第74話 呪いの装備『命名神の逆鱗』③
俺が『モンスターリスポーン』の範囲外に移動すると、モンスター達が『ああああ』に向かって殺到する。
「いやああああっ!?」
多数のアントライオンが殺到してくる様子を見て『ああああ』が絶叫を上げた。
「おいおい。どうしたんだ? そこは『ふははははっ! そんな攻撃、俺には効かん! 俺は無敵だぁぁぁぁ!』とか言って耐え忍ぶ所だろ?」
つい先刻、『ああああ』が言っていた言葉を使ってそう指摘すると、『ああああ』は涙ながらに叫び声を上げた。
「そ、そんな事、言ってる場合じゃねー!」
事もあろうに、『モンスターリスポーン』の範囲外に逃げようとする『ああああ』。
モブ・フェンリルバズーカを『ああああ』に向けると、グレイプニル弾を放つ。
「あああああっ!? 何するの、カケルくぅぅぅぅん!?」
グレイプニル弾に絡め取られ身動き一つできなくなった『ああああ』に俺は追い討ちをかける。
「いや、逃げんな。何の為に俺がお前をパワレベしてやったと思ってるんだ? 命名神シリーズの力を試す為だろうがよ!」
「い、いや、そんな事、知らないよっ! 何、とんでもない事考えてるの!? だ、誰か助けてー! 異常者がここにいます!」
「誰が異常者だコラッ!」
喧嘩売ってんのか?
なんならその喧嘩、買ってやるぞ?
レベル二百を舐めんなよ?
俺のバッグにはエレメンタル様がついているんだぞ?
エレメンタル様は最強なんだぞ!?
「……そんな事よりいいのか? さっきも言ったけど、お前のレベルは百五十四。お前の命綱である『命名神シリーズ』は二十六分三十秒ごとに、二分三十四秒のクールタイムがある。それまでにグレイプニル弾を外さないと死んじゃうぞ?」
「いや、『死んじゃうぞ?』じゃねー! そのグレイプニル弾放ったのカケル君だからっ!? 何、不可抗力でこうなっちゃいましたみたいな事、言ってんのっ!? って言うか助けてぇぇぇぇ!」
迫り来るモンスターを前に『ああああ』が叫び声を上げる。
しかし、大丈夫だ。安心してほしい。
無数のアントライオンが、『ああああ』に対して触手攻撃を繰り出すと同時に、『ああああ』の身体が薄い光の膜に覆われる。
アントライオンの触手が『ああああ』に届くと同時にその攻撃が跳ね返り、アントライオンの触手が弾け飛んだ。
「へっ?」
唖然とした表情を浮かべる『ああああ』。
「凄いな……」
流石はゲーム作成陣が悪ふざけで作った呪いの装備。
『命名神の怒り』で物理・魔法攻撃を無効化し、『命名神の逆鱗』で反射。
無茶苦茶で反則的な性能である。
しかも、ドレイン効果がある為、『命名神の怒り』のデメリット効果である『教会での回復無効化』『回復薬を飲んでも、少しだけしか回復できない』が完全に有名無実化している。
誰だ。こんな馬鹿みたいな性能の装備を考え付いた奴は……。
とんでもないバランスブレイカー装備じゃないか。
命名神シリーズを装備した『ああああ』を倒す為には、クールタイムを待つ以外に方法がない。
何だこいつ最強かよ。
誰だ。こんな奴に壊れ性能装備を無理やり装備させたのは……。
もはや『ああああ』一人で上級ダンジョン攻略できるんじゃないだろうか?
……それはそれでなんか腹が立つな。
『ああああ』にドヤ顔されただけで反吐が出そうだ。
「よし。帰るか……」
まだ『命名神シリーズ』の武器や防具がアイテムストレージに眠っているが、『ああああ』に渡すのだけはやめておこう。
本格的に手が付けられなくなりそうだし、今の『ああああ』が俺より強くなるのはなんかムカつく。
「それじゃあ、頑張れよ。俺はもう帰るから」
「えっ!? カケル君っ!?」
アントライオンの攻撃を反射した事で、『ああああ』はグレイプニル弾から抜け出している。問題はない筈だ。
俺が転移門『ユグドラシル』に向かおうとすると、『ああああ』が俺を追いかけてくる。
「カ、カケルくぅぅぅぅん! ちょっと、待ってぇぇぇぇ!」
「ええい! 寄るな、近寄るなっ! あっちに行け!」
「そ、そんな事、言わないでくれよぉぉぉぉ! なんだか武器を装備できなくなってるし、モンスターを倒す手段がないんだよぉぉぉぉ!」
「えっ? そうなの?」
『ああああ』がアイテムストレージから取り出した剣を手で握ろうとする度、すっぽ抜けていく。
『命名神の逆鱗』にそんな盲点があったとは知らなかった。
仕方がない。『ああああ』に呪いの装備を装着させたのは俺だし、責任を取ってやるか……。
俺はアイテムストレージから新たなる呪いの装備を取り出すと、『ああああ』に渡す。すると、『ああああ』は呆然とした表情を浮かべた。
「えっと、この錫杖は……?」
「うん? これは『命名神の嘆き』。お前も知ってるだろ? その昔、ゲーム作成陣が悪ふざけで作ったコラボ装備だよ。ほら、いいから装備してみろって」
「う、うん……」
『ああああ』が錫杖を装備すると、錫杖の周囲に浮かんでいた黒い瘴気のようなものが『ああああ』の身体に吸い込まれていく。
「……それで? それがあればモンスターを倒せそうか?」
