結婚

 ある日、咲菜さなさとるは横浜でデートを楽しんでいた。

横浜でデートとは言っても二人のデートはそんな美しいものではない。


 その名もラーメンデートだ。


 最初に出会ったのが近所のラーメン店ということからも想像できるように、

二人とも大のラーメン好きなのである。

 間違いなくこのカップルはラーメンあっての仲。


 横浜に行っても家系ラーメンを食べ歩いている。


 そして、3軒目のラーメン屋に寄ったときのことだった。

急に咲菜が聡にこんなことを言い出す。


 「の付く言葉を十個挙げられたら結婚してあげる」


 これに聡は結婚については冗談だと思いつつも、

麵好きとして答えないわけにはいかなかった。


 「ラーメン、つけめん、ぼ・・・、イケメン・・・」


 (あらやだ、あの芸人のネタじゃない・・・)


 咲菜は笑いをこらえる。


 「そうめん、仮面、面会、めんどくさい・・・んー」


 遂に聡の言葉は尽きてしまった。

すると、聡は今になって悔いはじめる。


 (もし・・・、あの言葉が本当だったら、僕と結ばれていた・・・)


 聡も三十代半ばといったところで、正直言ってブサイクで陰キャで

結婚にはあまり縁がない。

 今後、そのような縁がないと考えると悔しかったが、


 (もう思いつかない・・・)


 と諦めた聡。

だが、咲菜は唐突にこんなことを言ったのだ。


 「聡さん、結婚してください」


 「・・・・・・!!!」


 予想外の告白に聡は思わず叫ぶ。


 「面食らったー!!」


 ラーメン屋の中での出来事とあって他のお客さんからも拍手が沸き起こる。

しかし、聡はふと思った。


 (こんな僕が咲菜さんのパートナーでいいのだろうか・・・)


 冴えない聡に相反して咲菜は三十歳丁度で心も体も美人。

そんな彼女が僕と釣り合う筈がない。


 そう思い詰めた聡は何か理由を付けて断ることに。


 「ごめんなさい。僕は咲菜さんの要求に答えられなかった。

そんな僕に資格はないです」

 「では、さようなら」


 こう言って聡は走り出そうとしたが、咲菜がそれを引き留める。


 「待って!私は聡のことが大好きなの!」


 「え・・・、でも・・・」


 振り返った聡に向けて咲菜は言葉を重ねた。


 「それに十個言えたじゃない」


 「え?」


 驚く聡に咲菜はにこっと笑い、こう述べる。


 「聡が最初に挙げてくれた八個に加えて、食らった、と、ごなさい」


 「ほら、十個そろったじゃない」


 ここでやっと聡の顔が明るくなった。


 「じゃ、じゃぁ・・・」

 「僕と、結婚してくださいっ!!」


 こう言って聡は用意してあった結婚指輪を咲菜の前に差し出す。

まさか用意しているとは思わなかった咲菜はこう思った。


 (聡が初めからそのつもりだったなんて、面食らったわ♡)


 二人がこう、やり取りしている間に注文したラーメンは伸びきっていた。

でも、これは二人の縁が末永く続くこと示すものなのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショート製作所 武田伸玄 @ntin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