第6話 噂話

吉祥寺男は謎だらけの存在だった。


彼にまつわる噂話を学校内で結構聞かされた、その中にどれが真実かどれが嘘かを見極めることはとても難しかった。彼のことを理解しようとしない人たちが、彼と普段あまり関わりたくないなのに、なぜここまで彼の噂話を楽しんでいたのかはまったく理解できなかった。状況をもっと悪化させるのは本人の口から否定や弁明のことばは一切なかったこと。私は彼にその理由を聞いたが、彼はこう答えた、


「説明しても相手は聞きたくないかあるいは信じたくないなら、すべては時間の無駄だ。」


ある程度、彼の意見に賛同した。私だって、あまり周りに自分の考えや言動を説明しないタイプだ。誤解されても、そのままにする。だって、すでに自分の考え方や意見にこだわって、偏見を持つ人にどう説明しても通じないことは痛いほど分かった。


昔、小学生から仲良かった子と一緒に中学に上がり、本当に小さな誤解で絶交された経験があった。私はどう説明しても、向こうは聞く耳を持たないから、長年の友情はそう簡単に終わってしまった。


だけど、寺島の場合は酷すぎて、傍で見てても耐えられないぐらい酷かった。


前に彼を擁護するような発言をしたから、クラスのみんなは私たちを変な目で見るようになった。特に私たちは近所だと知ったら、変な噂が出回り始めた。


「寺島くんはこの前に遠山さんを家まで送ったみたいよ。こんなにラブラブだな、あの二人~」

「絶対付き合ってるから、だって初日から彼を庇ったでしょう?いったいあの二人はいつからできたの?」


私たちの家は隣だから、同じ方向へ同じ時刻で帰ることはごく自然でしょう?


「この前の寺島くんの弁当を見た?遠山さんとのまったく同じだよ。まさか愛妻弁当じゃないよね?」


いや、そもそも寺島は教室でランチを食べないから、どうやってどこで彼の弁当の内容を知ることができたの?大体、同じ弁当になったのは、寺島ママとうちの母の気まぐれな発想で、度々お互いの子供たちにみんなの分の弁当を作ることを決めたからだ。なんか、子供に毎日同じようなものを食べさせないためだって。まあ、意図がすごくポジティブなことで、寺島ママの弁当も相当美味しかったし、ありがたく食べさせていただきました。寺島が言うように、一々みんなに説明するのは面倒くさいから、誤解されてもいいからそのままにした。


でも、これはさすがに酷かった。


「寺島くんと遠山さんはさあ、放課後の教室でキスをしたよ。なんか宿題を一緒にやるように見えたけど、実際はデート中らしいよ。」


私は寺島とはそういう関係じゃないよ、単なるクラスメイト、友達そして近所だ。部活がない限り、登下校は一緒だけど、一度も教室で一緒に勉強することはなかった。大体、寺島は学校で宿題をやらないし。いつも、店か家でやるものなので、わざわざ私と学校に残りやるものじゃない。こういう噂があまりにもリアルに拡散されてて、担任は念のため私たちを呼び出し事実確認までした。


度重なる根拠なしの噂話が出回ったことで、私はつい限界に近づいた。


「遠山さんはいったいどうして寺島くんのことを好きなの?大体、寺島くんって愛想なし、素っ気ないし、ただの変人なの。遠山さんはあまり昔の寺島くんを知らないから、だから簡単に彼に惚れた。本当に、男を見る目がないね。」


自分の悪口を言われたより頭に来た。寺島とは長い付き合いしたのに、子供のから知る友達がなんでそこまで彼のことを言うの?あまり知らない人でもそこまでひどいことを言わないよ。


私と寺島は数か月しかの付き合いだけど、私が知る彼はとても暖かい人だ。外見は冷たく見えたのは彼の保護色だと思った。何度も人に理解されず、誤解され、馬鹿にされてから、彼は周りに対してこの無関心で自分を守る。だけど、愛する家族や友達や地元のことになると、彼は熱心で思いやりできる人だよ。いくら彼の考えに共感しなくても、そこまでは言わなくてもいいと思った。それに、彼の魅力を分かってくれる人は必ずいるから。彼だって、人に愛されてもおかしくないことを証明したかった。


今回はさすがにオーバーだ。寺島もいる教室でこんなことを大声で言う人たち、明らかに彼をいじめていた。私はそのグループの前に行ってこう話した、


「あなたたちは寺島くんの何を気に入らないですか?子供のからの友達なのに、彼のことをよく分かるでしょう?ここまで彼の悪口を言い放題って、恥ずかしくないですか?彼は何も説明しないことはあなたたちの行為を容認するわけじゃないから。ただ、説明しても聞く耳を持たない人たちに時間を無駄したくないだけです。なのに、君たちは調子を乗って、だんだんエスカレードして、もっとひどい噂話を拡散し続けます。人間として恥ずかしくないですか?

それに、寺島くんだって、誰かに好きされ愛される可能性があるし、もちろん誰を好きになる権利だってあります。彼のことを大切に思っている友達と家族もたくさんいます。あなたたちは彼のことを好きじゃなくても、誰かに大切に思われる彼を傷つけることは許さないです。もう二度と彼をあんなふうに言わないで欲しい。」


前回と比べて、今回言ったことは衝動でやったわけじゃない。ただ、自分が思っていることをその人たちに言っただけ、すべては私の友達のためだ。


クラス内の沈黙が続く中、誰かが突然拍手し始めた。振り返ったら、寺島は席から立って私に向けて拍手をしていた。

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