第2話
この人も一人なのだろうか。
梨沙子は思った。
こういうところは家族連れやカップルが多くて、
なんだかんだ一人でいることを気にしてしまう自分がいる。
なので、一人で来ている人を見ると、親近感が湧き、少し安心する自分がいる。
もう一口、缶ビールに口をつけながら、
そっと横目で隣を確認する。
彼もこちらを見ていて、ふと目が合う。
お互い驚いたのち、軽く会釈をした。
同世代くらいだろうか。
優しそうな顔立ちと落ち着いた雰囲気を感じた。
少しの沈黙の後、
「お祭り好きなんですよね」と彼が言った。
一瞬、私に話しかけているのだろうか?と思っていたところ
「あ、すみません。突然話しかけてしまって」と彼が言ったので
「いえいえ、私もこういう場所好きです」と答えた。
「昼間に外で飲むビール、最高でしょ?」
「はい。最高です。」
そこから少し談笑していると、
彼が「美術館って興味ありますか?」と聞いてきたので
「なくはないです」と答えた。
知人にもらった美術展のチケットがあるということで、よかったらどうですか?と誘われた。
知り合って数分の男性にこんな誘われた方をしたのは初めてだったけど、
不思議と嫌な気がしなかった。
そこから2人は、上野の美術館に向かった。
移動の最中、お互いに自己紹介をする中で
身長の高い彼は、名前は橋本健二、年は3つ上で、旅行系雑誌の出版社に勤めているということを知った。
さらに趣味の話になり、お互いに旅行やグルメ、映画が好きなことがわかり話が弾んだ。
ここ数年、職場と自宅の往復、年に数回会う学生時代の友人や家族だけの人としか関わりがなかったので
久々に出会った同世代の男性との会話がとても新鮮で心地が良かった。
美術館も一通り回り終わった後、
今度は勇気を振り絞って私から誘ってみた。
以前から気になっていたチーズケーキの店がこの近くにあったが
なかなか一人で行く勇気がなく、これはいいチャンスだと思った。
「甘いものはお好きですか?」
「大好物です!」
日曜日の午後2時半、人気店ということもあり店頭に少し列ができていた。
「混んでいますね」
「すみません、付き合わせてしまって。お時間大丈夫ですか?」
「家に帰っても海外ドラマ観るくらいしかやることないですからね」
気遣いのできる人なんだろうなと思った。
恋人はいるのだろうか。
スイーツ店に並ぶ私たちは、周りから見ればどう見えているのだろうか。
そんなことを考えていたら、店内に案内された。
その日梨沙子と健二は連絡先交換をするとともに、
今度は彼が気になっているスペイン料理に行くという約束をしてお別れをした。
心もお腹も満たされた気分だった。
梨沙子は帰りにレンタルビデオ店に寄って、お気に入りのワインを買って帰ることにした。
(続く)
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