第127話 と、いう事で介入する事にしましたw

「という事で、はい! もういっその事、俺が介入する事にしました~」


 ゲーム世界からログアウトした俺が向かった場所、それは吉岡美琴の母方の実家の前だ。

 美琴ちゃんには、安全の為、『エレメンタル獲得チケット』を二枚と『エレメンタル強化チケット』を強化上限一杯まで渡し、エレメンタルという名の最強の護衛を付け、ついでに宿の警備をしてくれている元Sランク冒険者のレイネルにもボディーガードに就いて貰っている。


「それにしても、凄い事になってるな……」


 家の外壁にスプレーで斜めに書かれた『放火魔の家』というパワーワード。

 割られた窓に、内側からダンボールとガムテープで補強された窓。

 割れた窓の向こう側から電話がひっきりなしに鳴り、庭には、ごみ袋が積み上がり、車は廃車寸前までボコボコにされている。


 まるで加害者に人権はないと言わんばかりの所業だ。人の業の深さを感じる。

 こんな事を平気でやる様な人間はもはや人間じゃない。

 ただの獣だ。住宅街に現れた猿や熊と何ら変わらない。


 むしろ、こんな事を平気でやる事ができる獣が町に住んでいるというだけで、ゾッとする。


 と、いう事で、害獣駆除をする事にしました。

 だって、ここ俺の実家の近くだし、そんな犯罪者予備軍みたいな獣が住んでいると考えるだけで気持ちが悪い。害獣に人権はありません。

 つーか、美琴ちゃんの母方の実家が俺の実家の近くにあった事に驚きだ。


「さてと、まずはどうするかな……」


 美琴ちゃんの母方の実家に視線を向ける。

 辺りが暗くなってくるにつれて、不気味さが増してきた。


「とりあえず、家と車を元に戻すか……。クロノス、この家と庭、車と散らばったゴミの時を戻して上げて……。シェイドは電話回線を乗っ取って、悪戯電話してくる暇人を廃人に追い込んで」


 新たに獲得した時の精霊クロノス、そして、闇の精霊シェイドにそう命じると、クロノスが家と庭、車と散らばったゴミの時を戻し、悲惨な状態になる前に戻していく。


 散らばったゴミの時を戻したらどうなるか未知数だったが、意外な事に綺麗サッパリその場から無くなってくれた。

 おそらく、人の家の庭に生ゴミを散らかすという鴉の様な真似をしてくれた獣のお宅にそのゴミは戻っていったのだろう。

 シェイドも上手い事、動いてくれたようで、電話もピタリと止んだ。

 今頃、興味本位で悪戯電話をかけた暇人共は、闇の精霊ジェイドの精神攻撃を電話越しに受け廃人に追い込まれている頃だろう。


 悪戯電話という名の精神攻撃をかけようとしたんだ。悪戯電話をする側も精神攻撃を受ける覚悟を持つべきである。


「あとは……」


 美琴ちゃんの許可を取って、家の前にビデオカメラと、悪戯した人を捕獲し警察に突き出す為のエレメンタルを配置して待つだけだ。

 エレメンタルがマスコミだと判断した場合、カメラとついでにスマートフォンを破壊する許可も出しておく。


「これでよしと……。それじゃあ、クロノスは俺について来て、ジェイドとシルフはここで待機。獣の捕獲をお願いね」


 闇の精霊ジェイドと風の精霊シルフはピカピカ光ると、指示した配置につき、獣の捕獲に動く。


「あとは、学校か……」


 アイテムストレージから『隠密マント』を取り出し姿を隠すと、俺は美琴ちゃんの通う学校に向かった。


 学校の正門を飛び越え中に入ると職員室にまだ明かりがある事に気付く。

 教職員に気付かれないよう、ゆっくり正面玄関を開け学校内に入り込むと、美琴ちゃんのクラスを探す為、校内探索を開始した。


「うわぁ……夜の学校は流石に不気味だなぁ。確か、美琴ちゃんのクラスは……」


 そう呟きながら、学校を徘徊していると美琴ちゃんのクラスを見つけた。

 美琴ちゃんのクラスは三年三組。


「さて、教室内はどうなっているのかな?」


 扉をスライドさせ、教室内に入り込む。

 そして、子供達の机に視線を向けると、そこには……。これでもかという位の罵詈雑言を彫られ、落書きされ、花瓶の置かれた木製の机が置いてあった。


「あらら、これは酷い……」


 このクラスの担任は何をやっているのだろうか?

 こんな悪質な犯罪行為を子供がやっているというのに、それを黙認し、そのままにしておくなんて……。


 とりあえず、スマートフォンで写真を撮り、それを学校名・クラスと共にSNSに配信する。


「……脅迫罪、名誉棄損罪、侮辱罪、器物損壊罪。教師に至っては、いじめ防止対策促進法違反。犯罪者ばかりだこの学校」


 これだけの事をやっても未成年だから罪に問われないなんてどうかしてるよね。流石は法治国家日本。面白いわー。

 なお、学校内に住居侵入している俺の事は棚に上げておく。


「とはいえ、こんなものを見ていても不快なだけだからな。元に戻すか……。クロノス」


 時の精霊クロノスにそう呼びかけると、クロノスは机の時を戻し、罵詈雑言が彫られる前の状態に戻していく。


「花瓶は……先生の机の上にでも置いておくか……」


 軍手をはめ、花瓶を持つと、先生の机の近くに置いてあった木工用ボンドを花瓶の底に塗り、先生の机の上に置く。


 生徒の机に罵詈雑言を彫られ花瓶を置くなんて悪質ないじめを黙認するほど心が広い先生だ。俺渾身の悪質なジョークも笑って許してくれるはず。


 後は、いじめの実行犯を特定するだけだ。

 これだけ机が綺麗になったんだ。いじめの実行犯は、必ずまたこの机に罵詈雑言を彫るか書いてくる筈。とりあえず、闇の精霊ジェイドにお願いして、このクラスの生徒全員に精神攻撃を仕掛けよう。いじめを受ける側の当事者になる強烈で鮮明な夢という名の精神攻撃を受ければ、きっと、事の重大性を理解してくれる筈だ。

