第247話 人はそれをブーメランという

『――そ、そんなの無理に決まっているでしょっ!?』

「……無理でもやるんだよ。何なら今すぐドワーフの地下集落を復興させてもいいぞ。それができたら、現時点までで発生した損害金の請求だけで済ませてやるよ」


 まあ、無理だろうけど……。

 壊れた物は二度と元には戻らない。

 ちなみに、もし万が一、ドワーフに死者が出ていたら、こんなものでは済まさなかった。そう言った意味では、ドワーフの頑強さに救われたとも言える。


 俺、他人に自分の物を勝手に壊されるの大嫌いなんだよね。大切にしているものなら尚更だ。

 お前がどんな立場のダークエルフなのかは知らんが、偉そうな態度で一人ドワーフの地下集落を崩壊に追い込んだんだ。少なくとも生半可な立ち位置のダークエルフではあるまい。

『ああああ』達もよく懐いていた様だしな。

 あいつ等は馬鹿だが、力関係を見抜く力位は持っている。

 つまり、このダークエルフは『ああああ』達の審美眼に敵う程度の何かを持っているという事だ。最悪、こいつが何も持っていなくても何とかなる。

 聞いた所によると、契約書はダークエルフが作成しているみたいだからなぁ。

 契約書の単価は百万コル。十分の一で作らせ借金に充てさせてもいい。

 契約書を五千万枚作らせれば借金は完済だ。

 まあそんなに作る事ができるのかは知らんけど。


 すると、地下集落をぶっ壊すだけぶっ壊した加害者ダークエルフが俺に罵声を浴びせかけてくる。


『――こ、この人間の皮を被った悪魔め!』


 中々、酷い言うダークエルフである。流石の俺も、ゲーム世界内の種族を悪魔に変更した覚えはない。

 ついでに言えば、今の発言。人はそれをブーメランと呼ぶ。

 このダークエルフには、今、言った言葉がブーメランとなり自分の眉間に突き刺さっている事に気付いているのだろうか?

 厚顔無恥とはよく言ったものだ。

 他人の迷惑などを考えず自分勝手に行動した結果、こうなっているというのにその事に気付いていないのだろうか?


 俺は冷めた視線をダークエルフに送る。


「それがどうした? もしかして、嫌味のつもりで言ったのか? もしかしてだけど、ちっぽけな自尊心を満たす為に、嫌味を言って見たのか? そうかそうか、そうだよな。もはや、お前にはそれしか残ってないもんな? ちっぽけな自尊心しか残ってないもんな? 憐れな奴だよ、お前は……」


 そして、勝手に憐れんでやると今度は涙を浮かべ泣き出した。


『ぐすっ、ぐすっ……国に帰ればあんたなんて……王女である私が帰れば……ドワーフ諸共、絶対に滅ぼしてやるんだからね……』

「はいはい……王女様ね」


 よくこんな性悪が王女様になれたものだ。

 しかし、王女様か……それなら話が早い。


「なら、尚更、大丈夫だな。お前が台無しにした五兆コル分の賠償金。ちゃんと回収する事ができそうで何よりだよ」


 最早、どっちが悪者なんだかわかったものではないが、俺が被害者である事は間違いないのでちょっとキツめに言っておく。


「いいか? 行動には責任が伴うんだ。お前は癇癪持ちで自分の間違いを認められないばかりか、いざ、自分が責められると論理のすり替えを行い被害者振る碌でもない糞性悪ダークエルフだ。しかし、その事を悔い改め賠償金として五兆コル支払った上で、二度と俺達に逆らわないと決断するならまだ五兆コルを失うだけで済む。わかるか? ここがお前の人生のターニングポイントだ……」


 ダークエルフは、契約書の効果を無効化するアイテムを持っていると聞く。

 恐らく契約書の効果を破棄する課金アイテム『契約取消通知書』に相当する物を持っているのだろう。

 契約書がどの程度、ドワーフに効くか分からなかった為、隷属の首輪も着けて見たが、もしかしたら、それすら外してしまうかも知れない。


 なので、俺は『絶対に五兆コル支払えよ』と強く警告しておく。

 

