第79話 転移組の教育係を任されました①
「さて、『ああああ』君……。君が気絶している間に態々、本来しなくてもいいレベリングして上げた訳だけど……何か言わなきゃいけない事があるんじゃないかな?」
『ああああ』が気絶している間にレベリングを済ませた俺は、再度、冒険者協会に戻って来ていた。
目の前には、綺麗なフォームで土下座を極める『ああああ』の姿がある。
「は、はい。調子に乗ってご迷惑をお掛けし、大変……大変申し訳ございませんでした!」
「次、調子に乗って同様の事を起こしたらどうなるか……」
「は、はい。次、同様の愚かな行為を起こしたら死刑、又は奴隷に堕とすつもりですよね……」
――いや、ステータス初期化して放置するだけで、流石の俺もそんな事しないよっ!?
普段から俺の事をどんな風に見てるのっ!?
『ちょっと逆らったから死刑』『ちょっと逆らったから奴隷堕ち』って、それこそ鬼畜の所業だろうがよい!
「……まあ、そんな所だ。肝に銘じておけよ」
しかし、俺はあえて否定しない。
また手のひら返しで裏切られても面倒臭いからだ。
それに、なんだかんだで、『ああああ』の装備する命名神シリーズ強い。
使える駒はできる限り手元に置いておきたい。
「そ、そういえば、あの後どうなったんですか? 気絶していてその辺りの事が全然、よくわからないんですけど……」
「ああ、金魚の糞共の事か……あいつらは……」
俺達との戦いに敗れた金魚の糞共は、あの後、賭けに負けた野次馬達にボコボコにされたらしい。
勝手に賭けの対象にされ、負けたからといって暴力を振るうとは野蛮な奴らのいたものだ。金魚の糞共がボコボコにされたと聞いた時、つい『ざまぁ』と叫んでしまった。
そして、ボロボロにされた後は、『ああああ』を上級ダンジョン『デザートクレードル』に置き去りにした件について取り調べ。
金魚の糞共は、冒険者協会の協会長相手に嘘の供述をした結果、冒険者協会から除籍。強制退会する事となった。
なんでも、『戦略的撤退だった』とか『戻るつもりだった』とかそんな供述をしたらしい。最終的には、俺が提出しておいた映像に『俺達の命には代えられない』と言って逃げ出す金魚の糞共の姿が映っているのが決め手となり御用となった。
もちろん、俺が『ああああ』の事をカッコよく助け出したシーンはカットしてある。
今頃、冒険者協会に併設されている監獄で楽しい楽しいスローライフを送っている頃だろう。金魚の糞共が送るゲーム世界監獄ライフか。
ゲーム世界で監獄生活を送る事ができるなんてまったく。羨ましい限りだぜ。
HAHAHAHA!
「……それはそうと、なんでお前がここにいるんだ?」
そう尋ねると、転移組の副リーダー、ルートが顔を引き攣らせる。
「い、嫌だなぁ~そんな事、言わないで下さいよ……そんな事よりカケル君? 君は確か、転移組と『ああああ』君との仲裁をしてくれるんじゃなかったのかな?」
「ああ、そう言ったな。だからちゃんと仲裁してやったじゃないか。磔にされ逃げる事もできないまま置き去りにされた『ああああ』と、言葉巧みに『ああああ』をやる気にさせ、磔にして肉壁にした転移組の連中。第三者的な視点から見てどう考えてもギルティだっただろ? だから第三者的な視点で判断してやったまでだ」
「……そこまでハッキリ言われると、耳が痛いね」
顔を引き攣らせたまま、そう言うルートに俺は微笑みかける。
「……まあでも安心しろ。そっちがむやみやたらに絡んでこない限り、こちらから何かを仕掛けるつもりはまったくない。ギルティな連中は監獄ライフを満喫中だろうし、『ああああ』もお前自身に忌諱感を覚えている訳でもなさそうだしな……ルートも『ああああ』に話があるからここにいるんだろ?」
意地悪な事を言ったが、わかってるよ。
ぶっちゃけ、『ああああ』を仲間に引き入れたいんだろ?
金魚の糞共を倒したのは、実質、『ああああ』だもんね。
俺は金魚の糞共に『ああああ』を投げ付けただけだし、『命名神シリーズ』の装備を持ち、装備している奴は珍しい。
ちなみに、俺ならアイテムストレージに大量に格納されている『命名神の施し』を使い、ふざけた名前のプレイヤーを量産し、『命名神シリーズ』を与える事ができる。
第二、第三の『ああああ』を量産できる訳だ。
まあ、好んでやろうとは思わないけどね。
「いや、もちろん、『ああああ』君にも、転移組に入ってほしいと、そう思っているさ……しかし、一番は君だ……」
そう言うと、ルートは俺の前に手を差し伸べてくる。
「Cランク冒険者を軽くいなし、まるで道端に落ちたゴミを軽く払い除けるかの様に敵対者を徹底的に排除する思考……。今、転移組は……いや、俺は君の事を必要としている! 全てのプレイヤー達の為、一緒に上級ダンジョンを攻略し、人間の世界ミズガルズを護る為の柵を壊そう!」
全てのプレイヤー達の為に?
なんて、偽善的な奴なんだ……そんな事を言われたら、俺もこう返してやらなきゃいけないなと思っちゃうじゃないか……。
「ふふっ……そうだな。だが断る!」
「ええっ、どうしてだい!? 組織に属する事でお金では得られない出会いや発見、感動が得られるかもしれないんだよ!?」
「いや、そういうのは望んでないから……」
そもそも、なんでそんなボランティアみたいな事をしなきゃいけないんだよ。お金では得られない出会いや発見、感動が得られる?
