第213話 地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』

「――さて、これでよしと……それじゃあ、こいつ等の事は頼んだぞ」


 契約書を読み上げた俺はドワーフ全員からサインを貰うと、控えを族長ドワーフの息子に手渡した。


『は、はい。任せておいて下さい……』


 理不尽な契約を結んでしまった事に頭を抱え込んだ族長ドワーフの息子は俺の言葉に弱弱しく反応する。


「いや、(俺にとって都合の)良い契約を結ぶ事が出来て本当に良かった。ああ、さっきも言ったけど、『ああああ』達の衣食住は保障してやれよ。過酷な仕事もなしだ。俺もちょくちょく顔を出すから、もしその時に一人でも死傷者が出ていたり行方不明になっていたら……その時はどうなるかわかるよね?」

『は、はいっ……!?』


 そう脅し付けてやると、息子ドワーフはビクビクした表情を浮かべた平伏する。


 こう牽制しておかないと、ドワーフ達はすぐに増長するからな。

 何だか人を見下した風だったし……しかし、これを盾に『ああああ』達に増長されても困るので、あいつ等にこの事は伝えないでおく。

 あいつ等は狡猾な上、喉元過ぎればすべてを忘れる。そんなタイプの人間だ。


「一ヶ月に一回ここに顔を出すから、その時までに約束のブツをちゃんと用意しておけよ。それじゃあな」


 この世界に置き去りにされ恨めしそうな顔をする『ああああ』達と、俺という名の嵐が過ぎ去った事を喜びつつもこれからどうしようかと悩まし気な表情を浮かべるドワーフ達。

 対称的な二つのグループに向かって朗らかな笑みを浮かべると、地上へ伸びる階段を登っていく。


「――あ、そういえば、あの族長ドワーフが探していたお宝って何だったんだろ?」


 祖先が残した宝とか言っていた気がするが……。

 まあいいか。それについては後々、確かめる事にしよう。

 今回、俺はそれ以上の物を手に入れたしね。


 誠意として徴収した金銀その他レアメタル。

 メニューバー越しに、アイテムストレージへ視線を向けると、俺は笑みを浮かべる。


 これが先駆者利益か……。

 コロンブスが危険を冒してまで航海した理由が少しだけわかった様な気がする。


 階段を上がり地上へと戻ってきた俺は、転移門『ユグドラシル』の前まで歩き立ち止まる。


「……そういえば、この世界にはどんなダンジョンが設置されているんだろ?」


 ここは、地下世界だけあって鉱物資源がとても豊かな世界だ。

 少し地面を掘れば金鉱石が簡単に採掘できるし、地下を掘り進めればレアメタルが豊富に採掘できる。


 ――と、いう事は?


 新しく解放された世界『スヴァルトアールヴヘイム』のダンジョンで産出されるドロップアイテムは、それに類する物かも知れない。


 気になった俺は、転移門『ユグドラシル』前でメニューバーを開き、メニューバーに潜る事のできるダンジョンを表示する。


「――今、潜る事のできるダンジョンは、地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』だけか……」


 ダンジョンは初級、中級、上級の順繰りに攻略する事で解放される。

 恐らくこの地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』は、セントラル王国における広大な森林ダンジョン『スリーピングフォレスト』と同じ初級ダンジョンなのだろう。


「しかし、初級ダンジョンにしては、攻略難易度が高いな……」


 推奨レベル百五十。

 初級ダンジョンでは考えられないレベル設定だ。


「……まあ、俺なら大丈夫かな?」


 レベル三百越えているし、エレメンタルが俺の護衛に就いている。

 それに今回はあくまで様子見。

 どんなアイテムがドロップするのかを確認する為に潜るだけだ。

 転移門『ユグドラシル』前でメニューバーを開き、行きたいダンジョンを選択する。


「――転移。アンダーグラウンド」


 転移門の前でそう叫ぶと、俺の身体に蒼い光が宿り、地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』へと転移した。


「……ここが、地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』」


 新しく解放された世界『スヴァルトアールヴヘイム』で初めて入った地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』。

 地下坑道というだけあって、中はとても涼しく地面が少し水で濡れている。


「暗い……うん? 階段があるな……」


 火の上位精霊・フェニックスを光源代わりに先導してもらい、注意しながら石階段を降り進んで行く。


 階段を降りる音と、水滴が地面に落ちる音が耳に響く。

 地下坑道なんて一人で来た事はなかったが中々に不気味だ。


 取り敢えず、マップ機能を表示し、地下坑道内部を進んでいると、少し先の壁に薄汚れた黄金色の塊と銀色の塊がある事に気付く。


 あれ?

 あの形状は……。


「フェニックス……」


 そう呟くと、火の上位精霊・フェニックスはそのまま坑道内を直進し、黄金色の塊と銀色の塊の前を通り過ぎる。

 すると、その瞬間、フェニックスに向かって黄金色の塊と銀色の塊が手を伸ばしてきた。


『フェニックスッ!』と叫び注意喚起しようとするも、勝手に自動迎撃するフェニックス。


 ――ボワッ


 火に包まれ真っ赤に色を染めたその塊は、暫くすると崩れ落ち黒い塵となり消えて行く。塊のあった場所には、金と銀のインゴットが置かれていた。


 なるほど、あの黄金色の塊と銀色の塊は地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』に棲息するモンスターだったらしい。

 大小様々な形の鉱物が人型となり襲いかかってくる所を見ると、ゴーレムとかそんな類いのモンスターだろうか?


