開花
外から入ってくる九月の暖かい陽の光で目が覚めた。眠れないと言いながら、いつの間にか眠りについていたようだ。何だかとてもいい夢を見ていたような気がする。中野さんと仲良く楽しくお話してる、そんな夢。
何時間くらい寝たのだろう。時計を見ようとして枕元にある休暇中の目覚まし時計に手を伸ばす。
と、同時に何か違和感を覚えた。あれ?何かいつもと違うぞ。何だろう。視界に入ってくる景色がいつもと違うような……
ガシャん。
次の瞬間来夢は飛び起きて、思わず手に取った目覚まし時計を放り投げていた。その隣にあるカプセルを手に取る。
「さっさっ、咲いてる〜!」
そのカプセルの中には真っ黄色な美しい花がしっかりと8輪の花びらをつけて誇らしげに咲き誇っていた。
「やった〜!」
ベッドの上でトランポリンのように何度もビョンビョンと飛び跳ねてその勢いで部屋から飛び出してリビングに向かった。
「お母さん、お母さん!」
「何、そんなに慌てて。土曜日だからってもう10時だ……」
「見てこれ !花咲いたんだ!僕もやっと花咲いたんだよっ!」
洗い物をしているお母さんの背中からそういうと、お母さんはその手を止めて「あら、よかったじゃない」と優しく、でもどこか少し悲しそうに微笑んだ。
少し、あれ?と思ったけどそれよりも花が開いた嬉しさが勝った。
テーブルの上にあったすっかり冷めたベーコンエッグとクロワッサンをチンしてパパッと口に放り込むとすぐに自分の部屋に戻る。
ついに来夢のカプセルの中でも綺麗な花が開いた、この事実を今すぐにでも誰かに伝えたかった。
最後を争っていた水瀬だろうか、同じクラスの武田?それとも美来?それとも中野さんか。
いや違うな、みんなには月曜日学校で明かそう。それとなく、何気ない感じで。
じゃあ誰にしようか?
そうだ、とその時パッと、頭に浮かんだ。
お父さんに言わなきゃ。
来夢のお父さんはもういない。お母さんには、来夢が5歳の時に死んでしまったと聞いているが、あまり詳しいことは話してくれない。でも家族3人で写っている写真は多くはないが残っているし、抱き上げられた記憶もしっかりと残っていた。
お父さんのお墓に報告しに行こう。
お父さんが眠っているお墓は来夢の家から自転車で急げば30分くらいのところにあった。小学校低学年の頃はよくお墓参りに行っていたが、そういえばここ数年は行っていなかったような気がする。
よし、思い立ったら吉日とばかりに寝巻きからTシャツと短パンに着替えてドタバタと玄関に向かった。
「あら、来夢どこか行くの?」
その音に気づいたお母さんがリビングから尋ねた。
「お父さんのお墓!」
「え、お墓? どうして?」
「お父さんに報告してくるんだ!」
「え、でも今日じゃなくてもいいんじゃない?今からだと熱中症になっちゃうかも」
「いや、今日がいい!大丈夫だよ!」
「でも雨も降るかも……」
「大丈夫! 急いで帰ってくるし!」
お母さんの声を背中で聞きながら玄関を飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます