第21話 冒険者協会でのいざこざ②
「俺がコイツらと同じ? そんな訳ないだろう?」
なんて失礼な奴なんだ。
この俺がレベル一のまま飲んだくれているコイツらと同じな筈がないだろ。
今の俺のレベルは百。
コイツらと一緒にするな。
そんな事より、俺は可愛い可愛いエレメンタル達にペロペロザウルスのTKGを食べさせなきゃ駄目なんだよ。邪魔をするんじゃない。
俺に話しかけてきた馬鹿を一瞥すると、酒場に向かい、近くを歩いていたウエイトレスさんに声をかけ、ペロペロザウルスのTKGを四人前注文する。
「ああ、そこのウエイトレスさん。ペロペロザウルスのTKGを四人前お願いします」
「はい。ペロペロザウルスのTKGを四人前ですね! かしこまりました!」
元気のいいウエイトレスさんだ。
TKGなら作るのにそう時間はかからないだろう。
六人掛けの広いテーブルに陣取ると、ペロペロザウルスのTKGが来るのをじっと待つ。
すると、さっき適当にあしらった男が、苛立ちながら話しかけてきた。
「おい。逃げんなよ!」
「ああっ?」
逃げる?
俺が??
誰からだ?
まさか、お前からか?
「逃げるも何も返事はくれてやっただろう? 俺は忙しいんだ。エレメンタルにTKGを振る舞わなきゃいけないからな。邪魔をするな」
エレメンタルはとてもナイーブな性格なんだぞ?
それこそ、ナイーブ過ぎて勝手に熱線を放つ位にはな。
うちの可愛いエレメンタル達がお前の粗末な物に熱線を浴びせかけたらどうしてくれるんだ。訴えるぞ。
再度、男を適当にあしらうと、ウエイトレスが料理を運んできた。
「お待たせ致しました。ペロペロザウルスのTKG四人前です。こちらの醤油をかけてお召し上がり下さい!」
ウエイトレスがテーブルにペロペロザウルスのTKGをテーブルに置くと、エレメンタル達がTKGに群がっていく。
わかるぞ。エレメンタル!
TKGって美味しいもんね!
それがペロペロザウルスのTKGともあれば最高だ。まあ、食べた事ないけどね!
色をピカピカと変えて喜ぶエレメンタル達。
微笑ましい光景に自然と笑みが浮かんでくる。
すると、テーブルにさっきの男が近付いてきた。
「はっ? お前、エレメンタルに人間様の食事を与えているのか?? しかも、ペロペロザウルスのTKGじゃねーか!? エレメンタルには勿体ねぇ! この俺が食べてやるよ」
「はあっ?」
何を言っているんだお前?
「エレメンタル達の食事の邪魔だ。あっちに行っていろ」
ペロペロザウルスのTKGに手を伸ばそうとした男に静止の言葉をかける。
しかし、男は俺の言葉を聞かず、エレメンタルのTKGに手を伸ばした。
男がペロペロザウルスのTKGの食器を取ろうとした瞬間、俺は男の手を掴み声を上げる。
「エレメンタルがまだ食ってる途中でしょうがっ!」
ふざけやがって、エレメンタルが食べようとしているペロペロザウルスのTKGに手をかけるなんて何を考えているんだコイツは!
まさかこいつ、俺の事を怒らせようとしているのか?
「へえ、そうかい?」
男は笑みを浮かべると、ペロペロザウルスのTKGの入った丼にワザとらしく手をかけ、あろう事かエレメンタル達が楽しみにしていたTKGを床にぶちまけた。
突然の事で、思考が追い付かない。
「お、お前、何を……」
床に散らばるペロペロザウルスのTKG。
エレメンタルは床に散らばるペロペロザウルスのTKGに集まっていく。
三秒ルールか……。
床に食べ物を落としても三秒で拾えば大丈夫的なアレである。
流石はエレメンタル。
床に散らばるペロペロザウルスのTKGを綺麗に平らげていく。
食べ物を粗末にしないエレメンタル達がなんだか尊く感じる。これが本当のSDGs……。
「あははははっ! 流石はレベル一のSランク冒険者が持つエレメンタル。教養がなっていないみたいだな? 普通、床に散らばる食べ物なんか食べるか? 食べないだろ!」
エレメンタル達の尊い姿に水を差す存在が一人。
俺は静かな怒りを胸に宿しながら、ウエイトレスさんに声をかける。
「……すいませんが、追加でペロペロザウルスのTKGを四人前お願いします」
すると、ウエイトレスさんが残念そうな表情を浮かべながら呟く。
「先ほどの注文で本日のペロペロザウルスのTKGは品切れとなりました。大変申し訳ございません……」
「え、ああっ……そうなんですか」
「た、大変申し訳ございません!」
「い、いえ、品切れなら仕方がありません。こちらこそ、すいませんね。なんだか……」
虚ろな視線を浮かべながらそう呟くと、俺はエレメンタルの食事をぶちまけた男に視線を向ける。
「……なんだか、腹が立ってきたよ。おい、そこの薄らハゲ。手前の名前は?」
「ああっ? なんで手前に名前を言わなきゃならねーんだ?」
俺の言葉に、男は苛立ちを浮かべる。
何を苛立っているんだコイツ?
苛立っているのは俺の方だよ!
「……着いてこいよ。レベル一のSランク冒険者。お前に格の違いを見せてやるよ」
「へえ……。見せて貰おうじゃねーか」
俺は床に散らばるペロペロザウルスのTKGに夢中なエレメンタル達をそのままに男に着いて行く。
冒険者協会併設の地下闘技場。
どうやらここで、殺り合うらしい。
奴は格の違いがどうたらと言っていたが関係ない。
俺がお前に見せつけるのはただ一つ。
地獄の風景に他ならない。
「おい。そのふざけた格好のまま戦う気か?」
「ああっ?」
もしかして、モブ・フェンリルスーツの事をふざけた格好と言った訳じゃないだろうなコラ?