 道なりにダンジョンを進み、更に数体ゴーレムタイプのモンスターを倒した所で確信する。


 どうやらこのダンジョンでは、様々な種類のゴーレムが生息しているらしい。

 しかも、出てくるモンスターは金や銀、その他、レアメタルと呼ばれる鉱物でできたゴーレムばかり。


 その事に気付いた俺は天を仰ぎ『ありがとう』と感謝の意を運営に捧げる。


 当然だ。こんなの誰だって感謝の意を捧げたくなるに決まってる。

 何せ、価値ある鉱物をドロップするモンスターが辺りを徘徊しているのだ。

 新しく解放された世界『スヴァルトアールヴヘイム』では価値のない鉱物も、人の住む世界『ミズガルズ』や現実世界では、多大な価値を持つ。


 正に金鉱脈。

 しかも、枯れる事のない金鉱脈だ。


 ゴーレム型のモンスターが落したドロップアイテムをアイテムストレージに納めると、俺は笑みを浮かべる。


 取り敢えず、『金のインゴット』をドロップしたモンスターは、ゴールド・ゴーレム。『銀のインゴット』をドロップしたモンスターはシルバー・ゴーレムとでも名付けておくとしよう。しかし……。


「ドロップアイテムでレアメタルが手に入るなら、ドワーフや『ああああ』達に採掘させる必要はなかったな……」


 人の手が入る以上、時間もコストも掛かる。

 その点、モンスターを倒すだけでインゴット化された金や銀がドロップするならこちらの方が断然効率がいい。

 まあ、ゲーム世界が現実化した今、ドロップアイテムを手に入れられるのは俺か現実世界にログアウトする事のできる美琴ちゃん位のもの……。まあいいか。

 モンスターを倒さなくても、対価の二十パーセントで毎月決まった量のレアメタルが手に入ると考えれば、別に悪い取引という訳でもない。


 このダンジョンでは鉱物資源がドロップする事がわかっただけ御の字だ。

 取り敢えず、今日の所は帰るとするか……。


 メニューバーに表示されている時刻を見れば、もう午後六時を回っている。

 ドワーフ達の対応に時間を取られ過ぎた様だ。

 この地下坑道ダンジョン『アンダーグラウンド』については追々調べていく事にしよう。


「よし。行くか……」


 転移門『ユグドラシル』経由でダンジョンから脱出すると、マイルームに寄ってからゲーム世界をログアウトする。そして、ゲーム世界からログアウトし、無事、新橋大学付属病院の特別室に戻ってきた事を確認すると窓から外に視線を向けた。


「さて、色々なレアメタルをゲットした事だし、折角だから新しい事業でも立ち上げてみるかな……」


 何しろ、俺が生きている間、数十年単位で行う事業だ。

 できる事ならゲーム世界で手に入れたレアメタルを売り捌き、現金に換えるそんな事業を立ち上げたい。


 しかし、その一方で、できるだけ面倒事は負いたくない。

 原価はあってない様な物だし、ここは皆の力を借りるとしよう。


 そう思った俺は、早速、スマホを取ると宝くじ研究会・ピースメーカーの暫定責任書である会田絵未に主要構成員の招集をかけて貰う事にした。


 ◇◆◇


 ここは、新橋駅近くにあるレンタルルーム。

 レンタルルームのある建物の前で待っていると、中から会田さんがやってくるのが見えた。


「お待たせ致しました。皆さん、既に会場でお待ちですよ」

「えっ、もう? 到着するの遅かったかな……?」


 まだ三十分前何だけど……。


「いえ、彼等の到着が早かっただけです。それでは、私について来て下さい」


 会田さん先導の下、レンタルルームに足を踏み入れると、そこには宝くじ研究会・ピースメーカーの主要構成員が並んでいた。


 初めて見る顔ばかりだ。

 恐らく、この人達は会田さんが以前、グループを組んでいたネットワークビジネスグループの一員なのだろう。


「……それで、この方達は?」

「はい。彼等は宝くじ研究会・ピースメーカーの各地域担当です。彼は東日本事業担当の山口清輝君。彼女は西日本事業担当の三宅明日菜さん。そして、もう一人、海外事業担当のロドリゲス・M・コーナー君よ」


 東日本事業担当の黒髪眼鏡、山口清輝。

 西日本事業担当のアホ毛女史、三宅明日菜。

 そして、海外事業担当のもじゃ胸毛、ロドリゲス・M・コーナーか……。


 ――って、いつそんな担当できたの?


 宝くじ研究会・ピースメーカーで事業なんてやってないよね?

 給料も出してないし、宝くじを買いに走らせているだけだよね?

 宝くじを事業としてやっちゃったら税金取られちゃうよ!?

 国に盗られなくてもいい税金取られちゃうんだよ!?


 そんな視線を送ると、会田さんはニコリと笑う。


「……安心して下さい。大丈夫です。宝くじは事業として取り扱っておりません」


 よかった。宝くじは事業として取り扱っていないらしい。

 それなら国に余計な税金を盗られなくて済む。


「――そう。それなら安心だね。それじゃあ、先ほど、電話した件について詳細を詰めようか」


 そう言うと、俺は会田さんに促されるがまま、着席した。

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