第2話 正体

彼はまっすぐに私を見つめた。その眼差しから特に感情を感じられないが、まるで内心が見透かされたように、体が思わず震えた。すぐ目を逸らしたが、彼からの視線がしばらくしてもまだ感じられた。


新学期初日の大失態だ。


お昼ご飯の時間が来たら、近くに座っていた4人の女子は私のところへ来て、一緒にランチをしようよと誘った。さすがに初日からこういう誘いを断れないので、仕方なく提案を受けた。本音で言うと、一人にいたかった。


どうやら、4人は地元の子で、小学校からずっと同じ学校を通った。クラスの大半は彼女たちと同じだから、みんなは仲良く見えたのも納得。食事を始めようとする時、吉祥寺男は一人で教室を出てどこかへ行った。


「あれは吉祥寺男だよ。」

「え?何男?」

「吉祥寺男。」

「あだ名ですか?どうしてそういう…」

「吉祥寺を愛しすぎて、一歩も地元から出ない男ということ。」

「それは言い過ぎでしょう?」

「吉祥寺男…本名は寺島修治。みんなと同じ吉祥寺生まれ、吉祥寺育ちだけど、彼は吉祥寺をすごく愛しているから、そのあだ名がついた。それ、いつからの話なの?」

「確かに小学生二年から?」

「ああ、そうだね!小学校で作文を読み上げた時、堂々と一生ここにいるって、進学しても、就職しても、結婚してもここにいるつもりだよ。」

「それはいけないですか?」

「別に悪いではないが、彼の場合はかなりやりすぎだね。」

「修学旅行の時、2泊3日の間他県で過ごすだけど、彼は行かなかった。」

「何か理由で、行けなかったじゃないですか?」

「後で聞いただけど、吉祥寺をわざわざ出て、他のところへ旅行する必要性がないと判断し、行かないと決めたそうで。中3の男の子が言うセリフなのか?」

「それって…」

「吉祥寺は確かにいいところだけど、時々そとへ出て、息抜きしたいときだってある。例えば、週末に原宿とか渋谷とか行く、でも彼の場合は全然しないよ。」

「噂によると、東京に行ったことがないみたい。」


私は内心で思ったのは、吉祥寺だって東京都の一部だろう?それに、原宿とか渋谷とかは週末にすごく混んでいるのに、なんでわざわざそこへ行こうだろう?私だって、都内在住の時、そんな若者に人気だけど、めちゃくちゃ混んでいる場所なんかは行きたくなかった。私も吉祥寺男みたいに変人扱いされるべきだろう?わけわからない人たちだね。


「まあ、寺島くんは残念男子だよ。顔もいいし、運動もできるし、成績も常にトップクラスだけど、吉祥寺男というダサいラベルがついた以上、女子たちの間に人気がゼロだ。あの吉祥寺ラブに正直ドン引きするし、どうしていいか困るだよ。」


それを聞いた私は思わず本音を漏らした。


「地元を心から愛しているのに、その気持ちを素直に言えて、行動で表現していただけで、変人扱いされる理由になるだなんて、可笑しいと思います。」


クラスにいたみんなは一瞬静かになった。私ったら、いったいどうして知らない人のためにそこまで言ったか、すごく後悔した。


すると、みんなの視線はなぜか教室裏側のドアーに集まった。振り向いたら、吉祥寺男はそこに立っていた。

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