「あ、ああっ、やってみるよ! 『命名神の嘆き』!」
『ああああ』は錫杖をモンスターに向ける。
そして、その錫杖の名を呟くと、錫杖から黒い雷が発生した。
なんだかヤバそうだ。
そう判断した俺は、『ああああ』から距離を取る。
その瞬間、錫杖から発生した黒い雷が『ああああ』と『モンスターリスポーン』で発生したアントライオン達に降り注いだ。
『『グ、グラララララッ!!?』』
「ア、アババババッ!!?」
黒い雷に打たれ感電するアントライオンと『ああああ』。
その威力を前に、俺は額に汗を流す。
な、なんて恐ろしい装備なんだ……。
『ああああ』に渡した武器『命名神の嘆き』は、HPの十パーセントを消費する事で、その百倍の威力の雷を出す事のできる自爆武器。
回復する事なく十回連続で使用すればもれなくあの世に行く事ができる。『命名神シリーズ』の武器である。
我ながら恐ろしい武器を渡してしまった。
「だ、大丈夫か『ああああ』!?」
命名神の嘆きの雷により倒され死屍累々となったアントライオンと同様に『ああああ』も感電し横たわっている。
見た目はスパーキングな感じになっているが、HPの十パーセントを持っていかれただけだし、ドレイン効果でアントライオンのHPを吸い取っている筈なので大丈夫だとは思うが、なんだか申し訳のない事をしてしまった気分だ。
俺にしては珍しく反省している。
何せ、『ああああ』に渡した装備は呪いの装備。
呪われている為、外す事はできない。
「うっ……。一体何が……」
良かった。目を覚ましたようだ。
ショック死していなくて本当に良かった。
「だ、大丈夫か、『ああああ』?」
「う、うん? カケル君じゃないか。俺は一体……」
目の前で焼け焦げているアントライオンを見て、『ああああ』が唖然とした表情を浮かべる。
――今しかない。
すべてを有耶無耶にして、呪いの装備を強制的に装備させたことに対する正当性を主張する。俺ならできる筈だ。頑張れ、俺っ!
『ああああ』が何か言葉を発しようとするタイミングで声を上げる。
「こ、これっ……」
「凄い威力だねっ! 『ああああ』! お前ならこのバランスブレイカー装備を使いこなしてくれると思っていたんだよ!」
「え、ええっ?」
「『命名神シリーズ』を装備できるプレイヤーは、俺が知る限りお前だけだ! つまり、『ああああ』は選ばれた存在。今、この時からこの世界における勇者的なポジションの人間になったんだよ! おめでとう。『ああああ』! それにレベルが百五十を超えた事でSランク冒険者に返り咲くことができるぞ! これは快挙だよ! 凄いことだよ! 見直したよ『ああああ』!!」
「お、俺がSランク冒険者にっ!?」
なんだか『ああああ』の奴、嬉しそうだ。
この調子なら上手く騙されてくれるかもしれない。
「そうだよっ! Sランク冒険者だ! しかも、命名神シリーズを付けている間、ノーダメージ! まあ、錫杖を使うとほんの少しだけダメージを受けちゃうけど、『命名神の逆鱗』にはドレイン効果もある。そうだ! 今すぐ冒険者協会に報告に行こう! レベル百五十もあれば昇格間違いなしだ!」
『ああああ』の背中を押しながらそう言うと、『ああああ』が満更でもない顔をする。
「そ、そうかな? でも……」
「間違いないよ! そこで焼け焦げているアントライオン達を見てくれ。このアントライオンはすべてお前が倒したんだぞ!? 冒険者協会がマトモならお前の事を放っておかないって!」
「そ、そう? やっぱり、カケル君もそう思う?」
「思う思う! こんなに多くのアントライオンを一撃で倒すなんてお前以外できない事だよ! 快挙だよ!」
「そ、そうか! ありがとうカケル君っ! なんだか元気が湧いてきたよ」
「ああ、それじゃあ、一旦、冒険者協会に向かおう! 俺も後から向かうからさっ!」
「う、うん! ありがとう!」
そう言って手を振ってやると、『ああああ』は焼け焦げたアントライオンをアイテムストレージに収納し、スキップをしながら転移門『ユグドラシル』に向かった。
どうやら、誤魔化し切ることに成功したらしい。
『ああああ』が転移するのを見届けると、俺は心の中で冷や汗を流す。
「……馬鹿な奴で助かった」
まさかあんな口車に乗ってくれるとは……。素直な性格で助かった。
『命名神シリーズ』の装備は実質、最強装備。どの道、『ああああ』にしか装備する事はできない。
呪いの装備だけど『ああああ』も喜んでいた見たいだし、まあいいか。
問題は、このゲーム世界に俺でも倒しきる事ができるかわからない
「…………」
こ、これについてもまあいいか……。
考え方を変え、上級ダンジョンを攻略する事のできる戦力が増えたと思えば万々歳だ。
こうなったら、『ああああ』にも上級ダンジョン攻略を手伝って貰おう。
『命名神の嘆き』さえあれば、自爆攻撃と引き換えにボスモンスターを倒し切ることもできる筈だ。
俺はため息を吐くと、一人、転移門『ユグドラシル』まで歩き始めた。
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