第223話 だ、駄目だこいつら……早く何とかしないと……
事務所を滅茶苦茶にされた俺は近くのワイモバイルで新たなスマートフォンの購入手続きをすると、近くの病院で診断書を貰い、警察に被害届と証拠動画を提出。BAコンサルティングで訴訟を起こす為の事前準備してから拠点である新橋大学附属病院の特別個室へと戻る事にした。
「さて、まずは敵の事を知る所から始めるとするか……シャドー」
影の精霊・シャドーにそう呼びかけると、シャドーは影の中から数十枚の書類を取り出した。
シャドーが取り出したのは、公益法人で作成を義務付けられている社員名簿。そして、財務諸表やその他諸々。
俺の事務所に押し掛けてきた市民団体を含む川島が崇拝する村井元事務次官とやらが運営する市民団体すべての事務所に保管してあった重要そうな書類全般だ。
川島の行動はすべて筒抜け。
まあ、俺のスマートフォンをゲームデータごと破壊すると思っていなかったが、川島の頭で考えた浅い計画はまるっとお見通しである。
ただ一点だけわからない事がある。それは、川島が天下る予定の団体に関する情報だ。
村井元事務次官自身が川島をどの団体に天降らせるのか決めかねているようで全然情報が下りてこない。
現時点でわかっている事は、川島が村井元事務次官の運営する市民団体に天降るという事のみ。なので、川島の天降る場所を無くすべく、村井元事務次官が運営する市民団体すべてと関係先を調べる事にした。
「ありがとう。シャドー。それじゃあまずはコピー業務に励むとするか……」
大量に積まれた書類の数々に視線を向けると、指紋が付かぬよう手袋をはめコピー機に書類を流していく。
ただコピー機に書類を流しているだけで一日が終わりそうな勢いだ。しかし、川島に対し社会的致命傷を与える為にやり切らなければならない。
まあ、清廉潔白な団体なんてある筈ないし、叩けば埃の一つでも出るだろ……。埃が出たらその場所を叩きまくればいい。
十時間かけてすべての書類をコピーすると、影の精霊・シャドーに対して書類を元あった場所に戻して貰う。
そして、すべての資料に目を通す事二日間……。
「――だ、駄目だこいつら……早く何とかしないと……」
俺は盛大に頭を抱えていた。
「……さ、流石にこれは酷すぎるだろ。何だこれ?」
まずホームページに公開されている活動報告書。そして、貸借対照表の数値が保存されている帳簿と違う。二重帳簿か何かか?
四半期毎に活動報告を上げているが、第四四半期になると経費が数倍となり助成される金額とほぼピッタリとなる。
国や地方自治体から助成金を貰う為にこんな事をしているんだろうけど、会計舐めてんのかって位酷い。でたらめな経費計上、活動実態のない事務所借り上げ……水道光熱費合わせて三千円って絶対に活動してないだろ。領収証や請求書もなく経費計上しているケースも多数見受けられる。
他にも、村井元事務次官が退官前にいた省庁に関係のある公益法人から助成を受けている様だが、これもまた酷いものだった。
公益法人からの助成を受ける為には、事業概要・役員構成・財政状況等をホームページで公表し、退職した国家公務員の理事総数に占める割合が三分の一以下でなくてはならないとされている。
助成金を配る側の公益法人が、『天下り団体にお金を流している訳ではありませんよアピール』している訳だが、実際に助成された側の公益法人を見てみるとより酷さがわかる。
助成された側の公益法人のホームページを見ると、確かに『退職した国家公務員の理事総数に占める割合が三分の一以下』である事が確認できる。
しかし、助成された側の公益法人の殆んどに、退職した国家公務員の名前と経歴が列挙されていた。有名無実もいい所だ。
国から補助金を受け取り、それを寄付という形で関連団体に迂回させ、節税メリットまで享受しているなんて事までやってる。
もう最悪。どこもかしこもズブズブだ。
営利企業と違い公益法人は営利活動をしていない限り、法人税の申告義務はない。毎年、一定額の法人住民税均等割を納めなければならないが、それも微々たるもの……。
一番酷いのは、村井元事務次官傘下の非営利型一般社団法人……。
営業活動を行っていないのだから、寄付や助成金をどう使おうがその団体の勝手。しかも、それを監督する省庁と繋がりがあるから、補助金も助成金も貰い放題、ばらまき放題。活動報告や貸借対照表も精査される事がないから、適当。消費税が経費計上され貸借対照表が非対照なものまである。
こんなあからさまな事をやっても公然と許されるという訳だ。
まるで引き出し放題のATM。アクセス権のある奴だけが、現金を掴み配分する仕組みが出来上がっている。
その原資が俺達の納めた税金である所が腹立たしい。
税金を払うのが嫌になってきた。
国や地方自治体から補助金を貰った公益法人。その公益法人から助成を受ける非営利型の一般社団法人やNPO法人は全部、確定申告してくれねーかな?