ふざけているのは手前の方だっ!
なんだ。その初心者丸出しの装備は!!
『ひのきの棒』に『布の服』って馬鹿か!
ドラ○エかそれっ!?
えっ、その装備で本気でこの俺に勝とうとしているの?
俺のレベル百だよ?
レベル百と言えば、DWの中級者レベルの実力を持っている。
初心者が挑んでいい相手ではない。
これなら、課金装備を装着しているカイルや『ああああ』の方が強い位だ。
よく俺に喧嘩を売ったな?
まあ、買うけど……。
「まあ、俺を相手に逃げ出さなかった事だけは評価してやるよ……。だがな、俺はお前みたいなインチキ野郎が大嫌いなんだっ! レベル一でSランク冒険者になれる訳がないだろ!」
「いや、同感だよ!」
だからこそ、俺に喧嘩を仕掛けてきた訳がわからない。
とはいえ、ゲーム内で売られた喧嘩は買うだけだ。
舐められたらお終いだしね!
「はあっ? 何を言っているんだ? まあいい……。この勝負に勝ち、俺は一気にSランク冒険者に駆け上がる!」
「はあ……。そう、まあ頑張って……」
まあ、Sランク冒険者を倒した所で昇級できないけどね。そんな規則ないし。
こいつ、その事を知らないのか?
「はあっ! 余裕を見せていられるのもいまだけだ!」
「やれやれ……」
ひのきの棒を片手に向かってくる男にモブ・フェンリルバズーカを向けると、引き金を引く。
すると『わおーん!』という声と共に男が吹き飛んだ。
「ぐうっぺ……」
衝撃波だけの空撃ちだ。
実弾入りならコイツの身体はモブ・フェンリルマーク型に穴が空いている所である。
別に俺はお前を殺したい訳ではない。
ただ地獄を見せたいだけだ。
空砲を喰らい気絶した男を縛り上げると、アイテムストレージからあるアイテムを取り出した。
俺が取り出したアイテムは一つ。
トイレの詰まり取り。ラバーカップ(使用済)である。
これは俺の家に置いてあったものだ。
俺は男の頬をペチペチ叩き、目覚めさせる。
そして、ラバーカップを片手に持つとニヤリと笑みを浮かべた。
「う、うーん。俺は一体……。あ、うん? なんで俺は縛られて?」
「おはよう。目覚めた様だね。クソ野郎」
「お、お前は……。くっ、放せよ。放しやがれ!」
解放する訳がないだろ?
お前は俺の可愛い可愛いエレメンタルの楽しみを奪っただけでは飽き足らず貶めた。
決して許す事はできない。
まあ、エレメンタル達は床にぶちまけられたTKGを美味しそうに食べていたが、それとこれとは別問題である。禊を受けるまでは絶対に許さない。
俺がラバーカップ片手にニタニタしていると、男は頬を引き攣らせた。
どうやら俺が何を持っているか理解したらしい。
DWのトイレは現実世界の水洗トイレと同じだからね!
「お、お前……。それで何をする気だ?」
「うん? そんな事、決まっているだろう? お前の頭の中にクソが詰まっているみたいだからな……。こいつで詰まりを解消してやろうと思ってよ!」
「や、やめっ!? ふぐうっ!!?」
エレメンタルのTKGを故意にぶちまけたクソ野郎の顔にラバーカップ(使用済)を押し付けラバーカップを凹ませる。
そして、勢いを付けてグッと引っ張ると、クソ野郎は苦悶の表情を浮かべラバーカップを外そうとする。
「う、うぐぐぐっ……」
しかし、俺は心を鬼にして再度ラバーカップを凹ませる。
中々、しつこい詰まりだ。
このクソ野郎の頭の中の詰まりを解消しない事には、何度でも絡んできそうだからだ。
だから、何度でも、こいつの顔に向かってキュッポン、キュッポンする。
すると、クソ野郎は、「うっ……」という言葉を残し、倒れてしまった。
恐らく酸欠だろう。
数秒置いて、クソ野郎の顔に付いたままのラバーカップを手に持つと、キュッポンという音を立てて、ラバーカップが外れた。
凄い吸着力である。
百円均一のお店で買ったとは思えない吸着力だ。
これなら、このクソ野郎の頭の中の詰まりも解消した筈だ。
ラバーカップをアイテムストレージに収納すると、酸欠でぶっ倒れたクソ野郎の事を冒険者協会の職員に任せて、酒場へと戻る事にした。
酒場に戻ると、エレメンタル達が床に散らばったTKGを食べ終え、ウエイトレスさんが食器の片付けをしている最中だった。
「ああ、すいません。本来、俺が片付けをしなければならないというのに……」
気まずそうに頭を掻くと、ウエイトレスさんが壊れた食器の片付けをしながら笑みを浮かべる。
「いえ、慣れっこですので、気にしないで下さい。それよりも災難でしたね」
「ええ、まったくです。まあウエイトレスさんには負けますけどね」
冒険者と直接やり取りしなければならないウエイターさんやウエイトレスさん達の方がどう考えても災難だ。
「そうでもないですよ?」
「えっ?」
そうでもないの?
「私達には、日当の他に危険手当が出ますから! それに問題が起きたら別途手当が貰えます。むしろ、揉め事大歓迎です!」
ウエイトレスさんの背後で、他のウエイターさん達までピースしている。
揉め事大歓迎とは、実に逞しい人達だ。
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