第163話 ゲーム内通貨にものを云わせた賃金改革
ここはセントラル王国の王城・宰相室。
カティ宰相、そして財務大臣の命令を受け、徴税官としての任務を果たしたリヒトーは、命令を出した張本人であるカティ宰相に事の顛末について報告をしていた。
「宰相閣下。只今、戻りました」
「……ご苦労様でした。それで?」
徴税官であるリヒトーに報告を求めるカティ宰相。
リヒトーは、直立不動のまま報告を上げる。
「はい。対象の経営する宿を隈なく捜索致しましたが、虚偽・過少申告の証拠を発見する事はできませんでした……」
そう報告するとカティ宰相は髭を撫でながら言う。
「……そうですか。残念ではありますが、構いません。彼が虚偽・過少申告をした事は明白です。これまでは見過ごしておりましたが、定期的に家宅捜索を行う事に致しましょう。次の家宅捜索については折を見て命じます」
「はい。承知致しました」
「それでは、下がってよろしい」
そう告げると、リヒトーは宰相室から去っていく。
扉を閉め、リヒトーの気配が完全に消えたことを確認すると、カティ宰相はほくそ笑む。
「馬鹿め。素直に依頼を受けていればこうはならなかったものを……」
国務を総理するセントラル王国の宰相の権限は多岐に渡る。
それこそ、気に入らない者に徴税官を派遣する事ができる位には……。
徴税官は、税徴収を司る役人。
この役人を動かせるのは国王と宰相、そして財務大臣に限られる。
今回、カティ宰相は、生意気な冒険者であるカケルの気を挫く為に派遣した。
国を敵に回すという事はそういう事だ。
徴税面、その他諸々と、脅迫する手段は如何様にもある。
最悪、犯罪者としてしょっ引くこともできるのだ。
しかし、流石のカティ宰相もそこまでの事はしない。
そんな事をしては今回の一件が傍から見て、報復措置である事がわかってしまう為だ。
当然、犯罪者として捕え、財産を押収することも考えた。
しかし、奴はSランク冒険者。冒険者協会からの反発も考えられる。
冒険者協会には、主にこの国のインフラ面を……。
国中の清掃、汚物の処理、手紙等の受け渡しに至るまで、生活面に係るインフラ面を担当して貰っている。
勿論、セントラル王国側でそういった面のサポートを行おうとしたものの、費用面から断念。現状は冒険者協会に頼りきりの状況だ。
国と冒険者協会は共栄共存。お互いに支え合い共存し繁栄する関係にある。
だからこそ、ちょっと生意気なSランク冒険者がいたとしても、私情を挟み関係を崩す訳にはいかない。
名目上は、奴に問題があってこのような措置を取らざるを得なかったという体にしなければならない。
「……まあ、もう数度、家宅捜索を行えば、冒険者協会の庇護下にある奴も、音を上げる事だろう」
冒険者協会も、Sランク冒険者が脱税をしていた可能性がある為、家宅捜索を受けたという体裁をとれば介入してくる事はない。
「世界を渡るアイテム『ムーブ・ユグドラシル』は冒険者の手に余る。これは、本来、国が管理すべき物なのだ……。あ奴の宿に継続して家宅捜索をすればその内、屈することだろう。それまでの間、私達は彼等の動向を探っていればいい」
そう。これまでと同じ様に……。
Sランク冒険者とはいえ、所詮は力を持ち過ぎただけの、ただの人間。
どれだけ力を持っていようと、個が集団を上回る力を持つ事はあり得ない。
そう言うと、カティ宰相は貯まっていた職務に手を付ける事にした。
◇◆◇
ここはセントラル王国の冒険者協会本部。
セントラル王国に属する冒険者を統括している組織の本丸である。
冒険者協会の仕事は多岐に渡る。
回復薬の作成に欠かす事のできない薬草の採取(以前は初級ダンジョンのモンスターを倒す事で簡単に入手できたが、ゲーム世界が現実化した為、そういう体になっている)。街の掃除。汚物処理場への汚物の運搬。害虫・獣駆除護衛。モンスター討伐及び素材採取。冒険者と名は付いているが、基本的には自由業。フリーランスの傭兵に近い物があり、冒険者協会は、協会に属する冒険者達に対して仕事を斡旋している。
「すいません。依頼をお願いしたいんですけど」
俺こと、カケルは、とある依頼を提出する為、早朝から冒険者協会を訪れていた。
朝一で冒険者協会を訪れた為か、協会内には従業員以外、人が殆どいない。
「依頼の発注ですね。書類を確認させて頂きます」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って、必要書類を手渡すと、受付嬢は数枚書類を確認し目を丸くした。
「……えっ? これは……。本当によろしいのですか?」
「はい。問題ありません。できれば、すぐにでも貼り出して頂きたいのですが……」
「は、はい。勿論、問題ありません。それでは、こちらの掲示依頼を受理させて頂きます……」
俺が冒険者協会に発注した依頼。それは次の通りである。
◆――――――――――――――――――◆
