる論理のすり替えを行う気か?
お前等、そういうの大好きだな。自己弁護に必死過ぎて反吐が出る。
「――どうぞご自由に、まあその前にこちらが被害届を警察署に届けるけどね?」
住居侵入罪は緊急逮捕が認められている重大犯罪。リーガルバトルをしたいなら思う存分、してやろうじゃないか。
どうせ弁護士を付けて自己弁護するくらいが関の山だろう?
バトルしようぜ。リーガルバトル。
リーガルバトルに負けた時の悔しさは、震えるほどだろうけど、握り拳を解いてズボンで汗拭き握手すれば気持ちが晴れるらしいぜ。知らんけど。
「――くっ、言いたい放題言いやがって……!」
「――離せ! 何が自己弁護するくらいが関の山だっ! ふざけるなっ!」
どうやら口からお漏らししていた様だ。
考えていた事すべてが口から漏れていたらしい。
おかしいな。最近、外出時はマスクと言う名の顔オムツを常に着けていたというのにだだ漏れだったか。まあ実際、思っていた事だし良しとしよう。
俺は不法侵入してきた犯罪者共に冷たい視線を向ける。
「――よし。犯罪者全員捕らえたな……皆、よくやってくれた。後はこいつ等が、不法侵入し理事達の面子を潰したくなければ環境エコ認定マークを取得し、金を払えと集団で強要してきた事を世間に知らしめるだけだ。もう二度と同様の事ができないようにな」
「「「――えっ?」」」
その瞬間、紐で縛りあげられた犯罪者共だけではなく、ブローカーまで俺に視線を向けてくる。
変な事を言っただろうか?
こういった犯罪者はシロアリやゴキブリと同じだ。元から駆除しなければ、際限なく湧いてくる。
「――な、何もそこまでしなくても……」
俺が本気だと理解したのだろう。犯罪者の一人がそう弱音を吐く。
ちょっと、何を言っているのか分からない。
「……いやいや、お前等見たいな輩は元から根絶しないと駄目だろ? もしお前等、犯罪者に感化された若者が、お前等と同様に我が物顔で不法侵入し、環境エコ認定マークを取得するよう強要する恐喝事件を起こしたらどうするつもりなんだ? 責任取れんのか? お前等、責任取れんのか? 若者を誑かし、不法侵入して賞罰付いたらその後の人生に大きな影響を与えるんだぞ? 人の生涯年収は約三億円……払えんのか? お前等が誑かした若者のこれからの人生がぶっ壊れる訳だけど、それに相応する金額を払う事ができるのか? 払えねーだろ? 払えねーんだったら、無責任な事を言うんじゃねーよ。お前等のやってる事、何一つとして公益性はないから。自分達の活動に公益性があるのだと思い上がるのもいい加減にしろよ」
公益法人だろうがなんだろうが、犯罪者共が所属する団体を今のうちに潰しておかなければ、この先、この法人で働く事になる未来ある若者達が可哀想だ。
そこまで言ってやると、犯罪者共が目に涙を浮かべる。
「――そ、そんな……」
「俺達はただ小御門さんに着いてこいと言われたから着いてきただけなのに……」
大多数の人間が悲観的な事を言う中、小御門だけはまだ諦めていないようだ。
まだ目に力が宿っている。
「……そちらがその気ならそれでいい。我々を敵に回すと言う事がどういう事が思い知らせてやる! 我々の環境ラベルがないとレアメタルを売れないよう国に相談して……」
その場合、レアメタル事業を中断した事による逸失利益を請求する事になるが、その方がいいだろうか?
「……別にいいけど、その場合、国とのお前の所の公益法人にそれぞれ月三千億円の逸失利益を請求と訴訟の提起をするけど、それでもいいの?」
俺としては、レアメタルを失わずそれだけのお金が入ってくるので、そっちの方が万々歳だ。
気になったので一応聞いてみると、犯罪者共は皆揃って押し黙る。
どうやら、その気はないらしい。
まったく大言壮語とは、こいつ等の為にある言葉だ。
「……わかってくれたようで何よりだよ。それじゃあ、お前等の所属する公益財団法人にも訴状を送っておくから、よろしくな」
折角なので、使えるコネを総動員し、俺に喧嘩を売ってきた犯罪者の属する公益法人すべてを白日の下に晒し、そのすべてにリーガルバトルを仕掛けてやろう。
二度と俺に交渉を持ちかけるだなんて考えが浮かばないよう徹底的に……。
村井元事務次官を潰した際、一般社団法人とNPO法人にメスが入ったようだが、公益財団法人にはメスが入らなかったようだ。
まあ、闇の精霊・ジェイドに頼み込んで洗脳状態に追い込んだのは、東京にある一部の省庁と議員宿舎のみ。他には手が回らなかったのだから仕方がない。
今後、じっくり追い込んでやるとしよう。
――ピーポーピーポー
丁度よくパトカーも到着した様だしな。
「よし。それじゃあ、レアメタルの支払いを終えた奴から帰ってよし。後はこっちでやっておくから、申し訳ないけど犯罪者を捕まえた奴はそのまま待機で、とりあえず、割引券を配賦するから無くすなよ~」
そう言って、レアメタルの清算と、犯罪者の引き渡し、被害届の提出を行った俺は、新橋大学付属病院へ帰る事にした。
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