第130話 初めての合コン②

「えっ? そうなの?」


 俺は、瞬時に思考を放棄した。

 初めて知った。現実世界ではそんな事になってるのか。

 確かに、言われてみれば、俺と美琴ちゃん以外、ゲーム世界からログアウトできない様子だった。

 もしログアウトできるなら、彼等もさっさとログアウトし、現実世界での暮らしを謳歌している事だろう。

 ハイボールを口にし、そんな事を考えていると、チャラ男君が話しかけてくる。


「そうなんですよ。実は、俺、連絡が急に取れなくなった人がいて……。ルートって言うんだけど」

「そうなんですか……」


 ルート?

 何だか聞いた事がある名前だな……。しかし、俺にはどうでもいい名前だ。

 心配している所、悪いけど、多分、チャラ男君の知り合いはゲーム世界で一大組織を築き上げ、パリピってると思うよ。多分。知らんけど……。


「それは心配ですね……。まあ折角の合コンですし、その話は置いておきましょうか。それより、あのリラ○クマのぬいぐるみ、どうやってゲットしたんですか? 正直、滅茶苦茶凄くない?」

「えー、確かに気になるー!」


 そう言って、女性達を巻き込みチャラ男君を褒めてやると、ルートの事はどうでも良くなったのか、チャラ男君は気分を良くして、クレーンゲームに付いて話し始めた。

 俺もよくゲーセンのクレーンゲームに興じているから実は興味津々だ。

 話題を逸らしたかったから、クレーンゲームについて聞いた訳では決してない。


 俺は、三人のグラスを確認すると、ただ一人、タブレットでハイボールを注文し、笑顔でチャラ男君の会話に混じる。


「実はさ、クレーンゲームで景品が残り一個や二個になっている台あるでしょ? 背後に一杯景品が展示されていて、如何にも、この景品が取られたら、次はこの景品を出しますって奴。あれって、チャンス台なんだ! 店側も次の景品を出したいから普通よりも取りやすくなっているんだよ」

「へえ~そうなんだっ! 尾高君すごーい!」


「そう言ってくれると嬉しいな。実はさ、つい先日、ゲームセンターでサッカーボール二十個ゲットしたんだ。そのクレーンゲーム、三本爪でさ、サッカーボール敷き詰めるだけ下に敷き詰めて、ぬいぐるみ一個を景品として乗せていたんだっ! ビックリだよねっ!」


 ああ、ビックリするよ。

 お前、水を得た魚かよ。ここまでクレーンゲームの話しかしてないよ。


「……そのサッカーボールだけど、ネットしてなかったんだ。それで、もしかしてと思いやって見たら一発でサッカーボールが取れたんだよ」


 可哀相に、そのゲームセンターの店員さん。

 まさかそんな攻略法で一個八百円当たりの景品を取られるとは思っても見なかっただろう。大学時代、楽市○座というゲームセンターでアルバイトしていたからわかる。

 マジで可哀相だ。多分、店長、激オコだよ。激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだよ。


「まあ、サッカーボールが二十個も取っちゃったからか、車に景品乗せに行っている間に、調整入れられちゃたけどね」


 まあ、そうだろうね?

 そうなるよ。普通……。

 だって、店員さんも想定外の乱獲をされたんだもの。

 多分、構えて待っていたと思うよ?

 尾高君が両替に走るか、景品持ってどっか行くのを……。


 そんな事を考えていると、BOX席の戸を軽く叩く音が聞こえ、料理とハイボールを持った店員さんが入ってくる。


「お待たせしました。こちらハイボールと、マグロユッケカルパッチョ。そして、京豆腐の金ゴマサラダになります」


 いい具合に横やりが入りリセットされる空気。

 あれ、俺、何しに来たんだっけ?

 今の所、クレーンゲーム談義しか聞いていない気がする。

 店員さんが部屋から去ったのを確認すると、俺は、取り皿を取り、皆に料理を配膳しつつも話題を変えた。


「そういえば、美空さん。呪○廻戦0見に行ったんでしたよね? どうでした? 実は俺、まだ見てないんですよね」


 とりあえず、声優さんがエヴァの碇シ○ジ役の人と言う事しか知らない。

 そう尋ねると、美空さんがまさかの熱弁を始めた。


「え~! 見なきゃ勿体ないですよ! 呪○廻戦0を解り易く説明するなら、ちょっとだけ社交的でポジティブ思考な碇シ○ジ君が、かなりブラックで実践を重視するホグワ○ツに入学する様な話かな? 主人公の声優さん、緒方○美さんの声が素敵で、乙○君の内向的で自己の存在理由を自問自答をする性格もシ○ジ君にかなり似てて、リカちゃんなんてヤンデレ加減が吹っ切れてて最高なんですから!」


 いや、それどんなシ○ジ君っ?

 シ○ジ君そんなキャラじゃねーよ!

『逃げちゃ駄目だ』を連呼しているそんなキャラクターだよ。想像つかないよ?


 つーか、そんなネタバレしていいのっ?

 聞いたのは俺だけれどもっ!?