 それでも、いじめを繰り返す様であれば、よりエスカレートさせた精神攻撃を仕掛ければいい。この時期に、しっかりした道徳心を育てて上げる事が肝要だからね。ここは少年達の未来の為に、辛抱強く対応して上げよう。


「と、まあこんなもんかな?」


 とりあえず、俺にできる最低限度の事はした。

 ご近所トラブルやいじめ問題に完全な解決はない。

 でも、自分達がどれだけ質の悪い事をしてきたのか、当事者だけにはその体や精神に攻撃する事で認識してもらう。だって、今更、美琴ちゃん達が受けた被害を無かった事にはできないのだから。


「さて、害獣駆除の目途はついたし、そろそろ帰るとするか……」


 後の事は、エレメンタルに任せればいい。

 そう呟くと、俺は再び『隠密マント』で姿を隠し、学校を後にした。


 ◇◆◇


 エレメンタル達が待機している吉岡美琴の母方の実家の前に足を運ぶと、あれからまだ一時間も経っていないのにも関わらず、十数名の男が警察官に喚き散らかしていた。


 男達が手に持っているのは、ゴミ袋や生卵、スプレー缶にペンキ。そして、トンカチ。どうやら、手に持ったそれで、俺が直したばかりの家と車に蛮行を働こうとしたらしい。いや、蛮行を働いた後だ。これ……。

 中には「ちょっと、吉岡さん! 出てきなさいよっ! あんた、うちの子に電話で何を言ったのっ! 怖がって部屋から出てこなくなっちゃったじゃない!」と怒り狂うおばさんもいる。

 電話というキーワードから察するに、悪戯電話をかけて、闇の精霊ジェイドに反撃を喰らった害獣のご家族なのだろう。

 流石はエレメンタル。害獣駆除はお手の物だ。

 この調子で、町から獣を駆除していって欲しい。


 そして、風の精霊シルフもいい働きをしてくれたようだ。

 ビデオカメラの内容を確認してみると、俺が直したばかりの家や車にゴミを投げつけ、スプレーやペンキでお絵描きをする男達の姿が映っていた。

 流石はエレメンタルだ。もう一度、家を直す必要は出てきたが、犯行シーンを動画に収めておけば、この獣共も纏めて警察に連れて行って貰う事ができる。


 ビデオカメラを片手に「証拠を出せ」「俺は帰るぞ」と警察に猛抗議している警察官の元に向かうと、俺は警察官さんにそっと、ビデオカメラを差し出した。


「えっと、あなたは……」

「あ、はい。この家、私の知り合いの家です。その家に何やら危害を加えている人がいたので、その証拠として動画を警察に渡そうと思いまして……」


 警察官は「はあっ……」と呟くと、動画の内容を見て驚愕の表情を浮かべた。

 当然だ。そこには、家や車を襲撃し、生ごみを投げ捨てる人の皮を被った獣達の姿が映っているのだから……。


 カメラは複数台ある。一個位渡した所で何の影響もない。

 万が一、警察の手から逃れられても、動画配信サービスでも、同様の画像を流す予定なので逃げられない。

 というか、逃がさない。犯罪者として、楽しい末路を送って貰わなければ困るのだ。


 そう考えると、警察の来たタイミングもばっちりだ。

 エレメンタルがどうやって警察官を呼んだのかはわからないが、現行犯で逮捕されている人も既にいる。


「それじゃあ、私はこれで……。ああ、連絡事項があれば、ここに連絡を下さい」

「はい。ご協力頂きありがとうございます」


 人の皮を被った獣達がパトカーに乗せられ連行させられていくのを後目に連絡先を渡すと、俺は軽く蹴伸びをしながら病院の特別個室に戻る事にした。


 特別個室完備の冷蔵庫からハイボールを取り出すと、一気に口に流し込む。


「ふうっー。うまい!」


 獣狩りをした後のハイボールは最高だ。

 それにしても、うちの実家近くにまさかあんなヤバい連中が生息しているとは思いもしなかった。ヤバいな日本。犯罪者予備軍がそこらかしこに生息している。


 特にヤバいと感じるのが、皆、平凡な人の仮面を被っている所。俺も気を付けないといけないな……。

 宝くじを当てて、病院の特別個室で生活し、エレメンタルが護衛に就いている。

 誰もが羨むような生活を送って……なくね?

 あれ、おかしいな?

 よく考えたらそこまで羨まれるような生活を送っていなかった。

 というより、何かが足りない。

 金か? 名誉か? それとも、違う何かか?


 金は宝くじが当たるので問題ない。

 人間関係もそこまで問題は見当たらない。

 それじゃあ、何だ?

 俺に足らない者って……。そこまで気付いて、俺は大きな声を上げる。


「よく考えたら、俺彼女いないじゃん……」


 その事に気付いた俺は、床に手をついて項垂れた。

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