 もし万が一、支払いを拒む様であれば、俺としても、自らの既得権益を守る為、手荒な手段を取らざるを得ない。流石の俺もそんな事はしたくない。

 と、いうより、このダークエルフという種族に関わりたくない。


 だって、自分達が加害者の癖にちょっと状況が悪くなると論理のすり替えを行なって被害者振るんだもん。

 多分、ダークエルフという種族そのものが、そういった種族なのだろう。

 話の通じない気狂い、俺は嫌いだ。積極的に関わりたくない。


「それじゃあ、国と話を付けてこい。故郷を滅ぼしたくなかったら選択を間違えるなよ? お前等、ダークエルフの敬愛する精霊様が国を滅ぼしに行くからな」


 そう脅し付けると、ダークエルフを開放する。


『――くっ、このイカレサディストめ! ヘルヘイムに落ちろ!』

「…………」


 ヘルヘイムに落ちろ?

 地獄に落ちろと似た様な言葉だろうか?

 最後まで感じの悪いダークエルフである。

 もしかしたら人の悪口を言わないと死んでしまう病気にでも罹っているのかもしれない。


 とりあえず、契約書を結び隷属の首輪を付けた上でダークエルフを開放したものの既にゲンナリしている自分がいる。

 とりあえず、一週間後を楽しみにしておこう。


「……さてと、クレイジーダークエルフも去った事だし、そろそろ、いいかな? クロノス。時間を巻き戻して地下集落を元に戻してあげて」


 時の精霊・クロノスにそうお願いをすると、地下集落に巨大な時計が出現し、時間が巻き戻っていく。


「――ふう。こんなもんかな?」


 体をピカピカ光らせ、誉めてアピールする時の精霊・クロノスを撫でる。


「あ、そういえば……」


 以前、川島に壊されたスマホ……クロノスに直して貰えば良かったんじゃ……。


 こいつはウッカリしていた。

 あの時は川島に地獄を見せる事に必死だったからな。


「クロノス。このスマホの時間を巻き戻して直してくれる?」


 クロノスにそうお願いすると、アイテムストレージから取り出したスマホの上に時計が現れ、スマホを元に戻していく。

 流石は時の精霊・クロノス。もうダメだと思っていたスマホが完全復活した。

 今ならドワーフやダークエルフがエレメンタルの事を精霊様と崇め奉るのも分かる気がする。


「ありがとう。クロノス」


 時の精霊・クロノスにお礼を言うと、アイテムストレージからエレメンタル達の大好物。ペロペロザウルスの茹で卵(半熟)を殻ごと渡した。

 クロノスはペロペロザウルスの茹で卵を受け取ると、大事そうに抱え、少しずつ味わう様に食べ進めていく。


 うちのエレメンタル、やっぱりかわゆい。


「さて、地下集落も直った事だし、早速、働いて貰うかな……」


 そういった意味ではタイミングが良かった。

 あのダークエルフがドワーフの地下集落をぶっ壊したのも今日の様だし、ドワーフ達も地下集落と共に仕事場が復活し喜んでくれるだろう。


 良かったね。俺の為に一杯働けるよ。


「――あ、そこのドワーフ君。ちょっと、いいか?」

『……えっ?』


 地下集落が謎の復興を遂げた事に驚きを隠せない様子のドワーフ一人に声をかける。


『――えっと、これは一体……何で、集落が戻って……』


 うんうん。困惑するのも良くわかる。

 手の尽くし用もない位、滅茶苦茶にされた地下集落が、まるで時間が巻き戻ったかのように元に戻れば驚くのも頷ける。


「いや、大した事じゃないんだけどさ。地下集落の復興が住んだからこれからすぐ作業場に戻り、レアメタルの精錬に励むよう皆に伝えてくれないかな?」


 あの時はダークエルフがいたから、あの時は復興作業に励むよう言ったが、地下集落の復興作業が済んだからには話が変わってくる。

 本当に大した話ではないので、そうライトに伝えると、ドワーフは少しガッカリした顔をした。


「うん? どうした。そんなにガッカリとした顔をして?」

『――い、いえ……何でもないです……』

「そうか?」


 歯切れが悪いな。

 地下集落を復興させない方が良かったか?

