11:謝罪と感謝と、お願い事 … ≪前≫
【急募】誠心誠意を見せるための最上級の謝罪の仕方。
……とりあえず現状を打破するために、そんなことを脳内にて必死に検索しているけれどそれに対するまともな回答は得られない。
そもそもその脳内検索さえただの現実逃避に過ぎないので、そこでまともな回答など得られようもないことは分かりきっているけれど。
「………た、大変…あの、………お見苦しい、姿、を……」
普段通りにしたいのに、声が、どうしても震えてしまう。
『くーちゃん』の正体が何であれ、ずっと愛で続ける覚悟はしていたけれども、まさかその正体が、自身の勤める職場の上司だなんて。
「わ、…わたし、その……ほ、ほんとうに、まさか、あの、こんな………」
昼の職場における最もハイスペックな男として知られている、
顔がいいのはもちろん、体格だって理想的なバランスで成り立っており、仕事も気配りもできるという…まさに神が二物も三物も与えたようなお方であるから、モテるのも当然だった。
そんな、そんなパーフェクトすぎる男性を前に、…………私、この数日間一体何をやらかした?????
「ああああぁぁぁぁぁぁすみませんほんとごめんなさいゆるしてくださいしんでわびさせてくださいほんとうにもうしわけございませんんんんんん!!!!!!」
瞬間的に頭を巡った数日間の走馬灯を流し見てしまった私のSAN値はもうガリガリ削られてしまって、もう発狂するしかない。
頭を床に擦り付けるようにして、見事なまでの土下座を決めながら、辞表届の内容を脳内で書き殴る。
「こらこら、無為に謝るんじゃない。僕は怒っていないし、寧ろどちらかと言えば急にキミの生活に入り込んでしまったまま、きちんと話もできずにいた僕の方が謝る立場なんだから」
昼の職場がなくなってしまったとなると…次はどの職種にすべきだろうか…と、本気で悩み始めた自分の思考を止めたのは、他でもない、もふもふな姿(に薄っすら被るように揺らめく人影の)彼だった。
「で、ですが…その…私あまりにも失礼でした、よね?」
「失礼?…いや、全然?家の中でのキミはいつもとても愛らしかったし、人から甘やかされるというのも新鮮で、実に心地好かったよ」
ふふ、と揺らめく人影があまりにも美しい笑顔を浮かべる。
「…………ぅぐ…っ」
その眩しさたるや……筆舌に尽くしがたいので、割愛させてください…。
「…大丈夫?」
「だいじょうぶです、ちょっと、イケメン成分を過剰摂取しすぎただけです……」
「?」
こてん、と首を傾げる仕草は、ぬいぐるみの『くーちゃん』と何ら変わらないのだが、それに重なる専務の人影のせいで何やらドギマギとしてしまうのは、致し方がない事だと思う。
顔面の作りの良さを自覚しているはずなのに、それを惜しまずに使ってくるあたりこの人の危険度は爆上がりである。
「ええと…、あの、正直私今現在かなり混乱しておりまして……」
「ん?あぁ…、まぁ、そうだよね。ごめんね、僕みたいなおじさんが女性のプライベートスペースに勝手に入り込んでしまってて…もしキミが落ち着けないようなら、僕は別にベランダとかに放り出してもらっても構わないよ」
「え!!!??いやいやいや、そんなことしませんよ!!?……というか、専務は結構落ち着いてらっしゃるんですね?もしかして…結構前から意識はあったんですか?」
「ん?………まぁ、そうだね」
「あ……そう、なんですかぁ……。あの……ええとですね…できれば、でいいのですが……今まで我が家で見聞きしたものはすべてお忘れ頂ければ幸いなんですが………」
「……忘れるのは、流石に無理かな」
「あはは…ですよねー……」
出来るだけ丁寧にというのを心掛けながら専務へ言葉を紡いでいく。
やらかしてしまったことは、もうなかったことにはできないと分かってはいるものの、それでも一縷の望みを諦められなかったが故のこの言葉であったが、彼はそんな自分の微かな望みを一刀両断する。
「キミがあんまり可愛らしいから、ずっと目に焼き付けてた。だから、残念だけど今さらどう頑張ったって忘れようがないんだ」
「………え」
思ってもみなかった言葉に顔を上げた瞬間頬を撫でられる。
するり、と頬に感じる柔らかさは確かに『くーちゃん』のぬいぐるみ特有のもふもふな腕の感触なのに、視界の情報では目の前にいるのは女性の理想を詰め込んだとも言われているパーフェクトな男性、その人だ。
そんな人に、そんな甘い言葉を吐かれるような経験をしたことはない。
だからこそ…現状から逃れるすべを、自分は知らなくて…。
「……う、」
「顔、赤くなったね。…恥ずかしい?」
「そ…、そんなの当り前じゃないですか!!!?無理ですこの距離近すぎるんで離れて下さい!!!!!」
「えぇ?『くーちゃん』の時は、そんなこと言われなかったのに」
「『くーちゃん』は『くーちゃん』だったから!です!!でも、専務は……っ」
ぽす、と自分の言葉を遮るようにぬいぐるみの腕が私の唇を塞ぐ。
そしてじっとこちらを視る『彼』の視線を真正面から受けた私は完全に言葉を奪われてしまった。
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