第121話 ○○で解決できる心底面倒臭い依頼②

 エレメンタル達にペロペロザウルスのTKGを御馳走し、冒険者協会併設の酒場を出ると、冒険者協会の協会長、ゲッテムハルトが待ち構えていた。

 その隣には、『CLUB mami』の支配人、キンドリーの姿も見える。


「待っていたぞ。それでは、冒険者協会の協会長であるこの私からSランク冒険者、カケルに『CLUB mami』の債権回収を命じる。もちろんこれは強制依頼だ」

「――いや、なんでだよっ!?」


 つーか、冒険者協会のお偉いさんってお前かよっ!

 Sランク冒険者に『CLUB mami』の債権回収なんて、そんなくだらない強制依頼かけるんじゃねー!

 まあ、もちろん、そんな事は口が裂けても言わないけれどもっ!?


「それでは、カケル様。よろしくお願いします」


 そう言うと、キンドリーが馴れ馴れしく手を伸ばしてくる。

 俺はそれを華麗にスルーすると、こめかみに青筋を浮かべながらゲッテムハルトに詰め寄った。


「おいクソ爺……」


 ふざけた事抜かすんじゃねぇ。職権乱用も大概にしとけよ……。

 そう言おうとすると、ゲッテムハルトは十枚のチケットを取り出した。


「……これは?」

「『CLUB mami』の割引券百万コル分だ。カケル君。君には強制依頼の報酬とは別にこれを……」

「いや、そんなもんいるかぁぁぁぁ!」


 割引券百万コル分って何っ!?

 そんなんで、こんなくだらない依頼受ける奴はお前だけだからっ!


「な、何っ!? 君はわかっているのか? これは『CLUB mami』の割引チケットだぞ?」

「それがどうしたっ!」


 だったらお前がやれよ。冒険者協会の協会長として!


「ふう……。君は欲張りだな。それではとっておきを出そう。『CLUB mami』のナンバーワン、マミちゃんの指名券だ。カケル君。君にはこれを……」

「だーかーらぁー、いらねーって言ってんだろっ!」


 それ生臭司祭とカイルの奴が入れ込んでるキャバ嬢だろうが!

 いるか、そんなのっ!


 すると、形勢不利と見たキンドリーが足に縋り付いてくる。


「そ、そんな事言わないでお願いしますぅぅぅぅ! 回収しないと本当に大変な事になるんですぅぅぅぅ!」


 いや、必死過ぎるだろ。下衆司祭、どんだけツケ溜めてたのっ!?


「わかった! わかったからっ! 話だけは聞いてやるから縋りつくのはやめろっ!」


 マジで不快だ。勘弁して欲しい。


「……それで、あの司祭はどんだけツケを溜めてるんだ?」


 興味本位でそう尋ねると……。


「……三千万コルです」

「はっ? 今なんて言ったの?」


 三千万コルとか言わなかった?

 再度、尋ねるとキンドリーは泣きながら債権金額を言う。


「さ、三千万コルですぅぅぅぅ!」

「あ、あの生臭司祭……」


 どうやら聞き間違いではなかった様だ。あまりの金額の高さに引いてしまう。それだけの金額があれば、家一軒買えるぞ。

 あの生臭司祭……。とんでもない金額をキャバクラなんかに使っていやがった。

 とはいえ、それは俺に関係のない話。


「……そっか、それは大変だったな」


 話を聞いているとなんだか可哀想になってきた。しかし、それとこれとは話が別だ。今のあいつにそれを払えるだけの経済力は皆無。となると、結局は誰かがその債権を肩代わりしなければならない。


「それじゃ、後は頑張って……」


 俺は軽くキンドリーの肩を叩くと、呆然とした表情を浮かべるゲッテムハルトの前を素通りし、歩き出す。


「カ、カケル様ぁぁぁぁ!」


 しかし、俺は振り向かない。

 だって、この依頼を引き受けたとして、俺が一時的に下衆司祭の借金を肩代わりする未来しか見えないもの……。


 数歩歩くと、協会長のゲッテムハルトが慌てた様子で声をかけてくる。


「ま、待ちたまえカケル君。これは強制依頼だと言っているだろう。ここは私の顔を立てると思って……」

「はあっ?」


 耄碌したかクソ爺。お前の面目なんてどうでもいい。

 これ以上ガタガタ抜かすとお前の再起不能となった股間に熱線浴びせ掛けんぞ?


