第234話 冤罪で留置場送りにされましたw
新橋大学付属病院の特別個室に戻ってきた俺はパソコンを立ち上げると、影の精霊・シャドーが撮影してきてくれた犯人と思わしき三人の動画を確認していく。
「……やっぱりそうか」
何となくそうだろうなと思っていたが、この三人。川島の奴に天下り先を斡旋しようとしていた元キャリア国家公務員。村井元事務次官と繋がりがあった様だ。
川島の天下り先を潰す為、動いた余波が何故か川島に向かっていった。
簡単に言えば、そんな感じだ。
まあ、普通の感性を持っていれば自分の作った組織を打ち壊されたら誰だってキレる。
ただ、普通の報復と違うのは、村井元事務次官が権力や人間関係を巧みに使い、自分の手は汚さず、自分の組織を破壊した元凶(誤解)である川島に報復している点だ。
村井元事務次官は、親がその管轄の警察官で特定の役職に就いており、ある程度の事件であれば揉み消す事が可能な立場にいる者。または、死亡宣告を行う医師等、特定の立場の者と深い関係のある者にターゲットを絞り、犯行に及ばせている(勿論、すべて犯罪)。
川島が刺傷された際、俺を犯人に仕立て上げたのも計画的で、犯行を行った当人達はまったく気付いていない様だが、警察官の自白強要により俺が逮捕された場合、村井元事務次官本人が面会を申し出て、宝くじの当選方法と引き換えに本物の犯人を突き出し釈放させる予定だった様だ。
人の事を使い勝手のいい使い捨ての駒だとしか思っていない。
それをおくびにも出さず堂々と被害者アピールし、自分の手を汚さず事に当たるとは、流石、元キャリア国家公務員だけある。
普通であれば、川島が刺殺され犯人が逮捕されました。そんなニュースが十数秒間流されただけで話は終わっていただろう。
冤罪だと分かっていても自白を強要され、収監されれば一般人であればすべてを諦める。しかし、甘かったな。それはスウィートな考えだ。
俺はただの一般人ではない。
エレメンタル様の庇護下に置かれた一般人だ。
DW内の設定において、エレメンタルは、万物の根源をなす存在。
たかが一匹の人間にどうこうできる様な存在ではないのだよ。
人の事を上から目線で駒扱いする様な奴に碌な奴はいない。
やはり、村井元事務次官は徹底的に潰さないと駄目だな。
誰が敵なのかよく分かった。
ならば、乗るしかない。このビッグウェーブに……。
「よし。行くか……」
そう呟くと、俺は警察署へと向かった。
◇◆◇
「――お前がやったんだな?」
「はい。俺がやりました……」
ここは、警察署の取調室。
俺の取調べを行っているのは、前回と引き続き武藤という名の警察官だ。
警察署の取調室で再度任意取調べを受ける事、八時間。
前回、影の精霊・シャドーの力を借り、警察署から抜け出した前科がある為か、はたまた、確実に自白を取りたい理由があるのか分からないが、テーブルを叩かれたり、大きな声を出されたり、椅子から立ち上がりわざとじゃありません見たいな顔で、俺の座っている椅子の足を蹴られたりと、より執拗で粘着質な取調べが行われた。
なりふり構っていられないのだろう。こうした武藤の行動を他の警察官は止めようともしない。
憔悴した表情を浮かべ、呟く様にそう言うと、武藤は俯きほくそ笑む。
「……目撃者の証言通りだな。それでは、この調書にサインを」
強要した自白。そこに、目撃者の証言という自白以外の証拠を加える事により収監とするつもりなのだろう。
正確には、強要した自白と、真犯人による証言により収監されそうになっている訳だが……。しかし、俺は屈しない。
「すいません。この部分が事実と異なりますので書き直して下さい」
調書に目を通し、事実と違う点を指摘する。
この警察官の筋書きによると、犯行動機は怨恨によるもので、計画的な犯行であるらしい。まあ、ある意味合っている。俺の犯行動機じゃないけど。
すると、武藤は俺を睨み付けテーブルを叩いた。
「今、やったと言ったばかりじゃないかっ!」
「確かに言いましたが、それは……」
俺がやったのは、川島の救護活動だ。犯行を認めた訳ではない。
「――証言者がいるんだよ! 悪あがきはみっともないぞ、いいからこれにサインしろっ!」
そう言うと、武藤は俺に無理やりペンを持たせた。
絶対に犯人にしてやるという執念を感じる。
「何するんですかっ! やめて下さいっ!」
そう抗議するも、武藤は俺の手をがっしり掴まれているので逃げられない。
無理やり供述調書にサインさせられると、武藤は笑みを浮かべた。
警察では現在、取調べの可視化(全過程の録画)が実施されている。
にも拘らず、こんな無茶な事をしてくるとは思いもしなかった。
まあ、録画し忘れましたとか、そんな調子のいい言い訳するのだろう。現に、カメラのライト赤く光ってないし……。
でも、そこの所は安心して欲しい。
シャドーに頼んで、四視点から取調べの内容はすべて録画済なのだ……。
撮れ高もバッチリ。録画されていないからこんな無茶な事をしたんだろうけど、馬鹿な奴である。計画通りという奴だ。こんな雑な冤罪の作り方初めて見た。
供述調書へのサインが終わると、もう用済みとばかりに俺はそのまま留置場へと連れていかれる。
「なるほど、ここが留置場か……」
初めて入ったな。
周囲を壁で囲ってあり,プライバシーには一定の配慮がされている様だ。