 それとも、復興の間、楽ができるとでも思ったか?

 ドワーフの感情は顔に出やすい。

 じっくり、ドワーフの顔を眺めてやるとガッカリとした表情を浮かべた後、溜息を吐いた。

 恐らく、後者だ。少しでも復興期間を設けて楽をしようとでも考えていたのだろう。

 しかし、甘い。その考えは、あまりに甘すぎる。

 ドワーフと結んだ契約は、『月に生産する事のできる最大生産量の二分の一の量を納めること』。生産量がどこ位か分からない。もの凄く漠然とした契約内容だ。

 もし万が一、俺に納める量が最大生産量の二分の一に満たなかった場合、契約書に従い相応の罰を受ける事になってしまう。だが、それではあまりに可哀想だ。

 生産効率が上がるかもしれないが、まず間違いなくストレスで寿命が縮む。

 ドワーフ達には、契約書に操られ未来永劫、自由な時間を与えられることなく過ごす未来より、契約書に縛られはするが、それなりに幸せな未来を送ってもらいたいと、本気でそう思っている。

 だからこそ、俺は心を鬼にして、エレメンタルの力を借り地下集落を復興させたのだ。


「――まあいいや、それじゃあ、今日からまたレアメタルの精錬、頼んだぞ」


 そう言うと、俺は一度、地上に戻る事にした。

 途中、地下集落が復興した事を何故か悲しむドワーフもいたが、俺としてはどうでもいい。

 ちゃんと、働いてくれ。

 俺から言えるのはそれだけである。


 ◇◆◇


「――さてと……そろそろいいか……シャドー。あの馬鹿共を影から出してやってくれ」


 そうエレメンタルにお願いすると、地面に黒い影が射し、中から、『ああああ』達が這い出てくる。


「――た、助かった……」

「助かった? 残念だったな。助かってないぞ?」


『ああああ』達が逃げられない様、周囲をエレメンタルでガッチリ固めてやると、俺の顔を見るや否や全員が泣きそうな表情を浮かべた。

 ようやく俺の存在に気付いたようだ。

『ああああ』が震える声で俺に話しかけてくる。


「――や、やあ、カケル君。暫らくぶりだね」

「ああ、そうだな。少し見ない内に、増長したな。お前ら……」


 俺が怒っている事を察した『ああああ』達は瞬時に土下座する。


「「「も、申し訳ございませんでしたー!!!」」」

「しかし、俺は許さない」


 お前達が下手に出て、その場をやり過ごそうとする事はお見通しだ。

 謝罪なら猿にもできる。


 敢えて、口に出してそう言うと、『ああああ』達はガバリと顔を上げ揃って絶望の表情を浮かべた。


 恐らく、酷い目に遭わされるとでも思っているのだろう。

 その通りだ。


「ああ、一つ言っておくが、あのダークエルフに頼ろうとしても無駄だぞ? あいつの事は契約書で縛った上、隷属の首輪を嵌めて国に帰したからな……」


 まあ、一週間後に戻ってくるけど……。


 それを知らない『ああああ』達は、皆揃って項垂れる。

 大人しく、ドワーフに従っていれば良かったものを、下に就く種族を間違えたな……。

 ダークエルフの下に就き、ドワーフの精錬を邪魔しやがって……。


「とりあえず、今日一日分の損害額……コル換算で百二十億お前達の借金に上乗せするから……セントラル王国への帰還がまた一段と伸びたな」

「「「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


 そう告げると、『ああああ』達は絶叫を上げた。

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