第100話 特注の馬車が台無しになりましたorz

「カ、カケル様っ! 心配しましたぞ!」


 DWの世界、三日振りのログイン。

 立ち上がり部屋から出ると、部屋の前で待機していたであろう支配人が、憔悴しきった表情を浮かべ話かけてきた。


 ログインするのも三日振りなら、部屋から出るのも三日振り。

 ここの所、毎日ログインしていたからなぁ……。


 一向に部屋から出てくる様子のない俺。

 支配人にはかなり心配をかけてしまったようだ。


「あ、ああ、心配かけたな。俺は大丈夫……」


『心配無用だよ』と言おうとすると、支配人が話を被せてくる。


「カケル様、今すぐこちらに! 大変な事が起きているんです!」

「大変な事?」


 支配人の言う大変な事とは、一体何だろうか?


 頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらそう呟くと、支配人が俺の背中を押しながら話を続ける。


「はい。二日前、転移組を名乗る連中が『カケルを出せ』と押し掛けてまいりまして……」


 支配人の話を聞き、俺は頷く。


「なるほど、それは苦労をかけたな……」


 支配人の話を纏めるとこんな感じだった。


 二日前、転移組の副リーダーであるルートがここを訪れ言ったそうだ。

 曰く『(カッコ良く凛々しい)カケル(様)を出せ!』と……。


 まったく照れちゃうね。

 カッコ良く凛々しいカケル様か……。

 えっ? そんな事、言ってない? 外見、モブ・フェンリルだしって?

 言われてみればそうか。まあそれは置いておくとして、ここからが問題だ。


 支配人がルートに用件を尋ねると、ルートは激怒しながらこう答えたそうだ。


『あいつのせいで「冷蔵庫組」がスポンサーが降りるかもしれない。どうしてくれるんだ』と……。

 なんでも、転移組の若頭リフリ・ジレイターがルートに告げ口をしたらしい。


 俺としては、正当な理由で反社会的勢力をスポンサーから排除できるんだからいいじゃないかと思っているのだが、転移組はそう思っていないようだ。

 まあ、あいつ等も反社会的勢力みたいな集団だし、きっと、冷蔵庫組とは気が合うのだろう。しかし、反社会的勢力の排除は社会の要請。ゲーム世界だとしても、社会の要請はちゃんと受けないとね!

 社会人失格だよ!


 その社会人失格の転移組……もとい、冷蔵庫組からスポンサー契約を打ち切られようとしているルートが俺に要求してきたのは三点。


 一つ目の要求は、『冷蔵庫組への謝罪』。

 菓子折り持って冷蔵庫組に土下座し、頭を踏まれて来いとそういう事らしい。


 一つ目の要求からお話にならない。

 何故、俺がそんな事をしなければならないのだろうか。阿保らしい。

 当然却下である。


 二つ目の要求は、『賠償金の支払い』。

 迷惑をかけたから金を払えとそういう事だ。

 賠償金として要求してきた金額を見て驚いたね。 賠償金一億コルだって、払う訳ないじゃんって感じだ。もし万が一、支払わなかったらどうするんだろ?


 この世界には契約書がある。

 契約書を介さない賠償金の支払いに強制力は皆無だ。

 そもそも、賠償金一億コルってどうやって計算した金額なの?

 まあ、支払わないからどうでもいいけど。


 そして最後の三つ目は、『預けた五十人の脱退』。

 簡単に言えば足切りだ。

 スポンサーである冷蔵庫組を怒らせた張本人である俺が育てた五十人。いや、今は四十五人か……。そいつ等をこの機会に脱退させたいと、そういう事らしい。


 なるほど、こいつ等は転移組にとってさぞかし不要な人物達なのだろう。

 俺も同じ事を思うよ。こいつ等が、一週間前と同じ状況なのであれば……。


 しかし、今のあいつ等は違う。とんでもない力を手にしている。

 本当にいいのお前、滅茶苦茶有望なプレイヤー達よこれっ?

 あいつ等を切り捨てるって何を考えているの?


「そっか、そんな事があったんだな……」


 支配人って立場、大変だね。

 そんな心情を込めて呟くと、支配人がため息を吐く。。


「いや、カケル様は当事者ですからね?」

「……そうだね」


 どの道、冷蔵庫組に謝罪するつもりもなければ、賠償金を支払うつもりもない。

 今のあいつ等なら貰ってやってもいいけど、それについてはどうするかな……。

 ぶっちゃけ、管理するのが面倒臭い。

 まあ、契約書の効果により何もしなくてもあいつ等が稼いだ金額の十パーセントが俺の懐に入って来る訳だし、放置でいいか。

 とりあえず、あいつ等には正直に話しておこう。


 君達、転移組に見捨てられちゃったよ。って……。

 上級ダンジョン攻略できる位の力があるのに馬鹿だよね。


 仕方がない。

 支配人に迷惑かける訳にはいかないし、とりあえず、エントランスに行くか。

 そう考えた俺は、支配人に背中を押されながら、渋々、階段を降りエントランスに向かった。


 ◇◆◇


「……なにこれ?」


 階段を降りエントランスホールに向かうと、そこにはうめき声を上げ地に伏す男達がいた。


「……実は転移組の皆様が『カケル様に会わせろ』と勝手に宿の中に入ろうとした為、レイネル様に対応して頂きまして……これはその結果です」

「……いや、全然、説明になってないんだけど」


 レイネル・グッジョブ。

 月五十万円でこの宿の警備をしてくれている元Sランク冒険者である。

 元Sランク冒険者が警備をしている宿で狼藉を働こうとしてボコられるなんて、転移組の連中は何を考えているのだろうか?


 というより二日前だったよね?

