第120話 ○○で解決できる心底面倒臭い依頼①
「それじゃあ、司祭様。後の事はよろしくお願いします」
「え、ええっ……」
真っ青な顔を浮かべる司祭様とイチャコラしているカイルを残し、元教会を後にした俺は当初の予定通り冒険者協会に向かう事にした。
「いやー、それにしてもラッキーだったなぁ……」
下衆だが有能な駒を安価で手に入れる事ができた。
これは僥倖だ。後は何もしなくても、部下と司祭様が残りの上級ダンジョンを攻略してくれる。
それにしてもメリーさん、強かったな。
呪いの装備を装着するだけで、メリーさんが味方に付くなら一度、装備するのもありかなと思ってしまう程強かった。
「……いや、やっぱり駄目だわ」
……と一瞬、魔が差したが、やっぱり駄目だ。普通に考えて危険が過ぎる。
あれはカイルの奴がドMの異常性癖だったからこそ手に入れる事ができた力だ。
それは他の呪いの装備も同じ事。呪いの装備を使う者は総じてドMでなければならない。
ナイフで刺されてもメリーさんに愛を囁くカイル然り。
変な名前で一生を過ごす代わりにとんでもない力を手にした『ああああ』然りだ。
少なくともS気強めの俺には無理である。
だって痛いの普通にやだし。
そんな事を考えながら大通りを歩いていると、冒険者協会が見えてきた。
冒険者協会の中は冒険者で一杯だ。
上級ダンジョン『デザートクレードル』攻略以降、冒険者協会は活気に沸いている。
活気付く冒険者達に生暖かい視線を向け素通りすると、俺は冒険者協会に併設されている酒場に向かった。
もちろん、お目当てはエレメンタル達の大好物。
ペロペロザウルスのTKG(卵かけご飯)である。
「あ、すいませーん。注文いいですかー?」
空いている席に座ると、ウエイトレスさんに声をかける。
もちろん、エレメンタル達も席についている。
「はい。ご注文を窺います」
「ああ、それじゃあ、ペロペロザウルスのTKGを十二人前お願いします。あと、エールにつまみでソーセージも」
「はい。ペロペロザウルスのTKGを十二人前とエールにソーセージですね。かしこまりました。もうしばらくお待ち下さい」
注文を取るとウエイトレスさんは厨房に走っていく。
とりあえず、ここにいるエレメンタル六体に対して二杯づつペロペロザウルスのTKGを注文したが、失敗したな……。雷の精霊ヴォルトも連れてきて上げればよかった。
しかし、雷の精霊ヴォルトにはやる事がある。
今度、また連れてきてあげよう。
ペロペロザウルスのTKGを待つエレメンタルの姿を眺めていると、ウエイトレスさんが料理を運んできた。
「お待たせ致しました。ペロペロザウルスのTKG十二人前とエール、ソーセージをお持ちしました。TKGにはこちらの醤油をかけてお召し上がり下さい!」
ウエイトレスがテーブルにペロペロザウルスのTKGをテーブルに置くと、エレメンタル達がTKGに群がっていく。
ここ最近、ペロペロザウルスのTKGを食べさせていなかったからか、喜び具合が半端ではない。エレメンタル達はペロペロザウルスのTKGに醤油を垂らすと、綺麗に平らげていく。
「うん。ソーセージも美味いな」
その光景を俺はソーセージを齧り、エールを飲みながら見守る。
それにしてもソーセージの原料は何だろうか?
メニュー表を見ると、そこにはオークロードとゴブリンキングの合びき肉と書かれていた。
「ぶふうっ!」
それを見て俺は咥えていたソーセージを思いっきり吐き出した。
吐き出したソーセージは弧を描き、そのままエレメンタルの口にイートインする。
「な、何故にゴブリンキングッ!?」
無駄に豪華だ。
しかも、合びき肉の割合は七対三。
オークロード七割、ゴブリンキング三割だ。結構、ゴブリンキングが入ってる。
「あれ? オークロードとゴブリンキングのソーセージはお口に合いませんでしたか?」
「い、いや、そんな事は……」
むしろ、味だけを見れば美味しかった。
ただ、なんとなく忌諱感があるだけだ。
二足歩行だし、なんとなく人に似ている。
「最近、食べられないお客様が増えているんですよねー。この酒場のグランドメニューなんですけど……」
しかもグランドメニューらしい。ド定番の人気メニューという事だ。
「どちらも二足歩行なので、それがダメなんですかねー?」
よく考えてみたら、オークロードもゴブリンキングも二足歩行。
ゴブリンキングだけに忌諱感を覚えるのは確かに何か違うような気がしてきた。
「ゴブリンキングのお肉って、結構、淡白で美味しいんですよ?」
「そ、そうなんですね……」
確かに、エレメンタルも美味しそうに食べている。
思い返してみればここはゲーム世界。
ゲーム世界に現実を持ち込むのはNG行為だ。
俺はソーセージにフォークをぶっ刺すと改めてソーセージに齧り付く。
「た、確かに美味い……です」
言われてみれば、オークロード肉の油分をゴブリンキング肉のサッパリした味わいがいい感じにマリアージュされているような気がしないでもない。
ここはゲーム世界。
そしてゴブリンキングは食用モンスターだ。
初めて知ったけど……。
しかし、改めて考えてみると凄いな。
俺、ゲーム世界のモンスターの肉食ってる訳か……。
テーブルに置かれたメニュー表を開いて見ると、そこにはモンスターの肉を使った様々な料理が載っていた。
モブ・フェンリルのステーキにオークロードフット、ゴブリンキングジャーキー。
よくわからないが、字面がなんか凄い。
メニュー表と睨めっこをしていると、何故か、知らない人が俺の席の隣に座った。
「こんにちは、あなたの事を探しましたよ……」
「あっ? あんた誰?」
知らない顔だ。
身なりは綺麗だし、武器や防具を装備してない事から冒険者という感じでもない。
スーツ姿から、なんとなくホスト風の男にも見える。
「ああ、これは失礼……」
男は笑みを浮かべると、名刺の様な物を差し出した。
「……私、こういう者でして」
名刺を受け取り、視線を落とす。
「私は『CLUB mami』支配人のキンドリーと申します……」
「はあ、『CLUB mami』ねぇ……」
それって、カイルの奴と下衆司祭が懇意にしているキャバクラの名前ではないだろうか?