「……他のSランク冒険者に依頼を出して下さい。少なくとも、そんなくだらない依頼を受けるのは俺は嫌です」


 そう言い残しその場を去ろうとする。

 すると、諦めきれないゲッテムハルトが再度、俺を呼び止める。


「わ、わかった! それではこうしよう! カケル君。冒険者協会の協会長として一度。一度に限り強制依頼を受けなくてもいい権利を与える。だから、この依頼を受けてくれないか!?」

「何?」


 強制依頼を受けなくてもいい権利?

 そういう事は早く言いなさいよ。


 通常、正当な理由なく強制依頼を断る事はできない。

『私の顔を立てて』なんて言う位だ。協会長もそれを認識しているのだろう。

 だからこそ、俺はこの話を断ろうと思った。

 何故なら、このままだとほぼ百パーセントの確率で俺が下衆司祭の借金を肩代わりする羽目になる事が確実だからだ。

 しかし、強制依頼を断る権利が貰えるというのであれば話は別だ。


「ど、どうだ? 強制依頼を断る権利なんて中々貰えるものではないぞ?」


 確かに、金には代えられないもの凄く嬉しい権利だ。

 できればその権利。貰っておきたい。


「五度だ」

「は?」


『は?』じゃない。


「五度、強制依頼を断る権利をくれ。そうしたらこの依頼を受けてやるよ」

「ご、五度もか……。うむむっ……。しかし……」

「協会長の力があれば簡単な事だろ?」


 何せ、こんなくだらない依頼を強制依頼名目で俺に押し付けてくる位だ。

 できなくてもやってもらう。つーか、やれ。クソ爺。


「う、うむむむむっ……。仕方がない。それでは、この依頼達成を条件に五度。強制依頼を断る権利を与える事にしよう」


 ゲッテムハルトは悩みに悩んだ挙句そう答える。


「……わかった。それじゃあ、ほら」

「へっ?」


 俺はアイテムストレージから三千万コルを取り出すと紙袋に詰めてキンドリーに渡す。すると、キンドリーは唖然とした表情を浮かべた。

 今の俺からしたら三千万コルなんてはした金だ。上級回復薬を三本冒険者協会に売れば簡単に回収する事ができる。

 それにどの道、あの下衆司祭とは金の話をしなければならない。

 この三千万コルはその際に回収する事にしよう。


「それじゃあ、依頼達成って事で」

「あ、ああっ……」


 俺がそう言うと、ゲッテムハルトは何とも言い難い表情を浮かべる。

 借金を回収しに行くのではなく百パーセント肩代わりする。

 それがこの依頼を達成する一番簡単な方法だ。


「……な、なんだか強制依頼を断る権利を金で買われたようで釈然としないが依頼主が納得するならそれでいいだろう」


 金で買われたようでじゃない。金で買ったのだ。断る権利を。

 それに俺には下衆司祭から金を回収する算段が付いている。


「あ、ありがとうございます。それではこちらをお受け取り下さい」


 そう言うとキンドリーは、強制依頼の報酬百万コルと『CLUB mami』の割引券。そして指名券を渡してくる。


 金以外、ぶっちゃけいらないが、とりあえず受け取っておく。

 下衆司祭やカイル、クソ爺がハマる『CLUB mami』になんだか興味が湧いてきた所だ。


「協会長。忘れるなよ。五度だ。強制依頼を五度断る権利。確かに貰ったからな」


 万が一反故にしたら、ここでエレメンタルを進化させて、冒険者協会をぶっ壊してやる。この権利を消す為、むやみやたらに強制依頼を連発してもそれは同じだ。

 そんな過激な事を頭で考えながら手をひらひら振ると、俺は冒険者協会を後にした。


「さてと……」


 エレメンタル達に御褒美を与え、そのついでに腹ごなしと無茶な依頼を終えた俺が向かった場所。それは……


「……ここが『CLUB mami』か」