税金支払うのがあまりにも馬鹿馬鹿しいわ。
俺も公益法人立ち上げたくなってきた。
しかも、国や地方自治体に申請する予算は年々、倍増傾向。何故、そんな予算が必要なのかという事を、その法律施行に深く関わり合いのある村井元事務次官の傘下法人が参加する有識者会議により話し合われ、報告が水増しされた杜撰な活動実態や適当な財務諸表しか作れない団体により行われている。
巧妙に隠されていて最初は気付かなかったが、この団体、村井元事務次官が退任する前に法律施行による需要増を取り込む為の団体を先回りして作られている。
おそらく法律施行後の先駆者として権威を高め先駆者利益を自分の関係する法人で独占する為にそうしているのだろう。
当然、その業界の先駆者として活動していたのだから省庁としても、官僚OBを有識者会議に呼びやすくなるし有識者会議に出席した後、推薦という形で自分の傘下法人を参考人として招致し、自分の意にそう発言をさせ、話の流れを自分達の都合のいい様に捻じ曲げる事ができる。
まさにインサイダー取引。
省庁の関係者等がその職務や地位により知り得た未公表の情報を利用し、退官後、自己の利益を図ろうとするものに他ならない。
官僚汚職と違わず、社会通念上許されざるべき行為である。
確か一般社団法人やNPO法人を含む公益法人の管理は各都道府県が行なっているんだったな……。
問題点ははっきりしている。
とりあえず、この事実を管轄の都道府県すべてに告発してみるか?
いや、そんな事をしても無駄か……。
こんな馬鹿でもわかるような活動報告書や貸借対照表受け取り補助金を出す位、ズブズブなんだ。あからさまに問題があるとわかっていても、村井元事務次官と深い関わりのある都道府県の管轄部署はこれを会計不正ではなく、経理処理上の誤りとし、あやふやにする筈。『バレちゃいましたか。発覚した分の補助金は返還します。すいません』と、そこまであからさまではないにしろ、水増ししていた分の補助金を返還させ話を終わらせる可能性が高い。
つーか、この人、総務省の事務次官じゃなかったの?
総務省関連の天下り先団体のみならず、色々な法人傘下に置いているんだけど??
「うーん……どうしたものか……うん?」
パラパラとコピーした資料を捲っていると、定款のとある部分に視線が向く。
「――これは……いや、これなら……」
川島の奴に天下り先を提供しようとしている村井元事務次官に合法的なダメージを与える事ができるかも知れない。
総務省の元事務次官とは思えぬほどの凡ミスだ。
いや……これは、傘下団体が勝手にやった忖度か何かか?
非営利型一般社団法人の必須要件として、定款に解散時、残余財産を国や一定の公益的な団体に贈与することが定められている。
しかし、村井元事務次官傘下団体の定款には残余財産の帰属先が『当法人と類似する事業を目的とする一般社団法人、一般財団法人に贈与するものとする』と書かれていた。
法人住民税均等割として毎年七万円しか納めていないので、この団体はまず間違いなく自分達の団体を非営利型一般社団法人であると勘違いし活動している。
しかも、残余財産の帰属先が国や地方公共団体等ではなく自分達の事業と類似する一般社団法人又は一般財団法人となってしまっている為、非営利型一般社団法人の必須要件を満たしていない。
つまり、村井元事務次官自身を除く傘下団体は一般社団法人(普通法人)。
しかも、設立から今までにかけて法人住民税均等割以外の税金を納めていない極めて悪質な脱税法人という事になる。
一般社団法人(普通法人)は、全所得が課税対象。当然、寄付金も会費等と一緒に売上として計上しなければならない。
村井元事務次官傘下の団体の活動報告が本当であれば、一団体につき年間二億以上の経常利益を上げている。
設立はどの法人も七年前から……無申告の税務調査の場合、過去五年分まで遡って調査され、もしその五年間で所得隠しや脱税行為が明らかとなった場合、更にその二年前まで調査対象となり、通算して七年分の税金を徴収される事となる。
更に延滞税や無申告加算税、重加算税等が徴収される。
と、なればやる事は決まったな……。
「――ふふふっ、非営利型社団法人を笠に脱税なんてしちゃあいけないよ。そういう悪い事をする団体はこうしちゃうからね」
そう呟くと、俺は国税庁のサイトにアクセスし『課税・徴税漏れに関する情報の提供』から非営利型一般社団法人ではない村井元事務次官の傘下団体すべての情報を入力し、証拠となる定款や財務情報、活動報告書等を再コピーして国税局に郵送する。
「脱税はダメ絶対ってね」
しかし、国税局も国側の人間。
これだけでは動かない可能性もある。
念の為、マスコミにもこの事を流しておくか……。
ついでに、村井元事務次官傘下団体の出鱈目な不正実態をアピールする為、内部告発という形で資料を整えて貰おう。主に、俺が訴訟を起こす予定の村井元事務次官の傘下団体の方々に……。
「――ふふふっ、面白くなってきたぞ……」
そう呟くと、俺はベッドに寝転がった。
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