第14話 カツアゲは程度と場合により強盗致傷事件になる。無期懲役もあり得るからね②
「ご、強盗致傷事件だなんて、嘘ですよね?」
警察官の言葉に生活指導の芹澤や教頭の遠藤も驚いた表情を浮かべている。
俺がそう言うと、警察官は首を振った。
「残念ながら、今のままだとそうなるね。さっきも言ったけど、今回の件は、被害届が既に提出されている。被害額も大きく、被害者から医師の診断書も出ている。被害届が取り下げられない限り、難しい状況だね」
「そ、そんなっ! 俺達が何をやったって言うんですか!?」
俺達は大人をボコッて、カツアゲしただけだ。
それに、俺達は杖をついて歩ける位の怪我しか負わせてはいない。
なのに、強盗致傷事件扱いは酷過ぎる。
「……それを君達の口から教えて貰うと思ってここに来たんだよ」
仲間に視線を向けると、揃いも揃って縮み上がっている。
『おい……どうするんだよ』
『だ、大丈夫だ。強盗致傷事件扱いだったとしても、俺達は未成年だぜ?』
『い、いや、だけどよ。もしかしたら、少年院に送られるかもしれないんだぞ?』
『ふ、ふざけんなよっ! じゃあ、どうすりゃあいいんだ!』
『そんな事、決まっているだろっ! あのおっさんと示談するんだよ!警察や検察、裁判所は、被害者の処罰感情を重視するって聞いた事がある。つまり、あのおっさんと示談すれば、量刑が軽くなるかもしれねぇ!』
『そ、そうだな。取り敢えず、その方向で話をしよう! 意地を張っていてもしかたがねぇ!』
「あの、君達……私の話を聞いているかい? 何があったか教えてほしいんだけど……」
警察官にそう言われた俺達は、席から立ち上がると警察官に頭を下げて謝罪した。
「「「す、すいませんでした!」」」
これには警察官も驚いた様で目を剥いている。
「……な、何が『すいませんでした』なのかな? それを教えてくれるかい?」
「はい! 俺達は昨日、イオンの宝くじ売場前でおっさんを暴行し、三十万円入った財布と三千万円のスクラッチくじを奪いました。申し訳ございません!」
「他の四人も同じかな?」
「「「はい! その通りです」」」
そう言うと、生活指導の芹澤や教頭の遠藤が頭を抱えているのが見えた。
「……君達は昨日、イオンの宝くじ売場前で被害者の男性に暴行を働き、財布と三千万円のスクラッチくじを強奪したと、そう言うんだね?」
「「「はい。その通りです!」」」
元気よくそう言うと、警察官の目付きが変わる。
「そう。それで、被害者の男性から強奪した財布とスクラッチくじはどうしたの? まだ持っているかな?」
「は、はい!」
そう言うと、俺はポケットに入れたスクラッチくじを四枚取り出す。
「……財布がないようだけど?」
「さ、財布については……すいません! 中身を抜いて川に捨てました!」
「……はあっ。それじゃあ、スクラッチくじだけ確認させて貰うよ」
警察官は俺からスクラッチくじを受け取ると、一枚一枚調べていく。
「……三百円と千円と一万円、十万円が一枚づつあるね。それで三千万円のスクラッチくじはどこにあるのかな?」
「「「えっ?」」」
そ、それで全てですけど……?
心の中でそんな事を考えていると、仲間の鋭い視線が俺に向かってくる。
『おい。ヨっちゃん!』
『笑えねぇぞ! さっさと三千万円のスクラッチくじを出せよ!』
『お前、まさかなくした訳じゃねーだろうな!』
『ふざけんじゃねーぞ!』
「い、いや、だって、俺は確かに肌身離さず持って……」
そう言うと、警察官が鋭い視線を向けてくる。
「……なるほど、つまり君は財布と同様に三千万円のスクラッチくじを無くしてしまったと、そう言うんだね?」
「い、いや……いえ。違います! 俺が持っているスクラッチくじは四枚で、確かにその中に三千万円のスクラッチくじが入っていたんです!」
昨日、最後に確認した時には、三千万円のスクラッチくじは確かにあった。
今日だって肌身離さず持っていたんだ。なくす筈がない!
