☆2021➟2022:カウントダウン特別番外/Happy New Year!

光の花が咲くと同時に、胸に直接響くような大きな音が鳴った。


さらに続けて、赤・青・橙など、たくさんの色が夜空に散っていく。



(……わ、ぁ…)



それは、見たことがないほどに美しい花火の数々。


思わず乗り出しそうになった体を、男性は落ちないように抱えなおしてくれて、それから「ちょっとだけ待っていて」と、自分を窓のそばにある棚の上に置いてから部屋を後にする。


置いて行かれてしまったことに多少の不安はあったものの、丁度棚の高さからでも見える花火の美しさに目を奪われ、しばらくただぼんやりと次々打ちあがり夜空に描かれる光のアートをただ眺めていた。


こんな風に落ち着いて花火を見ることなどここ数年あっただろうか…?とちょっと意識を遠くに飛ばしていたところに彼が戻ってきた。


先ほどより少しだけ厚着をしている様子に、おや?と首を傾げていると、にっこりと微笑まれて、思わずドキッとする。



「おいで。窓越しより、直接の方がよりきれいに見えるから」



言うや否や、彼は着ているコートの胸元のチャックを少し開いて、そこにプットインした。


いい歳した大人の男性がそれを持つには違和感しかない、ピンク色のふわふわのウサギのぬいぐるみを、だ。



「……………、……!!?」


「ほら、ここ。ちょうど収まりもいいし、これならキミも寒くないね?」



よしよし、と満足そうな声音でこちらの頭を撫でてくるけれど、ちょっと今こちらにかまわないでいただきたい。



(…ひ、ひぇ……お、大人の男の人の香りがするぅ……ッ!!!)



まさかそんなにも密着させられるとは思っておらず、ガチンと瞬間冷凍でもされたかのように固まった自分だったが、彼がそのままベランダに出た瞬間に夜空に描かれた黄金の柳花火を目にしてしまえば、その美しさに体のこわばりなど一瞬で解けてしまった。



(あぁ、…なんて綺麗)


「そうだね、すごく、きれいだ」



こちらの声がまるで聞こえているかのようなタイミングで彼がつぶやいた。


思わず振り返りながら彼を見上げると、優しい顔でこちらを見下ろしている彼と目が合った。



(……あれ?…この……ひと、は)



室内の明かりが彼の背後から差しているせいで、またしても逆光となっていて顔ははっきり見えない。


でも、確かにその目には覚えがあったのだ。


そうだ、彼は………。



「………、…」


「Happy New Year.…キミに逢えて、僕は本当に幸運だ」



いつも少し心配そうに、けれどもいつも優しく見守っていてくれている、あなたは。



「今度は、で、こうして一緒に花火が見れたらいいね」


「―――……っ」



彼が一言、少しの淋しさを滲ませながら囁いたその時、一気に花火が打ちあがり、周囲が一気に明るい光で包まれる。


その光に呑まれるように、私の姿がゆらりと揺れてぼやけてゆく。



「忘れないで。僕が、そばにいることを」



白く溶けていく視界の中で、少し低めの声が鼓膜を揺らす。


甘い、蕩けるような、ひどく蠱惑的な声。


その声に知らず知らずのうちに身を震わせた刹那。



………―――夢が、弾けた。



























「………。くーちゃん、」


「………………?」



白く、白く、どこまでも白く塗りつぶされたと思ったのだが、どうやらあれは夢の終わりということだったらしい。


目を醒ますと目の前には可愛らしくこちらをのぞき込んでいる大きなくまのぬいぐるみの姿があった。


……正直に言おう。


寝起きドッキリみたいなこの起こし方は本当にやめていただきたい、切実に。



「…、ずっと起きてたの?」



いきなり『くーちゃん』の顔のドアップがあって恐怖を感じたことなどおくびにも出さずに、ゆっくりと体を起こしてから聞くと、ぺこん、と可愛らしく頷く『くーちゃん』に心臓鷲掴みされたような気分になるが、もはやそれすらご褒美ですありがとうございます可愛いの極みであるほんとうに神様ありがとう。



『なにか楽しい夢、見てた?』



こちらが感動に心震わせていたところに、唐突に『くーちゃん』がそんなことを聞いてきた。


……そういえば、何か夢らしきものを見ていたような気もしなくもない。


けれど…、不思議なくらい、その夢の記憶が抜け落ちている。


だが、いつもの悪夢では得られないような暖かな何かが胸に残っているのだけはわかるのだ。



「んー…?そう、なのかな…。楽しかったのかも?よく覚えてないからわかんないけど、でも嫌な夢じゃなかったと思う」



その言葉に、心底ほっとした様子で『くーちゃん』は自分を抱きしめてくる。


おそらくだが自分が悪夢を見たら叩き起こそうとでも考えてくれていたのだろう。



「ふふ、」


「………?」


「あぁ、ごめんね?くーちゃんがあんまりにもいじらしくて、可愛いから」



心配してくれてありがとう、と伝えながら自分からも『くーちゃん』の背に腕を回す。



「Happy New Year!くーちゃん!!……今年も、来年も、再来年も、ずーっと一緒にいようね」



あぁ、今年は本当になんて幸せなスタートなのだろう。


今年はきっといい1年になるねと笑えば、それを肯定するように『くーちゃん』が私をなでなですりすりと猫可愛がりするように撫でてくる。



「………?あれ…?」



その撫で方にどことなく覚えがある気がするのだが……?と、何かが琴線に触れかけたが…寝ぼけた頭で感じる違和感など吹けば消える蝋燭の炎程度のものでしかなく、結局は『くーちゃん』と過ごせる多幸感に押されて、夢の断片は、記憶の海に沈んで消えたのであった。






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あけましておめでとうございます!!!!

2022年ものんびりまったり執筆活動に勤しみたいと思います。


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