☆2021➟2022:カウントダウン特別番外➊
なんとか眠気を振り切りつつ、頑張って力を入れて彼の手から逃げようとするも、そんな抵抗も全く意に介することなく、完璧にいなされてしまって、結局はこちらが疲れるだけという大変残念な結果になった。
(……そもそも…成人男性と、小さなぬいぐるみとじゃ体格差ありすぎて、抵抗なんて、意味ないよねぇ…そうだよねぇ……)
さすがに、じたばたと暴れすぎて疲れ切ったこともあり、無駄な抵抗をやめた自分に対して、何を思ったのか彼は唐突に自分を掴んだまま立ち上がる。
(―――……っ!!!?ちょ、ま…っ、た、高い!いきなり何!?…っ、高すぎる!!…っこわい!!!)
急に浮上した視界の高さに眩暈を覚えていると、さすがの彼も自分が震えているのに気付いたようで、抱え方を胸に抱くような形に変えてくれた。
「あぁ……っ、ごめんね、怖かったね」
優しい柔らかな声が耳に届く。
とんとん、と背をたたくその手があまりに優しくて、ちょっと泣きそうになったけれど、今の自分はぬいぐるみだから涙なんか浮かぶはずもない。
それでもなんだか気恥ずかしくて顔を彼の胸元にすり寄せると、彼も嬉しそうに笑ってくれたようだった。
「ふふ、小さいし、ふわふわだし……かわいいね、本当に。こんなに可愛いキミなら、いつまででも撫でてられるな」
なんとなく、勝手な偏見で男性はぬいぐるみなんて大事にしないものだと思い込んでいたのだけれど、これはちょっと考えを改めなくては…と内心で苦笑する。
心から大切だと思ってくれているのがその手つきからも十分感じているが、何よりその言葉、声のトーンなども、本当に愛おしいものに対するそれであるのが何よりの証拠だと思う。
ただ少し…いや、かなりといって過言ではないと思うが……言葉からにじみ出ている愛情が甘すぎて、自分の受け皿では愛情を受け止めきれずにキャパオーバーしてしまうらしく、この身には馴染みきれないようだ。
(うぅぅ………!!なんか、もう、…無理だ!!恥ずかしい!!砂が吐けそうなくらい言葉が甘い!!!あと、なんか…撫でる手つきがちょっとやらしいのでは…っ!!?)
ぬいぐるみの体では抵抗できないとわかっているから、諦めの境地でおとなしくはしているけれど、精神年齢では31歳の自分からすると、こんな風に猫可愛がりされても全くもって嬉しくない。
せめてもの抵抗にと自分の体を支えてくれている彼の手を、ピンク色の小さな腕でぺふぺふと叩いてみたが、彼にとってはご褒美でしかないようで、ふふ、とどこか満足そうに笑うばかりだ。
「そんなに嫌がらないで?もう少ししたら、ここからいいものが見えるんだ。いつもはちょっと煩わしいくらいに思ってたんだけど…キミと見るなら案外悪くないかもね」
「………?」
いつの間にやら、窓際に連れてこられていたようだが、そこから見えるのは夜のネオンくらいだ。
……ここから見えるいいものとは?と首をひねったその刹那。
パッと夜空に大輪の光の花が咲いた。
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