誤算

九月といえど雲ひとつない青空から降り注ぐ光は来夢の体からボトボトと汗を滴らせた。

途中であまりにも喉が渇いたのでジュースを買ったが、その分急いで自転車を漕いだから、30分と少しでお墓がある霊園に到着した。


バケツに水を汲むとお父さんが眠るお墓を探す。

すぐに花澤家と書かれたお墓が見つかった。

何年も来ていなかったはずだが、体が覚えていたようで案外すんなりとたどり着いた。

カンカンな日差しに照らされて熱々になったお墓に、バケツにくんだ水を上からジャバっと三回かけた。

お墓の前にしゃがみ込んで手を合わせる。


お父さん、やっと俺のも花開いたよ。

学年で一番遅くなっちゃったけど、ちゃんと咲いたよ。

黄色いきれいな花なんだ。見えるかな?

カプセルを手に取ってお墓の前に見せる。


勢いでここまで来ただけなので、他に何も話すことはなかった。

30分もかけて汗だくになって来たのに、話した時間は1分ほどだった。

じゃあ行くね。

来夢はよいしょっと立ち上がって、お父さんのお墓を後にした。



お墓の前に植えられたお父さんの赤色の花は、夏の暖かい風に8枚の花びらを揺らしていた。

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精なる種 橋本伸々 @Ha4moto

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