しかし、警察官はそう思っていないようだった。
「しかしね。現実問題として、三千万円のスクラッチくじは無いんでしょう? だとすれば、無くしたとしか考えられないじゃないですか」
「だ、だけど、俺は本当にっ!?」
「はいはい。わかっているから……肌身離さず持っていたけど、なくしてしまったんだよね?」
いや、違うって言っているだろうが!
しかし、現物がない以上、言葉を噤むしかない。
「…………」
黙っていると、警察官が急に優しく微笑むと立ち上がる。
「まあいい。自白も取れた事だし、それじゃあ、一緒に行こうか」
「えっ? 一体どこに……」
戸惑いながらそう呟くと、教室の中に数人の警察官が入ってきた。
「こ、これはどういう……」
「うん? そんな事、決まっているよね。だって今、君達はみんな揃って自白したじゃない。強盗致傷は立派な刑事事件だからね。申し訳ないけど、逮捕させてもらうよ」
「ええっ!?」
そ、そんな事、聞いていない!
そんな事、聞いてないぞ!?
「ああ、暴れない様にね。万が一、君達が暴れて私達の業務を妨害した場合、公務執行妨害に問われる可能性があるから。親御さんにはこちらから連絡しておくから安心していいよ」
「い、いや、俺達は別に自白した訳じゃ……」
「まあまあ、詳しい話は署で聞くから、それじゃあ行こうか」
「い、いや、ちょっと待って! 待って下さい! お、俺達はどうなるんですか?」
そう言うと、警察官は考え込む。
「……今回は何から何まで、イレギュラーなケースだからね。君達には、これから警察署で取調べを受けて貰う。今、言えるのはここまでかなぁ?」
背後を見れば、警察官が俺に厳しい視線を向けていた。
「まあ、詳しい話は署で、ゆっくりしようじゃないか。時間はたっぷりあるからね。先生方もご協力頂きありがとうございました」
「い、いえ……」
その発言を聞いた俺達は、教頭に視線を向ける。
「教頭……てめぇ!」
「警察とグルだったのかよっ!」
「俺達を警察に売るなんて、お前、それでも教師かよ!」
「そうだぜっ! ふざけるんじゃねぇ!」
「一発、ぶん殴ってやらねえと気が済まねぇ!」
教頭に近寄ろうとすると、警察官がそれを妨害してくる。
「君達、もう罪を重ねるのは止めなさい」
「だ、だけどよ!」
俺達、これから逮捕されるんだろ!?
だったら一発位ぶん殴ってもいいだろっ!
「ほら、行くぞ」
「ク、クソォォォォ!」
そういえば、今、思い出したが、強盗致傷、つまり強盗の末、人を負傷させてしまった時の刑罰は『無期または六年以上の懲役』だった様な気がする。
ヤ、ヤバい!
これは本格的にヤバい!
こうなったら、何がなんでも示談に持っていって貰えるよう両親に頑張って貰わなくては……。
しかし、財布の中身はゲームセンターで散財し、三千万円のスクラッチくじに至っては無くしてしまった。
あれっ?
これ、示談してくれるのか??
例えば、俺が三千万円のスクラッチくじを当てたとして、それを暴行され奪われた揚句、三千万円のスクラッチくじを無くしてしまったけど、俺達の未来の為に示談してくれなんて暴行してきた奴に言われたら、怒り心頭で席を立ち『示談なんかするか馬鹿!』と示談の話自体を断る気がする。
あ、あれ……あれあれ……?
ヤバい。これって、もの凄くヤバい状況じゃあないか?
最悪、示談してくれたとしても、示談金として最低三千万円要求してくるだろう。
く、くそっ!
