第129話 初めての合コン①

 ゲーム世界と現実世界との行き来は、俺が経営する宿で行うよう美琴ちゃんに忠告した俺は、一度、現実世界に戻る事にした。

 何故、戻る事にしたのか。それは、彼女を作る為だ。

 彼女いない歴二十三年。男友達とつるんでいるのも楽しいが、そろそろ彼女が欲しくなってきた。


 クソ兄貴が結婚した事で、父さんと母さんから早く結婚しろとのマリッジハラスメントめいた催促のLINEも来ている。

 正直、結婚を考えるには早すぎる気がしないでもないが、それも彼女を作ってからでないと始まらない。


「とりあえず、合コンサイトにでも登録して見るか……」


 ネットで『合コン』と検索すると、某出会いポータルサイトがトップに表示された。

 クリックし、今、開催されている合コン・コンパイベントを検索していく。

 すると、様々な企画の合コンパーティーが開催されていた。


「へえ、こんなのあるんだ……」


 なになに……『平成生まれ限定恋活』に『昼飲みクラフトビール恋活』『Z世代参加限定恋活』か……。なんだかよく解らないが、なんか凄いという事だけはよく解った。そして、そのすべての合コンの参加費用が異様に高い。


 女性千円。男性七千円って……。男女格差凄いな……。

 いや、医者や高収入の男性限定合コンだと、逆に女性の合コン参加費用の方が高い……?


 とはいえ、今の俺は無職……。

 いや、BAコンサルティングの大株主且つ、宝くじで儲けているから投資家かな?

 宝くじは毎週買っているから年収換算で軽く百億円以上を稼ぐ事は確実。既に六十億円もの金が銀行に振り込まれている。


 とはいえ、素直にこの年収を晒して、変な女が寄ってきても困るのも確か。

 とりあえず、BAコンサルティングに勤める年収四百万円の社員という事にしておこう。年収は異なるが、ある意味、嘘ではない。


「これでいいか……」


 合コンし後に登録した俺は、とりあえず、当日開催の『平成生まれ限定恋活』という奴に参加して見る事にした。

 クレジットカード支払いで合コン費用七千円を支払うと、身なりを整え、合コンの開催される店舗に足を運んだ。


「ここか……」


 メールに書かれた合コンの開催場所は、それなりにオシャレな居酒屋だった。

 と、いうより前に大学の友達と来た事がある。新宿駅近くにある創作料理居酒屋。

 階段で二階に上がり、店員さんに「午後七時から藤崎で予約している者ですが……」と伝える。ちなみに藤崎と言うのは、メールに書かれていた幹事らしき人の名前だ。


「はい。午後七時にご予約の藤崎様ですね。こちらへどうぞ」


 そう言って、案内されたのは掘りコタツ式のBOX席。


「こちらでお待ち下さい」

「あっ、はい……」


 そう言われ、端の席に座るも、BOX席には誰もいない。

 合コン開始、十分前……。まさかの一番乗りである。


 どうしよう。合コンが楽しみ過ぎで一番乗りで来ちゃった奴認定されたら……。

 顔から火が出そうだ。

 とりあえず、どんな飲み放題メニューがあるのか確認し、適当にスマートフォンでニュースを確認していると、戸をノックする音が聞こえてきた。


 今の時刻は午後七時丁度。

 知らなかった。合コンって、開始時刻ピッタリに来るのが正解だったのか……。

 こんな事なら俺も時間ピッタリに来るんだったと少し後悔していると、店員さんに案内されてきた女性が荷物を後ろに置き座りながら挨拶をしてくる。


「「こんにちはぁ~」」

「初めまして~」


 BOX席に入ってきたのは女性二人に男性一人。

 メールには、参加人数四名と書いてあったから、これで全員揃った計算だ。

 女性二人は知り合いっぽい雰囲気を出している。もしかしたら、友達同士で合コンに参加したのかも知れない。

 女性と共に来た男性は、ちょっと、チャラい感じだ。


「こんにちは、全員揃ったみたいなので、始めましょうか。皆さん、何飲みます?」


 そう言って、飲み放題メニューをテーブルの真ん中に持っていく。


「そうだな……。俺はハイボールにしようかな」

「私は、サングリア」

「私も~」

「俺も、ハイボールにしようかな?」

「それじゃあ、注文しちゃいますね~?」


 そう言って、タッチパネルでお酒を注文すると、数分しない内に、店員さんがお酒とお通しを運んでくる。


「お待たせ致しました。こちらがハイボールとサングリアになります。あと、こちらお通しですね……」

「あ、ありがとうございます!」


 お通しでとろろマグロが出てきた。

 どうやら、ここの居酒屋は当たりの様だ。


「それでは、全員集まった様ですので、コース料理の方を出させて頂きますね」


 酒とお通しが全員に渡った所で、店員さんがそう言って立ち上がりBOX席の戸を閉じる。店員さんが戸を閉じてから一瞬、気まずい空気が流れた。

 俺を含めた、ここにいる四人は、全員が初対面。まあ、目の前の女性二人はわからないけど……。気まずい空気を打ち消すように俺は、ハイボール片手に音頭を取る。


「そ、それじゃあ、お酒も行き渡った見たいですし、とりあえず、乾杯しましょうか」

「そうですね」

「それでは、かんぱーい!」


 気丈に振る舞いグラスの淵を合わせ音を鳴らすと、俺はハイボールを呷るように飲み込んだ。

 駄目だ。余りに耐性が無さ過ぎる。何だこの不思議空間。

 知らない女性二人に、知らない男性一人。そして、俺。

 これが合コンか? これが合コンなのか??


