第150話 上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』①

「さて、やってきましたリージョン帝国!」


 いや、リージョン帝国に来たのは久しぶりだ。

 緊急クエスト『モンスター迎撃戦』以来の来訪である。

 いやあ、あの時は、一杯、捕虜とアイテムをゲットしたっけ。懐かしいな。


 あの時は、エレメンタル達の力を如何なく発揮して侵攻したから、滅茶苦茶早く着くことができたけど、今回、馬車だったからな。

 俺と王太子殿下はキャンピングカーの移動だったけど。休みながらの移動だったから到着するのに数日もかかってしまった。

 いやー、しかし、流石は王太子殿下。

 まさか、部下が用意してくれたテントで寝る事を断固拒否し、俺の寝床(キャンピングカーに設置したベッド)に陣取るとは思いもしなかった。

 ゲームの世界だとはいえ、流石は王族だ。

 普段であれば、「何言ってんだ馬鹿」と言って外に放り出す所だが、王太子殿下は仮にも客人。仕方がなく寝る場所を譲って差し上げることにした。


 えっ?

 俺はどこで寝たんだって?

 そんなの決まっているだろ。ログアウトして病院の特別個室で寝たんだよ。


 確かに、王太子殿下も言っていたよ?

 こんなに広いベッドなんだ一緒に寝ればいいじゃないかと。

 馬鹿を言うな普通に嫌だよ。なんで俺が野郎と一緒のベッドで寝なきゃいけないんだ。王女様であったならまだしも、寝る訳ねーだろっ!


 それに俺、空調の聞いた特別個室じゃないと寝られない質なんだ。

 テントで寝ると嘯いて、現実世界に戻ってきてやったよ。

 ふうー、肩が凝った。まさか、徐行で隣国に行く事になるなんて思いもしなかった。

 お蔭で体が凝り固まってしまった。


 凝り固まった体をどうしたかって?

 そんな野暮な事を聞くなよ。決まっているだろ。

 ほぐして貰ったよ。

 コンシェルジュさんが呼んだ出張マッサージ(エロくない方)のセラピストさんに……。お蔭で、溜まりに溜まった疲れが吹き飛んだ。まあ、いいお値段はしたけどな。

 えっ?

 何で別(エロい方)の出張マッサージを呼ばなかったのかって?

 病院の特別個室に呼べる訳ねーだろっ!

 考えろ、その位っ!


「さて、そろそろだな……」


 王太子殿下と協会長は、リージョン帝国のお偉いさんと、上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』の件で打合せの為、帝国城に向かった。

 二時間経ったから、そろそろ帰ってくる筈だ。

 事前打ち合わせはここに来る前に何度もしていたし、今回の主役は、転移組と冷蔵庫組の面々。

 俺達は転移組と冷蔵庫組について行くだけでいい。


 キャンピングカーから降り、アイテムストレージに収納すると、転移門『ユグドラシル』のある広場へ向かう。

 広場に向かうと、隷属の首輪を付けた『ああああ』達の姿があった。


「よしよし……あいつ等、ちゃんと装備・・しているな」


 どうやら、転移組と冷蔵庫組は『ああああ』達を前面に押し出し、上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』を攻略する様だ。


『ああああ』達の装備している呪いの装備の性能を知っていれば、当然そうなる。

 想定外だったのは、思いの外、『ドラゴンクレイ』に挑む冒険者と組員が多いという事だ。てっきり、『ああああ』達を連れた少数精鋭で攻略に挑むと思っていた。

 とはいえ、想定外ではあるが、悪い事ではない。


「お待たせ致しました」


 一人ほくそ笑んでいると、冒険者と組員が一斉に転移門『ユグドラシル』へ視線を向ける。どうやらリージョン帝国との打ち合わせが終わったらしい。


 転移門『ユグドラシル』の前に、王太子殿下と協会長、そして、リージョン帝国の帝王が立っている。


「それでは、これよりリージョン帝国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』の攻略を行う。転移組と冷蔵庫組のトップよ。前に……」


 そう厳かな声で話すのはリージョン帝国の帝王様。

 帝王様の言葉に頷くと、転移組と冷蔵庫組の責任者が前に出る。

 転移組の責任者は当然、リーダーのフィア。冷蔵庫組からはリフリ・ジレイターが出てきた。

 二人共、もの凄くいい笑顔をしている。

 楽しそうに演説しているし、もしかしたら、既に攻略した気でいるかもしれない。

 リフリ・ジレイターの演説が終わると


「……聞いての通り、我が国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』は、ここにいる転移組と冷蔵庫組が攻略する。それでは、転移組のリーダー・フィアに冷蔵庫組の若頭・リフリ・ジレイター、頼んだぞ」

「「はい」」


 二人がそう返事をすると、拍手喝さいが巻き起こる。

 すべて、転移組と冷蔵庫組の組員によるものだ。


「――それでは、行くぞっ! 転移。ドラゴンクレイ!」

「「「転移。ドラゴンクレイ」」」


 転移門『ユグドラシル』の前でそう声を上げると、転移組のリーダー・フィアを始めとしたプレイヤー達の身体に蒼い光が宿り、上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』へと転移していく。


「――ふふっ、それでは、私達も行きますよ。転移。ドラゴンクレイ」

「「「はい! 転移。ドラゴンクレイ」」」


 冷蔵庫組も転移組に負けじとドラゴンクレイに転移していった。

 さて、俺もそろそろ行くとするか。


「――爺、それじゃあ行くぞ。転移。ドラゴンクレイ」

「ああ、転移。ドラゴンクレイ」


 そう言って、上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』に転移する俺と協会長。


 えっ?