【採用数】無制限
【月収】基本給:40万コル
【昇給の有無】昇給年1回、賞与年2回
【仕事内容】調剤・調理・建築・介護等
【勤務時間】8:00~14:00(内休憩1時間)
【休日】週休2日・有給休暇40日(毎年)
【待遇①】時間外手当・退職金制度
【待遇②】社宅・家賃補助
【備考①】3食おやつ付き
【備考②】日雇い可(日当2万コル)
【備考③】一点ほど採用条件あり(条件を飲んで頂いた方のみ月給+10万コル)
【連絡先】冒険者ランクに関わらず、採用希望の方は、冒険者協会に連絡をお願いします。
◆――――――――――――――――――◆
依頼というより求人情報の掲載に近い内容の掲示依頼。
冒険者協会では、こういった求人広告の掲載も行っていたりする。
求人情報の掲載は本日から六カ月間。一日辺り五百コルで貼り出す事ができる。
ちなみに日雇いで冒険者を雇う場合は普通の依頼扱いになるそうだ。
「そ、それでは、掲示料金と致しまして、九百万コルの支払いをお願い致します」
「はい。九百万コルですね」
アイテムストレージから九百万コルを取り出すと、俺はそれを受付嬢の目の前に置いていく。
「あ、ありがとうございます。それでは確認させて頂きますので少々お待ち下さいませ」
目の前に置かれたコルを数え始める受付嬢。
俺はこの求人情報を五枚貼り出す事にした。
一ヶ月を三十日。六ヶ月の掲示で一枚当たり九万コル。
それぞれ二枚づつ俺が新たに開店した五十拠点に位置する冒険者協会支部に貼り付けるので九百万コルの掲示料金だ。
受付嬢がコルの枚数を確認する事、十数分。
「……確かに九百万コルを受領致しました。本日よりこちらの求人情報を掲載させて頂きます」
「はい。よろしくお願いします。ああ、後、ついでにこの土地と建物を買い取りたいのですが……」
そう言って、売りに出されていた土地と建物を十数件追加で購入すると、俺は冒険者協会を後にした。
冒険者協会を後にし、宿に戻って暫くすると、多くの冒険者が俺の経営する宿『微睡の宿』に集まってくる。
態々、早朝に冒険者協会に行った甲斐があったものだ。
家宅捜索に入られて一週間。様々な土地や建物を買取り周到な準備を進めてきた。
今日、ようやくそれが結実する。
徴税官と兵士によりボロボロに破壊されたエントランスホールは既に直っているが、俺の怒りは収まっていない。
目には目を、歯には歯を……ハンムラビ法典の復讐法の原理に従い報復してやる。
社会的弱者を社会的強者が虐げた事を後悔させてやる。
支配人がエントランスホールに冒険者を集め、俺が購入した各拠点に冒険者の采配していく姿を見て、俺は笑みを浮かべた。
外見上は、ただ冒険者協会に求人情報を掲載しただけ。
かの有名なフランスの王政は、公平な税金を払うのが嫌だという、貴族の我儘な理由が原因で崩壊した。
果たして、国はこの求人情報が生み出すうねりに耐えきれるだろうか?
◇◆◇
俺は王都の格安宿に住むFランク冒険者のルイズ。
今日も朝早く、各家の排泄物を汲み取る為の依頼を受けに冒険者協会にやってきた。
排泄物の汲み取り業務はFランク冒険者の常設依頼。
毎日、セントラル王国の汚物処理責任者指示の下、各家庭から排泄物を汲み取り、排泄物処理場へと運んでいく。
裕福な家庭では、トイレにスライムを飼っており、排泄物の汲み取り作業は必要としないが、ある程度、スライムが成長すると、冒険者による措置も必要となってくる。
とはいえ、そんな裕福な家庭のスライムに対する措置は半年一回あればいい。
大体の家庭では、トイレは汲み取り式で、誰かがそれを排泄物処理場に運ぶ必要がある。
本来、国が率先して行うべき仕事だと思うが、数十年もの間、冒険者協会に属する低ランク冒険者がそれを担っていた為か、今となっては、モンスターを倒す勇気のない冒険者の仕事となっていた。
排泄物の汲み取りを送る毎日。身体に汚臭が染み付いて嫌になる。
低ランク冒険者でも稼げる依頼は無いだろうか?
いや、無いだろうな……諦めにも似た感情で依頼票を確認する。
すると、そこには、超高額依頼が貼り出されていた。
「ひ、日雇いで、日当二万コルっ!?」
正式採用されれば、月々四十万コルが保障されている求人情報。しかも、残業代あり。
退職金についてはよくわからないけど、冒険者協会の受付嬢さんの説明で、住んでいる宿の家賃を補助してくれる事や三食おやつ付きで食事が支給される事はよくわかった。
誰もやりたがらない排泄物の汲み取り。これにより貰える賃金は一日辺り三千コル。
しかし、この求人情報に書かれている日当は二万コル。しかも、排泄物の汲み取りなんて汚く、やりたくもない仕事をやらずに済んでその報酬である。
これを見た瞬間、俺は、知らず知らずの内に、求人情報を掲示板から剥がしていた。
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