何だか聞いた事がある。キャバクラの支配人が俺に何の用だろうか?
「はい。実はカケル様にお願いがございまして……」
「お願い?」
「ええ、お願いです。ユルバン司祭から聞かせて頂きましたが……」
「えっ? ユルバン司祭? 誰それ?」
マジで知らない人の名前が出てきた。
本当に誰だそれ?
俺が知ってる司祭は下衆司祭だけだ。
そう言うと、キンドリーは困惑した表情を浮かべる。
「ユルバン司祭をご存知ない? 本人からはお金の貸し借りをする仲と聞いておりましたが……?」
「ああ、なるほど……」
どうやら下衆司祭の名前はユルバンというらしい。別に興味なかったが初めて知った。
「……すいません。知り合いでした」
つい先ほど知り合った仲だが、確かに、金の貸し借りをし、呪いの装備をプレゼントする位の交流はある。
「それで、『CLUB mami』の支配人さんが俺に何の用で?」
そう尋ねると、支配人は厚かましくもこう述べてきた。
「いや、よかった。そうですよね。ユルバン司祭とお知り合いですよね。実はとても話辛い事なので恐縮なのですが……」
そう言うと、キンドリーは一枚の紙を取り出し目の前に置く。
「……ユルバン司祭の借金を肩代わりして頂けませんか?」
正直、意味がわからない。そう言われた瞬間、俺は目の前に置かれた紙を破り捨て大きな声を上げる。
「――いや、なんでだよ!?」
意味がわからないよ。訳がわからないよ!
何で俺が下衆司祭がキャバクラで遊んだツケを払わなきゃいけないんだよ。
する訳ねーだろ、そんな肩代わり。
真っ平御免だわ!
すると、キンドリーは悲しそうに呟く。
「い、いえ、私もそのつもりでツケの回収に向かったのですが、金はないの一点張りで……暴力で言う事を聞かせようにも歯が立たず困っているのです……」
「いや、知らねーよ!」
最低だな。下衆司祭。借金を踏み倒すとは風上にも置けない奴だ。
って言うか暴力で言う事を聞かせようとして歯が立たなかったってどう言う事?
負けちゃったの?
あの下衆司祭に?
そう声を上げるとキンドリーは悲壮感溢れる表情を浮かべ、俺の足に縋りついてくる。
「お、お願いします! 暴力も脅迫も効かず困っているのです! あなたなのでしょう!? あんな訳のわからない武器をユルバン司祭に与えたのは!?」
「そうですが、それが何か?」
俺は俺自身の利益の為に呪いの装備をユルバン司祭に与えただけだ。
まさかそれで借金を踏み倒すとは思っても見なかったが、それは俺には関係ない。
借金を踏み倒したあいつ自身の問題だ。
「あんな凶悪な武器を与えた責任があるでしょう!?」
責任。俺にとって一番嫌いな言葉だ。
他にも色々と嫌いな言葉はあるが……。
「ないな。何度も言うが俺には関係ない」
毅然とした態度でそう言うと、キンドリーは涙を浮かべる。
「そ、それでは、私はどうしたらいいんですかっ!? ユルバン司祭からツケを回収しないと私が代わりに負債を負う羽目になって……」
いや、知らんがなそんな事……。
俺はため息を吐くと、男泣きするキンドリーの肩を軽く叩く。
「……まあ、頑張れよ。あ、すいませーん。注文いいですか? エール一杯お願いします」
キンドリーの肩を叩きながらエールを注文すると、ウエイトレスさんが元気よく返事する。
「はーい。エール一杯ですね。少々、お待ち下さい」
辛気臭い表情を浮かべるキンドリーから目を背け、嬉しそうにペロペロザウルスのTKGを食べるエレメンタル達に視線を向ける。
エレメンタル達が嬉しそうにピカピカ光りTKGを食べる姿。中々に眼福だ。
辛気臭い空気を醸し出す奴が近くに居るとよりそう思う。
「ううっ……。わかりました。それでは……」
なんだかよくわからないが、漸くわかってくれたようだ。
「ああ、元気出せよ」
そう言って送り出そうとすると、キンドリーが予想外な行動に出る。
「……それでは、私は私の人脈を使い、あなたに強制依頼をかけさせて頂きます」
「はあ?」
強制依頼?
何言ってるんだ?
馬鹿かお前。仮にもSランク冒険者だぞ、俺は……。
冒険者協会の最高ランクだ。そんな下らないことで強制依頼なんてかけられる筈がない。
しかし、キンドリーは余裕の表情を崩さない。
「実は、冒険者協会のお偉い様はすべて私の経営する『CLUB mami』の常連でして……」
「な、何っ!?」
冒険者協会の上層部、真っ黒じゃねーか!
キャバクラなんか俺でも行った事ないぞ!
「……それでは、私はこれで」
キンドリーはそれだけ述べると、そのまま酒場の階段を上がっていってしまう。
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