 そうカイルや下衆司祭、協会長御用達の『CLUB mami』である。

 階段を降り真っ直ぐ進んで店内に入る。

 するとそこには、身長百二十センチメートル前後の女の子達がきわどい服を着て大人を接待していた。

 ドンペリ持って嬉しそうな表情を浮かべる女の子に、札束を胸の隙間に入れてはしゃぐ女の子。


 俺は心の中で絶叫する。


『はい。アウトォォォォ!!』


 もうなんていうかね。アウトだアウト。アウトローの集まりだよここ。

 ヤベーな。小〇生か中〇生低学年位の女の子達が大人を接待してるよ。


「お客様。どうか致しましたか?」

「……いえ、ちょっと、頭痛が」


 正直、後頭部にダンプカーが当たったかのような衝撃だった。


「ちょっと、聞きたいんですけど、女の子達の年齢は……」

「はい。当店では、〇歳から十〇歳の女性に働いて頂いております」


『はい。アウトォォォォ!』


 本日二回目のアウト。〇無しには表示できない年齢頂きました!


「初めて来店されるお客様は皆、驚かれます」


 そりゃあそうだろうね!

 だって〇無しには表示できない年齢だもの!

 つーか、何、ニヤニヤしてんのっ!?


「……しかし、ご安心下さい。彼女等は彼女等の両親が借金を苦に売った借金奴隷です。奴隷は物と同じ。この国の法律では人間とみなされません。つまり、年齢による制限がないので合法です」


 重っ! そして怖っ!?

 何その法律。奴隷は物と同じって怖いよそれっ!?


 日本の法律みたいに、民法上、ペットなどの動物については、基本的に物として扱われるみたいなそんな感じなの!?

 物が人に接待する分にはOKみたいなそんな感じ!?

 猫カフェやドッグカフェと同じって事っ!?


 知りたくなかったわ。そんな現実。

 ゲームの中にそんな現実持ち込まないでよ。


「そんな境遇ですので、皆様、お気に入りのキャストを見つけては借金奴隷から解放してあげようと、尽くされる方が多いのです」

「えっ? そういうシステムなのっ?」


 驚きの声を上げていると、ボーイは笑みを浮かべながら聞いてくる。


「はい。その通りです。時に……お客様はどのキャストがお気に入りですか?」

「えっ? 俺ですか?」


 そう言いながらキャストの写真を見せてくるボーイ。

 写真の下には、キャストが負っている借金の総額が掲載されていた。


「はああっ!?」


 その中に、とんでもない借金を抱えたキャストがいる。


「どうか致しましたか?」

「い、いや、この借金……」


 そのキャストの写真を指差すと、ボーイは笑顔を浮かべる。


「ああ、当店のナンバーワンキャスト。マミちゃんですね」

「いや、そこじゃなくて、その下っ!? 借金総額百億コルって何したらそんな借金負えるのっ!?」

「いやー、あははははっ」


 何、笑ってんの!?

 人の借金見て笑うとか狂気なんですけどっ??


「いえ、失礼しました。マミちゃんは小さい頃にお貴族様の屋敷に飾られていた超絶高額な絵画と壺に落書きをした上、破壊して奴隷落ちした所を当店の支配人が買い取ったのです。いや~可愛いですよね。借金奴隷に落ちた理由が……」


 いや、全然可愛くないよ?

 俺がマミちゃんの親なら真っ青だよ!?


「えっと、マミちゃんのご両親は……」

「はい。当然、家族揃って奴隷落ち。マミちゃんは借金奴隷となった家族を救う為、身を粉にして働いているのです。涙を誘いますよね……」

「そ、そうなんですか……」


 やはり巻き添えか。見事なマッチポンプだ。もうツッコミが追い付かない。

 唯々、マミちゃんのご家族が可哀想。そんな話だった。

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