警察署から抜け出した前科がある為か、俺だけ一人部屋の独居と呼ばれる二畳半位の部屋に入れられた。
しかし、窮屈な部屋だな……。
まあ、そこは我慢するか。決して、マゾという訳ではないがヘイトを貯めるのも悪くはない。証拠を握っており、逮捕される事は百パーセント無いと分かっているのだだから、気楽なものだ。
とりあえず、定番のアレでもやっておくか。
檻を掴むとガクガク揺らす様にして声を上げる。
「――お、俺は無実だぁぁぁぁ!」
すると看守が呆れた表情を浮かべた。
留置場で過ごす事一日。
「中々、暇で健康的だな……」
朝七時起床、朝八時に朝食を食べ、昼十二時から昼食、十三時から運動が始まり、夕食は十八時、そして二十一時に就寝か。風呂に入れるのは一週間に三回程度。
綺麗好きな俺にとって、風呂に入れないのが一番きつい。
あくびをしながらボーっとしていると、看守が檻の前に立つ。
「……面会だ」
来たか。まだたった一日しか経ってないのに早いな……。
看守について行くと、アクリル板で仕切られた面会室へ通される。
そこには、一人の男が待っていた。胸元に光るバッチから弁護士である事が伺える。
看守が部屋から出ていくのを見送ると、無言のまま椅子に座る。
「――君が高橋翔君かな……?」
「ええ、まあそうですけど、そういうあなたはどなたですか?」
「ああ、自己紹介が遅れ申し訳ございません。私の名前は野梅。弁護士をしております。名前くらいは聞いた事があるでしょう?」
言われてみれば、遥か昔、そんな奴から電話がかかってきたな。アメイジング・コーポレーションの顧問弁護士か。
「ああ、あの時の……それで、弁護士が俺に何の用?」
ぞんざいにそう尋ねると、野梅弁護士は苦笑する。
「然る御方からメッセージをお預かりして参りました。私は、君が犯人ではない事を知っています。当然、その証拠も揃えてあります。しかし、助ける義理がありません。もし、あなたがとある秘密を打ち分けてくれるのであれば、私にはあなたを助ける用意があります」
「ふーん。なるほど……それで、とある秘密って何? 具体的に教えてくれなきゃ分からないんだけど」
この弁護士の裏に村井元事務次官がいる訳だ。
弁護士の影にシャドーを二体含ませると、野梅は勿体振りながら話をする。
「――またまた、ご冗談を……ご存じでしょう?」
ええ、まあ、自分の事ですから。
でも、ちゃんと言葉にしてくれないと証拠にならない。
「いや、わからないですね? 俺、忖度は苦手なので」
そうハッキリ告げると、野梅はヤレヤレと首を振る。
「……仕方がないですね。いいでしょう。分からないと言うなら教えて差し上げます。どの道、ここには私とあなた以外誰もいませんからね……。宝くじ研究会で行っている宝くじの当選方法。それを具体的に教えなさい。そうすれば、ここから出して差し上げます」
当選方法も何も……課金アイテム使ってただ宝くじを買うだけですが??
それ、教えた所で、レアドロップ倍率の課金アイテムを入手できる手段を持っていないと全然、意味ないんですけど……。
まあいいや。
「……あんたが俺をここから出してくれる確証は? その方法を教えても知らん顔して逃げられたら、俺、ここから出れないじゃん」
「そこは私を信じて頂く他、ありませんね……」
いや、信じられねーよ。
「じゃあ、あんたが把握しているこの事件の真犯人を教えてくれよ。どの道、俺は、あんたを頼らないとここから出られないんだ。教えてくれてもいいだろ? 村井元事務次官は誰をこの事件の真犯人として警察に突き出すつもりなんだ?」
そう尋ねると、野梅は額の汗をハンカチで拭く。
「……何故、ここで村井さんの名前が出てくるのか皆目見当が付きませんがまあいいでしょう。一人だけ教えて差し上げます」
「一人ねぇ……」
つまり複数犯であると暗に言っている訳だ。
「そうです。ですので、それを教えたら、あなたも宝くじの当選方法を教えなさい」
いいだろう。そんなに宝くじの当選方法を知りたきゃ教えてやるよ。
「それで、真犯人は誰だ?」
「武藤正義……あなたの取調べを担当した警察官の息子ですよ。さて、これでよろしいですか?」
ああ、素晴らしい情報だ。まさか取調べを行った警察官の息子だとは思わなかったよ。
「ああ、ありがとう。つまり、村井元事務次官は武藤正義とかいう青年を俺の代わりに警察官に突き出そうって訳ね」
「……ですから、村井元事務次官は関係ありません。そんな事より、宝くじ当選の方法を……」
俺はアイテムストレージからレアドロップ倍率を取り出すと、野梅に見える様に突き出す。
「……これを使って宝くじを買うだけだよ。それ以外の事は何もしていない」
すると、野梅は呆れた表情を浮かべた。
「何を馬鹿な……意味がわかりません。どうやら、あなたは自分の立場を理解していない様だ」
そう言うと、野梅は席を立つ。
「素直に教えていれば、すぐにこの場から出られたものを……まあ、いいでしょう。まだ時間はたっぷりある。少し留置場で頭を冷やしなさい。ああ、素直に教える気になったら連絡をくださいね? そうすれば、すぐにでもここから出して差し上げますよ」
そして、言いたい事だけ告げると、人を馬鹿にした表情を浮かべ面会室を後にした。
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