「そ、そうなんですか~今度見に行ってこようかな? あははははっ……。あっ! そういえば、俺、投資にもハマっているんですよね。会田さん、なんかいい投資先あります?」


 まあ、俺のやってる投資は宝くじの購入だから深くツッコまれたらアレだけど……。

 確か、会田さんの趣味は投資だった筈。何の投資をやっているかは不明だが、とりあえず話を振っておこう。

 適当に話を振って場を盛り上げないとお通夜みたいな、黙食でもしているかの様な合コンになってしまう。


「えっ? 高橋さん、投資に興味があるんですか?」

「はい。もちろんです」


 投資とは、利益を見込んで自己資金を投じること。投資した金額以上のお金が確実に戻ってくる投資には興味がある。


 すると、会田さんが目を輝かせた。


「そうなんですか! 私、友達に勧められて投資を始めたんです。そうしたら、思いの外、儲ける事ができてしまって、数年前から会社を辞めて独立したんです」

「へえ、独立って事は開業したの? 会田さん凄いね」


 これには隣に座っていたチャラ男君も興味津々の様だ。チャラ男君が話に割って入ってきた。


「そうなの、先月の収入は百万円だったかな?」

「えっ! 会田さん、そんなに稼いでいるのっ!? すごーい!」


 会田さんが収入を暴露すると、隣に座っていた美空さんまで会話に加わってくる。


 しまった……。

 話の振り方を完全に間違えてしまった様だ。

 場の雰囲気が合コンから投資セミナーの様な空気に変わってしまった。

 しかし、話を振ってしまった以上、話を聞かない訳にはいかない。


 チャラ男君に至っては、養って欲しそうな顔をしている。


「ねえねえ、投資って具体的に何をするの? 折角だし教えてよ」


 何が折角なのだかよくわからないが、今度はチャラ男君が金欲しそうな目でそう尋ねた。


「う~ん。ここでは教えられないかなぁ?」

「なんだよ~別にいいじゃん。少しだけ、少しだけでいいからさ!」


 チャラ男君必死だな。借金でもあるのだろうか?

 それとも会田さんのヒモになりたいのだろうか?

 そんな事を考えていると、会田さんが代替案を提示する。


「それじゃあ、今週の土曜日、知り合いの家でボードゲームをやるんだけど、尾高君も参加する? そこでなら教えてあげてもいいよ!」

「えっ? いいの? 行く行く!」


 中々、大胆な誘い方だ。

 会田さん、チャラ男君を一本釣りしたよ。


「え~、ずる~い。私も行きたい~」


 すると、チャラ男君の真正面に座っていた美空さんもチャラ男君の話に乗っかった。

 この二人、ノリがいいな……。

 美空さんチャラ男君と気が合うんじゃないだろうか?

 美空さん、チャラ男君の事をロックオンしてるし……。

 片手間で話を聞き、カルパッチョを箸で摘まみ口に運ぶと、それをハイボールで流し込む。


 ふう。美味い。


 しかし、これが合コンか。なんか思っていたのとだいぶ違うな……。


 一人だけ話に加わらないのもどうかと思い、俺も会田さんの話に乗っかる事にした。


「それで、会田さん。ボードゲームって何をやるの?」


 何気なくそう聞くと、会田さんが少しだけ苦い表情を浮かべた。


 あれ? 俺、何か聞いちゃまずいこと言ったっけ?


 すると、会田さんは言葉を選ぶようにこう言った。


「う~ん。ボードゲームって言っても色々あるけど、簡単に言えば、人生ゲームみたいなものかな? お酒とか飲みながら皆でゲームするんだけど、とっても楽しいんだよ?」

「へえ、人生ゲームか……」


 俺も子供の頃、よくやったな。

『人生最大の賭け』に失敗してよく開拓地に行ったものだ。


 それにしても凄いな、会田さん。

 知り合いの家で人生ゲームするのか。


「もしよかったら、高橋君も参加しない? お酒を飲みながらボードゲームをするのって結構楽しいんだよ?」

「うーん。どうしようかなぁ……」


 正直言って面倒臭い。

 何故、折角の休日を丸々一日潰してボードゲームに興じなければいけないのだろうか。

 無職だし、毎日休日見たいなものだが、誰とも知らない人達と楽しくボードゲームできると思えない。

 酒を飲むなら一人で飲むか気心の知れた友人と飲むのが一番である。

 どう返答したものかと迷っていると、会田さんが安心させる様に声をかけてきた。


「大丈夫。私の知り合いは皆、フレンドリーなんだから、それに可愛い子も一杯参加する予定だよ?」

「行きます」


 そうだ。よく考えても見ろ。

 俺は何をしに合コンに参加しているんだ。

 彼女を作る為だろ。その彼女を作る機会が向こう側からやってきたんだ。

 折角やってきたこの機会、逃すのはあまりに惜しい。


 俺がそう返事をすると、会田さんがサングリアのグラスを片手に持つ。


「それじゃあ、今週、土曜日の午後一時。六本木駅に集まりましょう。あっ、そうだ。皆、連絡先を交換しない?」

「うん。そうしよう!」


 チャラ男君がやけに乗り気だ。

 さてはチャラ男君。会田さんに惚れたな?

 美空さんは美空さんでひたすらチャラ男君を凝視している。


 俺の知らない所で恋のトライアングルが形成されていたようだ。

 なお、俺はそのトライアングルに入っていない。

 今、俺の頭の中には、この合コンを無事乗り切る事しか頭にないからだ。

 チャラ男君みたいにガツガツいって引かれるのも嫌だという思惑もある。

 こんなにもあからさまに、ガツガツ行って引かれないのはチャラ男君がイケメンだからだ。

 ブサメンがガツガツ行っても引かれるだけ。まあ俺はブサメンじゃないけど……。

 そんなこんなで合コンはつつがなく終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る