第10話 女神
これは初めてかもしれなかった。
俺は作品を作成する度に、事前にテーマを決めることはあまり時間がかからなかった。明白な目標は目の前にいるように、完成する形も頭の中にある程度想像もできた。
だから、今回は明らかにおかしかった。
10月の文化祭に展示するための作品を夏休み中に仕上げたいと思っていたが、中々テーマが決まらなかった。理央と相談したかったが、彼女はバドミントン部の合宿中で湘南の方に行ったから、さすがにこんなことで邪魔しちゃいけなかった。
俺はあまりよく理解できないのは、合宿はなぜ遠く離れた場所でやらなければいけないのかって、学校でやればいいじゃないか?まあ、考えても無駄だし、それにこっちの方に集中すべきだ。
理央が帰ってきたその日、ただ数分の会話で彼女からはいいアイデアが提示してくれた。その翌日、早速校内を回り始めて、いろんな人の部活を見学しに行った。こういう周りに関心がない俺にしては珍しいことだな、自分でもそう思った。だけど、まだ何もピンとこないから、理央のこの提案は本当にいいなのか内心で疑い始めた。
諦めようと思った時、理央が所属したバドミントン部の練習場所に着いた。そう言えば、一度も理央がプレーする姿を見たことないなあ。丁度今日は新人戦の選抜試合が行われるから、部外者でも見学できることがラッキーだった。すでに観客席が結構人がいて、俺は二階にある空席を見つけた。何だか集まって来た観客のほとんどは女子で、目当てはイケメン男子選手数人みたいだった。
理央はベンチで二階にいたキャーキャーする女子を睨んでいたので、明らかに機嫌が悪そうだった。多分、その歓声で集中したい自分の邪魔だと思っていただろう。まあ、理央は気持ちが顔にすぐ出るタイプだから、知り合ってからたった数か月だけど、俺はこれぐらい分かる。
そして、理央の出番だった。
選抜試合はトーナメント方式で、第一試合から準々決勝、準決勝そして決勝まで4ラウンドがあった。勝ち進めば、4回も試合をしなければならなかった。1回の試合は1ゲームで11ポイントが先に取る人が勝ちだ。この時点に、理央はすでに準決勝まで上がった。スコアボードを見たら、俺は驚いた。
第一試合 11-0
準々決勝 11-0
ええ?理央は一度も自分の腕がどれぐらいあるかを教えてくれなかったから、ここまでうまいとは思ってなかった。相手に一ポイントも譲らないって、実力は相当なもので、しかも本当に負けず嫌いじゃないか。
コートに立った理央はいつもと違っていた。凛としてクールで、いつもの面倒くさがりそうな人じゃなかった。そして、プレーした時の理央は、ただ純粋に楽しんでいたように、特にスマッシュができた時とポイントが獲得した時の満足そうな顔がとても魅力的だった。こんな理央が初めて見た。
結果的に、遠山理央は完璧なストレート勝ちだった。もちろん、無事に新人戦のシングルス代表に選ばれた。
試合が終わって、理央と校門のところで待ち合わせした。
「優勝おめでとうございます。」
「見に来てくれたんだ?さっきギャラリーで見かけた。」
「さっきは機嫌が悪そうね。」
「ああ、キャーキャー女子がうるさいと思っただけ。集中できないだからさあ。」
「まあ、あなたもこれからファンが増えそうだろう。君の試合を見た人たちも多分そういうふうにキャーキャーするかもね。」
「冗談はやめてよ!私はただプレーしたいだし、キャーキャーはごめんだよ。」
「機嫌が悪いから、早く試合を終わらせたいなの?相手が可哀想だな。」
「そういうつもりじゃないけど、そうなってしまった。」
「こういう実力を新人戦で発揮すればいい。優勝楽しみだね。」
「あまり期待しない方がいい、関東で私よりうまい人が多いだから。ああ、急に思い出したけど、あなたの作品のテーマはもう決めた?」
「決めたよ。あなたのおかげだ。」
「私のアイディアが良かったか?やっぱりね!で、どんなテーマなの?」
「完成してからの楽しみだから、今は内緒だ。」
「私まで秘密しなければいけないの?」
「そう、文化祭の時見に来てくれたら分かる。」
理央には内緒だけど、俺は今日で分かったこと二つがあった。
俺はなぜこの数日間イライラして、作品のテーマを中々決まらなかった理由は遠山理央にあった。
そして、俺に創作の霊感を与えてくれた人も遠山理央だった。
理央と毎日会うことが当たり前すぎて、4日間いないだけで俺がソワソワし、いつものこともまともにできないぐらい落ち着かなかった。だから、テーマが決められなかった。理央が帰ってきたことで、俺がやっと安心した。それと、今日で彼女がプレーした姿を見たら、俺は確信した。
遠山理央は俺が思ってたより大切な存在だ、そして俺は彼女に惚れた。
そういうことで、新作のテーマは「女神」に決定だ。
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