 とりあえず、素面ではいられない。

 合コン初参加者として、何とかこの時間を乗り切らなければ……。


 隣に座る女性馴れしていそうなチャラそうな男性も、顔を真っ赤にして女性を直視できずにいるみたいだ。

 こんなにチャラそうなのに初心とかどんな人生を送ってきたのだろうか。

 この場にいるという事は、少なくとも二十二歳以上の筈だが……。


 いや、今はそんな事、どうでもいい。何だこのドキドキ感は……。

 早くハイボールを飲んで脳を麻痺させなければ……。

 今日は、とりあえず、次にもっといい合コンができるようにする為の練習を位置付けよう。

 一球入魂ではなく、どれだけ数を熟すかが肝要だと、どこかのブログに書いてあった。

 合コンで大切なのは、一人を狙うよりも全体を盛り上げる事。

 木を見て、森を見ず……。ここは新しく入ってきた社員と初めて交流を持つかの様な、一線引いた態度で臨もう。

 そもそも、俺はそんなタイプの人間じゃないし、楽しく合コンを盛り上げよう。

 そんでもって、こんな自分に少しでも興味を持ってくれるありがたい心意気の女性を大切にしよう。

 いや、まだ合コン始まったばかりなんだけれども……。


 その為にもまずはお酒だ。

 お酒を飲む事により羞恥心を薄れさせ、解放的な気分になり楽しい気分にさせる。

 自発的にお酒をバンバン飲んで楽しい人に興じよう。

 言わばこれは接待だ。接待プレイだ。


 憂鬱だった取引先との飲み会でも、酒を飲む事で乗り切ってきたじゃないか!

 まあ、気付いたらアパホテルの一室で寝てたけど。次の日会社で大変だったけれども!


 とりあえず今日は、接待に興じる。取引先の令嬢二人と、取引先の男性一人に楽しんで貰う為のピエロを演じる。それしかない……。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。お酒も回ったみたいだし、ここは時計回りに名前と年齢、趣味や出身地辺りを紹介していきませんか?」


 ハイボールのグラス片手に、そう提案すると、対面に座る女性が話に乗っかってきた。


「そうですね。そうしましょうか! それじゃあ、最初は誰から自己紹介する?」

「それじゃあ、俺から!」


 そう言って、手を挙げたのは俺の隣りに座るチャラい男性。

 とりあえず、コイツの事は当分の間、チャラ男君という事にしておこう。


 チャラ男君は、そう言うと自己紹介を始める。


「えーっと、尾高一生、二十三歳。青梅市出身です。最近、ハマっているのは、ゲームセンターのクレーンゲーム。実はここに来る前もクレーンゲームで景品を取ってました。本日はよろしくお願いします!」


 おお、流石はチャラ男。何だかこなれた自己紹介だな。

 よく見れば、後ろにリ○ックマの特大サイズのぬいぐるみが二体も置いてある。

 おいおい……。中々やるな。どうやって取ったんだ、それ。


 そんな事を考えていると、女性の一人が反応する。


「え~っ、すごーい! どうやって、そのぬいぐるみ手に入れたの~!?」

「いや、偶々、運が良かっただけだよ~。もしよければ、これいる? 実は、家にまだ二体あるんだ!」


 いや、だったらなんで、そのリ○ックマ、合コン前に二体取ってきたんだよ!?

 こ、このチャラ男。絶対にリ○ックマプレゼントする気で二体取ってきただろっ!

 策士。策士だよコイツ……。

 絶対、合コン初心者じゃねーだろ!

 何だか裏切られた気分だ。


「それじゃあ、次は私ね。美空恵梨香。練馬出身の二十三歳でーす。趣味は、映画鑑賞です。最近だと呪○廻戦0を見に行きました。よろしくお願いしまーす」


 チャラ男君の目の前に座っている女性の名前は、美空恵梨香と言うらしい。

 チャラ男君に貰ったリ○ックマの人形を大事そうに抱きしめながらの自己紹介。

 もうこの子は、チャラ男君とくっ付いてもいいんじゃないだろうか?

 そんな事を考えていると、美空さんの隣りに座っている女性が自己紹介を始める。


「会田絵未。市川市出身の二十三歳です。趣味は……えーっと、投資かな? よろしくお願いします」


 俺の目の前に座っている女性の名前は、会田絵未と言うらしい。

 つーか、凄いな。募集要項が二十二歳から二十八歳までの合コンだったのに、ここに集まった全員が二十三歳の同い年か。

 いや、そんな事を考えている場合じゃない。


 三人の視線が俺に突き刺さっている。


「えーっと、それじゃあ、俺も自己紹介を……。高橋翔、西葛西出身の二十三歳です。趣味は、VRMMOをやる事。よろしくお願いします」


 全員、自己紹介を終えると、チャラ男君が俺に尋ねてくる。


「高橋さんは、どんなVRMMOをやっているんですか?」

「えっと、Different Worldっていうフルダイブ型VRMMOをやってるんだけど、知ってる?」


 そう答えると、チャラ男君は唖然とした表情を浮かべた。


「えっ? Different Worldって、まだログインする事ができるんですか? 最近、Different Worldをしていたプレイヤーが軒並み行方不明になっているってニュースでやっていたような気がしたんだけど……」


 それを聞いた瞬間、俺も唖然とした表情を浮かべた。

 どうやら、回ってはいけない脳の最深部まで酒が回っていたらしい。

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