 転移組のルートが苦情を言いに来たのは……。

 まさかその間ずっとここでボコられていたの?


 レイネルさん。本気出すと怖いんだね。

 知らなかったわ。


 すると、そんな俺の考えを読んでか支配人が首を振って否定する。


「再三に渡り不在と言い続けてきましたからね。痺れを切らして本日、強硬手段に出てきた次第です……」

「ああ、そうなんだ……」


 それじゃあ、彼等にはそろそろ退場して貰わないとね。知ってる?

 エントランスホールって、ちょっと広めの玄関のことを指すんだよ?


 そんなエントランスホールでボロボロになった男達が寝ていたら嫌じゃない?

 誰も入りたいと思わないよね。営業妨害だよね、これ?

 あ、良い事を思い付いた。


 ポンっと手をつき、口を三日月状にしてニヤリと笑う。


「ねえねえ。こいつ等、俺が貰ってもいい?」


 まるで物でも強請るかのようにそう言うと、支配人が戸惑いの声を上げた。


「な、何をなさるおつもりですか? こういう場合、兵士に引き渡すのが王国民の義務で……」


 警察に引き渡す的な感じだろうか?

 安心してほしい。ちゃんと用が済んだら引き渡すから。

 ほら、すぐ暴力に訴えかける人って怖いし、存在自体が危ないと思うんだよね。

 そういう人の住処に牢獄はピッタリだと思うんだ。

 俺の事を言ってる訳じゃないよ?


「安心してくれ。用が済んだら兵士に引き渡しておくからさ。なんなら、俺がここを出て三十分後、連絡しておいてよ。こういう輩を兵士に引き渡すのは王国民の義務なんでしょ?」


 白々しくそう言うと、支配人がため息を吐く。


「いえ、まったく説明になっていないのですが……まあいいでしょう。この宿のオーナーはカケル様です。それで、彼等をどうするのですか?」

「そうだな……とりあえず、彼等を引き摺って冒険者協会に向かおうか。着いて来てくれるかな、レイネル?」


 笑みを浮かべながらそう言うと、レイネルは楽しそうに笑った


「ほう。こ奴等をどうするおつもりですかな?」


 レイネルが浮かべた笑みに、俺も笑みを浮かべて返す。


「やだなー、レイネル。何もしないって……」


 そう。賠償金を支払ってもらう以外何もしない予定だ。

 だってこれは、営業妨害だからね!

 住居侵入罪ともいう。


 素直に賠償金を払ってくれるといいなー。

 わー楽しみだ。


 心の底からそんな事を考えていると、レイネルが苦笑する。


「……愚問でしたな。それでは、冒険者協会に向かいましょう」


 宿を襲撃した狼藉共の首根っこを掴み、誰にでもわかるよう牢付きの馬車に襲撃者達を押し込むと、もの凄くいい笑顔で俺は笑った。


「牢に入れられた気持ちはどう? 牢の中とは思えないほど快適でしょ?」


 俺が作った牢付きの馬車は特注品。

 俺を市中引き回しにしようとした腹いせに、いつか冷蔵庫組の奴等を乗せてやろうと思っていた代物だ。


 冷蔵庫組のリフリ・ジレイターより先にこの監獄馬車に乗せてやるんだ。

 ありがたいと思えよ。


 そう得意げな表情を浮かべていると、転移組の連中が監獄馬車の中で吐瀉物を吐き散らかした。その瞬間、俺は絶叫を上げる。


「お、お前、何してくれてるのぉぉぉぉ!?」


 ふざけるんじゃないよ!

 何、特注の馬車にゲロ吐き散らかしてるのっ!?

 それ掃除するのは俺なんだぞっ!?


 怒りを込めた視線を向けると、ゲロを吐いたクソ野郎はサムズアップしながら呟いた。


「へっ、やってやったぜ」と……。


 ぶん殴ってやりたい気分になったね。

 ゲロ野郎に触りたくないからぶん殴らないけど……。

 ノロウイルスが移ったら困る。


「はっ、ゲロ野郎が、冒険者協会に着くまでの間、お前が口から吐いた吐瀉物の臭いに苦しむといい。お前と一緒に特注の馬車に乗った奴が可哀想だ。冒険者協会に着くまでの間、吐瀉物の臭いに苦しまされるなんてなぁ!」

「な、なにっ!?」

「そう言えば、馬車に乗っての王都観光なんて初めてだなぁ、寄り道しようか」


 良い機会だ。折角なので、御者さんには回り道をして貰おう。

 監獄内にゲロを吐き散らした彼等もきっと、それを望んでいる。


 御者さんにそう言うと、俺の心情を察してくれたのか馬車が大きく回り道をしてくれた。

 俺達は御者台に近い位置に座っている為、臭わないが、ゲボを吐き散らされた奴等は苦悶の表情を浮かべている。

 馬車の速度が速く、車体の揺れがそのままダイレクトに伝わる設定の為か、立ち上がることもできず、ただただ、ゲボの臭いを嗅ぎ顔をしかめていた。


 いいザマである。


 そんな事を思いながら王都内を観光していると、冒険者協会が見えてきた。

 大回りをしたとはいえ、大した距離でもなかったようだ。


 御者さんに冒険者協会の前に馬車を着けてもらうと、一緒に着いてきてくれたレイネルが檻を開け、吐瀉物塗れとなった男達を引き摺り下ろしていく。


 容赦なく引き摺り下ろすレイネル。

 グッジョブ!

 良い仕事をするね!


 男達が俺を睨み付けてくるが、全然怖くない。むしろ、爽快だね!


 そして、そのまま冒険者協会に入ると、そこには顔をひくつかせた転移組の副リーダー、ルートの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る