こんな事なら自白なんてするんじゃなかった!
三千万円のスクラッチくじなんてなかった。そう言っていれば、まだ何とかなったかもしれないのにっ!
「安心しろ。今は授業中だ。目立たない様、覆面パトカーで来た。ほら、パトカーに乗りなさい」
「う、ううっ……」
俺達が乗ってすぐ、パトカーは走り始めた。
どうやら、俺達は一人ずつ警察署に運ばれるらしい。
「俺達、これからどうなるんですか……」
そう呟くと、警察官が肩を軽く叩く。
しかし、何も言ってはくれなかった。
暗雲とした気分の中、俺達は警察署に連行させる事になった。
◇◆◇
ネットカフェに向かった俺は、残業代請求に強い弁護士事務所と面会予約をネットで取ると、国税庁のホームページ欄にある『課税・徴収漏れに関する情報の提供』の状況提供フォームで、アメイジング・コーポレーション株式会社の社長が私用に会議費交際費を使い、毎日飲み食いしてますよと密告した。
そして、すべての作業を終えた俺は、ヘッドギアを被るとリクライニングシートに横になる。
そして、「――コネクト『Different World』!」と言うと、『Different World』の世界へとダイブした。
「な、何だこりゃあ……?」
ゲームの世界に転移してすぐ目に飛び込んできたのは、燃え盛る部屋だった。
目の前で建物が真っ赤に燃えている。
『モブ・フェンリルスーツ』を装備していなければ、大火傷を負っていたかもしれない。
……まあ、こんなに建物が燃え盛っているというのに、全く熱を感じていないから火傷すら負わない可能性があるけどね!
前々から思っていたけど、もしかして俺だけゲームの仕様が違うのだろうか?
……いや、今はそんな事を言っている場合ではない。
燃え盛る部屋から脱出しなければ……。
俺は『モブ・フェンリルバズーカ』を壁に向けると、引き金を引く。
すると、『わおーん!』という音を立て、モブ・フェンリルの輪郭と同じ大きさの穴が壁に開いた。
「これでよし」
DWは建物を壊す事もできるゲームだ。
なんだかDWが現実になったみたいだったから本当はこんな事やりたくはなかった。
しかし、この場から脱出しなければ、この世界に入る度、あの部屋があった場所からログインする羽目になる。
一回、ログアウトして火が落ち着いたのを見計らって、この場を去るという方法を後になって気付いたが、後の祭りだ。
やってしまったからには仕方がない。
このまま、この穴から外に出よう。
『モブ・フェンリルバズーカ』で開けた穴から外に出ると、そこには涙を浮かべ燃え盛る宿を見つめる宿の人の姿があった。
「お、お客様……ご無事でしたか……」
「ええ、はい。まあ、無事と言えば無事と言いますか……。一体何があったんですか?」
「はい。実は……」
話を聞いて見ると、地上げ屋のオヤジが宿に火を付けたらしい。
「あ、あのオヤジぃぃぃぃ!」
折角、見つけたアリバイ用の宿を燃やしやがってぇぇぇぇ!
許せない!
俺は宿の人の肩を持つと、地上げ屋の場所を聞き出す。
「じ、地上げ屋に乗り込む気ですか!? あの地上げ屋の背後には……」
「いいから教えろっ! あいつ、この宿を燃やすなんて許せない!」
そう言うと、宿の人が涙を流す。
「お、お客様……そんなにこの宿の事を……」
「ああ、当たり前だっ! それより地上げ屋の場所を教えろ!」
「は、はい! 地上げ屋はこの道を真っ直ぐ行った先にあります! 『地上げ屋本舗』と書かれた看板が目印です!」
……『地上げ屋本舗』か。そのまんまだな。まあいい!
「待ってろオヤジ! 宿を燃やしてくれた恨み! 晴らしてくれるわ!」
宿の人から地上げ屋のある場所を聞き出した俺は、『地上げ屋本舗』に向けて走り出した。
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