そんなもんどうでもいいんだよっ。生きてりゃそんなもん勝手に沸いてくるわっ!
ボランティアとは、体のいい労働搾取……遣り甲斐搾取だろうがよっ!
ボランティア活動をしていた事を意気揚揚に、就活で語って見ろっ!
俺の元、働いていたアメイジング・コーポレーション㈱の様に、ボランティア活動を盾に、サービス残業を強要されるぞ?
奴等は『困った時はお互い様』とか、『苦労は買ってでもしろ』とかいう謎理論を前面に押しかけ、平気な顔でサービス残業という名のボランティア活動を強いてくるんだぞ?
それってただの『賃金不払残業』だろうがよい!
宗教かなんかか、それっ?
それってだた、労働搾取を耳触りのいい言葉で正当化しているだけだろうがよい!
そう表情でルートに語ると、ルートは苦笑いを浮かべる。
「……もちろん、特別報酬をお支払い致します」
「そうか、話を聞こう」
そういう事は早く言ってよね。
つい経験談からボランティアをディスっちゃったじゃない。
いや、ボランティア精神で誰かの為に働こうと思うって尊い事だよね。
その精神が本物なら有償ボランティアなんて存在しない筈なんだけど……。
まあ自発的に支援したいという想いが本来のボランティアの目的であり、有償・無償は本質的な問題ではないからね!
実の所、俺も転移組の連中を何とかしないといけないなと思っていたんだよ。
モラルのカケラもなく交戦的で、権力を傘にやりたい放題。丁度、目障りになってきた所だ。
有償で自発的に私怨してやろうじゃないか。内側からバリバリ貪り食ってやろうじゃないか。ボランティア精神に則ってね!
「実は組織が大きくなるにつれて、横暴に振舞うプレイヤー達が増えてきてしまったんだ。組織の大まかな意思決定はリーダーと副リーダーの俺達が行うようにしているんだけど、中々、管理しきれなくてね」
「ふーん」
なんだか大変そうだな。
聞いているだけで眠くなってくる。
「転移組には、今、約五百人の構成員を抱えている。君にはその内、五十人を預けたいと考えているんだけど、どうかな? 『ああああ』君を立派なプレイヤーに育て上げた様に、彼等も一緒に導いてくれないだろうか?」
『ああああ』が立派なプレイヤー?
こいつ、目が腐っているんじゃないだろうか?
『ああああ』は俺に反旗を翻してきた大罪人である。つまり使い捨ての駒だ。
何なら反旗を翻してこない分、まだ使い捨てカイロやティッシュペーパーの方が万倍使える。
俺は、ルートに立派と言われほくそ笑みながら意気揚々と土下座する『ああああ』の頭に拳骨を落とすと、指と指で丸を作った。
「……いいだろう。まあ、それも特別報酬次第だ。それで、幾ら位くれるんだ?」
そう尋ねると、ルートは、指を一本立てる。
なんだろう。へし折って欲しいのだろうか?
そんな事を想いながらルートが口を開くのを辛抱強く待つ。
「……君が育て上げたプレイヤー達がダンジョン内で手に入れたアイテムや素材、それを換金した金額の一割。これでどうだろう?」
「俺が育てたプレイヤー達がダンジョン内で手に入れた報酬の一割か……」
本当は十割欲しい所だが、贅沢は言うまい。
俺は少し考える振りをしながら呟く。
「……いいだろう。ただし、条件を付け加えてもらう」
「条件?」
「ああ、俺の言う事には絶対服従。それと問題を起こした奴を処分する権限。そして最後に、俺のやる事に口出し無用。この三つを条件に付け加えさせてくれ」
まあ、ポッとでの俺が『お前達を最強にしてやる』とか言っても、誰も聞いてくれなさそうだしね。誰かを育てるにしても権限が無くては話にならない。
「わかったよ。俺の方から周知しておく。それでいいかい?」
「ああ、もちろん……」
これで条件はクリアだ。
転移組を内部からボロボロにする為の準備は整った。
「……一週間だ。一週間で、俺の下に就く五十人のプレイヤーを『ああああ』の様にしてやるよ」
「へえ、それは頼もしいね。それじゃあ、早速、明日。君の下に就く五十人のプレイヤーを紹介するよ。場所はそうだな……冒険者協会の闘技場なんてどうかな?」
「ああ、もちろん、それでいい」
ふふふっ、まずは五十人の奴隷をゲッツ!
転移組に属する低脳プレイヤー共め、まずは上下関係を叩き込み、皆、『ああああ』の様にしてやる。
「それじゃあ、また明日。午前九時に冒険者協会の闘技場で落ち合おう」
「ああ……楽しみにしているよ」
◇◆◇
翌日、午前九時に闘技場に向かうと、既に五十人の冒険者……いや、プレイヤー達が、俺が到着するのを待っていた。
「おはようございます。カケル君」
「ああ、おはよう。それで、昨日言っていた五十人というのは、ここにいる人達でいいのかな?」
皆、ニコニコしている。
なんだか胡散臭い笑顔だ。
そう尋ねると、『転移組』の副リーダー、ルートが頷く。
「ああ、そうだよ。癖のある奴ばかりだけど、皆、根はいい奴だからさ。それじゃあ、後の事はよろしくね」
それだけ言うと、ルートは闘技場を後にする。その瞬間、闘技場内の空気が一変した。
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