 王太子殿下と帝王様は上級ダンジョン攻略の監視に向かわないのかって?

 当たり前だろ。万が一があったらどうするんだ。

 そもそも、こういう仕事は俺達みたいな下々の人間がやる事なんだよ。

 最上級国民がやるべき事じゃないの。

 考えても見ろ。天皇陛下や大統領が判定員見たいな事をすると思うか?

 しかも危険が伴う場所に行っての判定員だ。そんな事する訳ないだろ。

 最上級国民である王太子殿下の役割は国も上級ダンジョン攻略に関わっていますよと喧伝する事にある。

 だから冒険者協会の協会長がそれ以外の汚れ仕事を代わりにやるの。

 Sランク冒険者である俺を護衛に付けて。

 ちなみに他のAランク冒険者達は王太子殿下の護衛としてここに残る手筈となっている。


 そんなに大勢で行っても足手纏いが増えるだけだからだ。

 それに、この爺は、こんなでも協会長も立派な元Sランク冒険者。


 リージョン帝国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』は、ドラゴン型モンスターの住む広大な浮遊大陸型のダンジョン。

『ドラゴンクレイ』に転移すると帝都の喧騒は消え去り、代わりにドラゴン型モンスターの咆哮が聞こえてくる。


 先に転移した転移組と冷蔵庫組に視線を向けると、双方共に『ああああ』達を前面に押し出し、ダンジョン攻略を始めていた。


「さあ、お前達っ! 前に進めっ!」

「あなた達、前にお進みなさい」


 転移組のリーダー・フィアと、冷蔵庫組の若頭・リフリ・ジレイターの声に、嫌々ながらダンジョン攻略を始める『ああああ』達。


 上を見ると、かなり上空をドラゴン型モンスターが飛行している。


 さて、まずは様子見だ。

 今、ここで俺にできる事は無い。


 事前に打ち合わせた通り、『ああああ』達は『命名神の怒り』の効果で無理矢理、『ドラゴンクレイ』を進攻すると、『ああああ』が突然、「『命名神の悲劇』っ!!」と叫び、浮遊大陸に無数の隕石を落としていく。


 隕石により爆散する浮遊大陸。

 それに巻き込まれ、墜落してくるドラゴン型モンスター。


 流石は現実世界と化したゲーム世界。

 もう滅茶苦茶だ。

 ゲームではできなかった事が、現実となったゲーム世界ではまったく問題なく実現する事ができる。例えるなら、グランド・セフト・オート・バ○スシティ。

 なんでも破壊できる。何でもありの世界だ。


 転移組と冷蔵庫組の連中が皆引いている。

 とんでもない奴等を引き入れてしまったとでも思っているのだろう。

 だが、当然それだけでは終わらない。


「「「『命名神の嘆き』」」」


 突然、落下してきたドラゴン型モンスターの出現に慌てた『ああああ』達が落下してくるのを確認した瞬間、HPを犠牲にしてドラゴン型モンスターを灰にしたのだ。


 突然発生した黒い雷に転移組と冷蔵庫組の面々は唖然としている。

 まあ、その気持ちはわからんでもない。


 と、いうより、『ああああ』達が強過ぎる。先ほどから『ああああ』達の無双が止まらない。

 しかし、俺にとっては好都合。

『ああああ』達は転移組と冷蔵庫組の面々を引き連れどんどん『ドラゴンクレイ』を進んで行くと、ある階層を半分進んだ時点で侵攻を止めた。。


「おや、何故、侵攻を止めたのですか?」

「ああ、まったくだっ! さっさと、先に進め奴隷共っ!」


 今、俺達がいる場所は、『ドラゴンクレイ』の四階層目。

『ドラゴンクレイ』の五階層目には、このダンジョンのボスモンスター・ダイヤモンド・ドラゴンが鎮座している。

 つまり、この五階層目を攻略すれば、特別ダンジョン『ユミル』が出現し、それを攻略すれば『新しい世界』が現れるという事だ。


 転移組のリーダーと冷蔵庫組の若頭が口々にそう言うと、『ああああ』達は、揃って上に視線を向ける。


 すると、上空からダイヤモンド・ドラゴンの亜種……。いや、レアボスモンスター・ロンズデーライト・ドラゴンが降ってくるのが見えた。


 ロンズデーライト・ドラゴンは、ドラゴンクレイに棲息する中ボス。

 白いドラゴンの姿をしたボスモンスターである。


 そして、ロンズデーライト・ドラゴンがこちらに向かってくる事を確認した『ああああ』達は課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』を装着した腕を前にして呟く。


「「「転移。セントラル王国」」」と……。


 その瞬間、その場から姿を消す『ああああ』達。


 隷属の首輪を付けた奴隷だから何も出来まいと侮っていたのだろう。

 転移組のリーダー・フィアと、冷蔵庫組の若頭・リフリ・ジレイターが思い切り目を剥く。


「「――はっ? はああああっ!?」」

「なっ!? い、一体何が起こったっ!?」


 隣にいる冒険者協会の協会長もテンパっている。

 流石は爺、良い反応をしてくれる。

 そんな爺の横で俺はほくそ笑む。

 計画通り……と。


「協会長。俺の側から決して離れないで下さいね?」


 この場面で離れられると、本気で協会長が死にかねない。

 ロンズデーライト・ドラゴンは、ボスモンスターであるダイヤモンド・ドラゴンの亜種だ。つまり、ボスモンスタークラスの力を持っている。

 まあそれ以外は死んでくれても構わないんだけど……。


『グオオオオォォォォ!!』


 唖然とした表情を浮かべる転移組と冷蔵庫組。

 ロンズデーライト・ドラゴンは地表に降り立つと、大きな雄叫びを上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る