07:"自分"を構築し直す3日間

働く人で溢れるこの国の今現在。


人それぞれ、働く理由というものがあるのだろう。


家族のため。

自分のため。


きっとそれぞれ欲しいものや守りたいものがあって、それを求めるにはまずはやはりお金というものがどうしたって必要だから。


お金の対価は労働力が基本である。

つまり……求めるなら、働けと。


分かりやすく纏めてしまうと、まぁ、そういうことなんだけれども。



「……、う」



でもまぁ、中にはそうではない人間だっているわけで。



「あああああああ……っ、やだぁぁぁ!もう無理くーちゃん!!!私仕事行きたい!!!!もう無理ーっ!!!!!」



そう。


働かないと死ぬ。

なんか、もう色々死ぬ。


そんな人間も、ここにはいるのだ。


私だって、働いた分のお金はまぁ欲しい。


タダ働きはさすがになぁ……とは思うから、サービス残業は断りたいが、給与が発生するというならどんなに連勤でも全然余裕。


むしろそろそろもう1つ仕事増やしちゃうか?とも考えていた自分に、突如として与えられてしまった昼夜3日間の連休……。


これが!!

どうして狂わずにいられようか!!?


"仕事中毒"とはまぁ上手いこと言ったもんだね昔の人!と、じたばたしながら騒ぐ自分は完全に禁断症状が発現している。


働きたいのに、働けない。


そのストレスが、今までに感じたことがないほどの勢いで容赦なく襲いかかってくるせいで、非常に情緒不安定であるという事実を、自分自身でも自覚はあるが消化の仕方が分からず叫ぶしかない。



「うぅ…近所迷惑ですみませんごめんなさい……。でも無理。これ、ほんと無理。仕事行きたい……。いますぐ働きたい……。ううううう……」



ちなみに、こんな感じで騒いでいますが、本日は突如湧いた3連休の1日目であるわけで………………。



「……え、信じられない……。働けない日が……あと2日……??いや、まだ今日だって午前中だよ???実質……3日!!?やぁァァァァ無理だよこんなのただの拷問だァァァァ!!!!!」



わぁぁん!と喚きながらくーちゃんのもふもふおなかに、ギューッと縋りつく。


そんな自分の姿を一体どんな風に捉えているのかはちょっと分からないけれど、特に不満そうな様子もなく『くーちゃん』は自分をただ抱え込んで抱きしめてくれる。


……まぁ、自分が働けない状況にしたのはここにいるくまさんなわけですがね???


でもしょうがないんですよ、自分の唯一の癒し!!

そして、もはや精神安定剤と言って過言ではない存在なので。



「はぁ……、ほんと、ふざけてないでどうするか……ちゃんと考えなきゃねー……」



さすがに、3日間を何もせずに布団の中で寝て過ごすなど、そこまでの自堕落は許されないと、自分の中の僅かな理性が言っている。


しかし、だからといって突然アクティブに外に飛び出すなんて、普段から職場と自宅の行き来しかしないような人間にはあまりに難易度が高すぎて、とてもそんな気分になれるわけが無い。



「んー……」



困ったねー、と小さく呟いてから『くーちゃん』に寄り掛かる。


『くーちゃん』は、昴さんとの電話のやり取りのあとから、どうもこのバックハグの体勢がお気に入りになったらしく、テディ座りの『くーちゃん』の足の間に自分をおさめたがるようになった。


示された場所に座り込んで、少しだけ後ろに重心を傾けると、そのままぎゅう、と抱きついてすりすりしてくれる。


…………あー……。


だめ、これ、可愛いが過ぎる。


可愛いの過剰摂取で鼻血出そう、と本気で思えてしまうのだから自分も大概ヤバいやつだなどそろそろ認めざるを得ない。



「……くーちゃんはホント甘やかすの上手だよねー……」


「……、…………」


「でも、そんなふうにずーっと自分が相手を甘やかすばっかって、実はかなりしんどいでしょ?……いつも、ごめんね?」


「…………………………」



後ろから自分を抱き込んだままの『くーちゃん』にそんなふうに語りかけつつ、ふと、思い立つ。



「そうだ!今日はくーちゃんを存分に愛でよう!!!」


「…………、……!?」



力いっぱい宣言すると、『くーちゃん』の身体がぴくりと跳ねる。


まぁ、きっと、「休んで?!」とかそういうことを言いたいんだろうと思うけど、今の自分は休むことが苦痛なのだから仕方がないのだ。



「そのためにはー……まずは、ええと……確か、こっちの……ここらへんに………んー…?………あ!!あったよ!ほら、これ」



大したものは入らない押し入れの中から、ひとつのダンボールを引きずり出す。


『くーちゃん』も気になったようでそっとそのダンボールを覗き込んできた。


箱の中には……色とりどりの毛糸玉がゴロゴロと入っている。



「昔住んでた家の近くに手芸屋さんがあってねー。そこのおばあちゃんから指編みを教えてもらってたんだけど、私が……色々あって、急に引っ越すってなった時に、売り物なのにこんなに沢山毛糸玉くれてさ」



あか、あお、みどり。


糸の太いものから、細いものまで。


たくさんの色の毛糸玉で溢れるそのダンボールだが、結局引っ越してきてから使うことも無く、完全に封印してしまっていた。


越してくるまでも、越してきてからも、気持ちにあまり余裕がなかったから、その存在すら記憶の彼方に消えていたが、不意に作りたくなったのだ。


これを使って、可愛い『くーちゃん』をさらに可愛くするアイテム……そう、指編みマフラーを。



「ねぇ、くーちゃんは何色が好き?いくつか色を組み合わせてもいいよ?とびきり可愛いの作ってあげる!」



ようやく休みの過ごし方が決まり、ほくほくとした気分で支度を始めると、唐突に『くーちゃん』が近くに寄ってきて、こちらを覗き込むように顔を近づけてきたかと思うと、自分の鼻先と『くーちゃん』の鼻先を、ちょん、と軽く触れさせた。


そうして、唐突なその行動に固まってしまった自分の様子にどことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら、そのまま自分に抱きついてきて、すりすりと頬擦りをはじめる。



「……は、鼻……鼻ちゅー…だと……っ!?くーちゃん、そんな、壁ドンより高度な口説きテク、一体何処で覚えてくるの……!!?」



こうなってくると、最近の乙女の胸きゅんトレンド全網羅しているのでは……と思えてしまううちのくまさんが大変恐ろしいのですが、これ如何に。


甘やかし上手な上に、甘え上手だとか……この子が人間だったらもうただの天然タラシだな、恐ろしい子!!!!と、内心思いつつも

、ぎゅうとしがみついて甘える仕草を見せる『くーちゃん』の誘惑には勝てませんでした!!!


甘えに来るもの拒むべからずな状態の今の自分は、どんなデザインのマフラーにするかを一応頭の片隅で考えながら、甘やかに擦り寄ってくる『くーちゃん』を、ただひたすらに撫で甘やかすのに勤しむこととする!!!以上!!!!







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