第43話 一億八千万円のスクラッチくじ換金!いざ、みずほ銀行へ!
「ふわぁ……。あー、寝過ぎたな。これは……」
今の時刻は午前十時。
ホテルのカーテンは遮光性が高い。
自宅であれば、朝日と共に目を覚ますものを、ホテルで一度カーテンを閉めて寝てしまえば、朝日が部屋に指してこない事からどうしても寝過ごしてしまう。
頭をかきながら起き上がると、テーブルの上に置いてあった朝食券に気付く。
「あー。しまった……」
朝食券が使えるのは午前七時から十時までの間。折角の朝食券を無駄にしてしまった。
昨日、ハイボールを飲んでから寝た為か胃が痛い。別に朝食を食べなくても問題はないが、なんとなく損をした気分だ。
「……とりあえず、風呂に入って目を覚ますか」
そう呟くと、バスタオルと着替えを持って露天風呂へと向かった。
「はあー、生き返る……」
みんなが仕事に勤しんでいる時間に露天風呂。なんだかもの凄く贅沢な気分だ。
ゆっくり湯船に浸かり日頃の疲れを癒した俺は、サウナで汗を流し、シャワーでそれを洗い流すと、露天風呂を出て部屋に戻る。
しかし、不思議な気分だ。
会社にいた頃は毎朝六時起きの八時出社、夜二十二時帰りが普通だったのに、今となっては会社を辞めて気ままなホテル暮らし。
「あっ、そういえば……」
そういえば、今日は、一億八千万円のスクラッチくじの換金日。
銀行の来店予約なんてした事がないからすっかり忘れていた。
確か、銀行の来店予約は今日の午後十三時だった筈。
俺ってば、なんでこんな大切な日を忘れていたんだ。
アイテムストレージからスクラッチくじを取り出すとニヤリと笑みを浮かべる。
「今日から俺も億万長者か……」
スクラッチくじの当選金は一億八千万円。
約三十六年働いてようやく手に入れる事の出来るお金の引換券を今、俺は手にしている。
とりあえず、無くさない様にアイテムストレージに入れて大事に保管しておこう。
改めてスクラッチくじをアイテムストレージに格納すると、軽めの昼食をとり、スクラッチくじの換金をする為、みずほ銀行へ向かう事にした。
「それにしても緊張するな……」
スクラッチくじを換金する所を誰かに見られていたらどうしよう。
……いや、そんな事を考えていても仕方がないか。
アイテムストレージからスクラッチくじと印刷した来店予約票を取り出すと、無くさぬ様に握り締め、みずほ銀行の自動ドアを潜り中に入る。
「お客様、来店予約はお済みでしょうか?」
自動ドアを潜り、みずほ銀行に入ると、銀行員に呼び止められた。
しかし、銀行員の行動は想定の範囲内。
「はい。十三時予約の高橋です」
「高橋様ですね。予約票を確認させて頂きます。……はい。こちらが番号札となります。お掛けになってお待ち下さいませ」
握り締めた来店予約票を手渡すと、銀行員は笑顔を浮かべながら番号札を発券してくれた。
「ありがとうございます」
番号札を受け取りソファに腰を掛けると、数秒して『ピンポーン』と音が鳴る。
どうやらもう順番が来たみたいだ。
来店予約しただけの事はある。
スクラッチくじを片手に握り、窓口の銀行員以外に聞こえないよう小さな声で「高額当選したんですが……」と用件を伝えスクラッチくじを渡すと、「確認致します。こちらをお持ちになり少々お待ち下さい」と言われ、受付票を差し出された。
流石は銀行員。中々、ドライな反応だ。
銀行員から受付票を受け取り、ソファに座って待っていると、「高橋様」と声がかかり、そのまま応接室へと通される。
立派なソファにテーブル。出された煎茶。
周囲を彩る調度品。こんな凄い部屋に通されたのは生まれて初めてだ。
緊張で脳が震える。
煎茶で喉を潤し、緊張感を紛らわしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
思わず立ち上がると、銀行員が二人、部屋の中に入ってくる。
「初めまして、みずほ銀行宝くじ部の長谷川と申します。こちらは副支店長の長瀬です」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
何と返せばいいのか分からず、とりあえずそう言うと、副支店長が「どうぞ、お座り下さい」と呟いた。
ソファに座ると副支店長が声をかけてくる。
「高橋様。この度は、当選、おめでとうございます。これから当選くじと売り場の照合をさせて頂きますので、申し訳ありませんが、当選金の受け取りまで一週間程お待ち頂けますでしょうか?」
えっ?
そういうシステムなの??
てっきり、すぐにお金が貰えると思っていた。
話を聞いて見ると、百万円以上の高額当選の場合、当選くじの照会に一週間位の時間がかかるらしい。
まあ高額当選だからね。
なんとなくだけど、その気持ちはよくわかる。
素直に「わかりました」と頷くと、今度は宝くじ部の銀行員が声をかけてくる。
「高橋様。本人確認書類はお持ちでしょうか?」
「はい。あります」
リュックサックの中にあるカードホルダーから運転免許証を取り出すと、印鑑と共にテーブルに置く。
「ありがとうございます。預からせて頂きますね」
宝くじ部の銀行員はそう言うと、運転免許証を受け取りコピー機へ向かっていく。
両面のコピーが終わると、「ありがとうございました」と返却してくる。
「高橋様。こちらが宝くじの預かり証となります。こちらにサインと押印をお願いします」
「はい」
預かり証を受け取りサインすると、宝くじ部の銀行員が笑顔を浮かべながら話しかけてくる。
「高橋様には一週間後、こちらの預かり証を当行にご持参頂きそれと引き換えに高額当選証明書と当選金をお渡し致します。受け渡しの際ですが、当選金一億八千万円を持ち帰られますか? 当行に口座をお持ちであればそちらに入金する事も出来ますが、いかが致しましょう?」
突然、提示された持ち帰るか入金するかの二択。そんな事は決まっている。
当然、口座入金一択である。
一億八千万円を持ち帰るなんて怖くてできる訳が……。
いやできるか……。アイテムストレージがあった。
とはいえ、銀行でお金を受け取りその場でアイテムストレージに入れる訳にもいかない。
「口座入金でお願いします」
ここは大人しく口座入金を選択する。
「はい。承知致しました。それでは口座に入金させて頂きます。今、通帳かカードはお持ちですか?」
「あ、はい。あります」
銀行カードを取り出し、宝くじ部の銀行員に渡すと、銀行員はカードを印刷する。
「ありがとうございます。これで手続きは終了となります。当選金の受取日ですが、一週間後の午前九時でいかがでしょうか?」
「ええ、その日時で問題ありません」
「それでは来店予約をお取りします。これでお手続きは終了となりますが、何がご不明な点はありますか?」
「いえ、特にありません」
手続きが終わった事を察し、ソファから立ち上がると銀行の外までお見送りされる。
軽く銀行員にお辞儀してみずほ銀行を後にすると、一人ため息を吐いた。
「ふうっ……」
いやー。知らなかった。
まさか百万円以上当選すると、その確認に一週間もかかるとは……。
今日から億万長者だと思っていたから、なんだか急に梯子を外されたかの様な気分だわ。
なんだか、鏡花水月にかかっていたみたいだわ。
「砕けろ『鏡花水月』」って言われたみたいだわ。
完全催眠にかかっていた気分だわ。
まあ一週間後に確実に一億八千万円手に入る。楽しみは一週間後に取っておこう。
それにしても一億八千万円か。
何に使おうかな?
でも、平均生涯年収は大卒の男性で約三億って言うし、もう少しだけ足りないな……。
「もう二、三枚……。いや、あと十枚宝くじを買うか……」
思考が完全に駄目な大人である。
しかし、俺には勝算がある。
何故、あの日、パチンコで大勝したのか……。
何故、あの日、スクラッチくじで一枚三千万円の一等賞を六枚も当てる事ができたのか……。
今まで、願っても願っても当たる事のなかった宝くじ。
まあ、みずほ銀行、最後の良心として三百円は当たったが、急に一等が六枚も当選した事に俺はこう思った。
あれ、もしかして俺、死ぬの? と……。
もしかして、仏教における『徳』を使い果たしたのか? と……。
しかし、俺は神道。なんでもありの信教だ。そして、俺は生きている。
不幸が襲い掛かっていると言われたらなんとも言えないが、まあ生きている。
正直、一億八千万円という強運を引き当てた翌日、絶対に車に引かれて死ぬか、病気に罹って速攻死ぬと思っていた。
しかし、その兆候はいつまで経っても現れない。
友達の薦めでやった株式投資。
五十万円投資したが、先日までは二十五万円のマイナスだ。
普通に考えたら笑えない状況だが、これも俺が楽をして利益を得ようとした結果。
しかし、今、なんだかよく分からないが株価が急上昇。二十五万円のプラスになっている。
しかし、この株価チャートを見た時に気付いた。
あれ? これって、俺が『レアドロップ倍率+500%』を使った影響じゃね、と……。
だって、その日、それ以外に何もないもの。
それしかないもの!!
だから俺は……。
宝くじを購入する前、公園のトイレの中でアイテムストレージから『レアドロップ倍率+500%』を取り出し、使用する。
今の時間は午後十四時。
ここから二十四時間。『レアドロップ倍率+500%』の効果が継続する筈。
早速、俺はスマートフォンで宝くじサイトにアクセスすると、俺が勝手に選んだ数値で同じ番号のtotoを購入する。
totoのキャリーオーバーは三十二億円。
同じ番号でtotoを購入した。
購入した枚数は六枚。totoの当選金額は最高五億円だから、当選すれば最大三十億円が俺の口座に振り込まれる予定だ。
これはイケる。そう思ったね。
とはいえ、当選発表は明後日。
それまでの間、『レアドロップ倍率+500%』を切らさない様にしよう。
それで全てが分かる筈だ。
『レアドロップ倍率+500%』の恩恵で億万長者になれたか、そうでないか。
レアドロップなのに何故、宝くじに作用するかは分からないが、きっと人知の及ばない力が働いているのだろう。
もし、万が一、当選したらDWの世界で生きる『ああああ』や『カイル』に優しくできる気がする。
ニヤニヤした表情を浮かべながら、totoを購入した俺は、『レアドロップ倍率+500%』の恩恵を最大限生かす為、ネットで宝くじを買い漁り笑みを浮かべた。
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