04:優しさで生かされている … ≪後≫
『じゃあさ、キミの周りにそういう人いたとしたら、キミならどうする?』
「……え。それは、もちろん……自分が出来ることならなんでも………………あ。」
そこまで言われれば、たしかにいくら鈍い自分でもピンとくるものはあった。
つまりは他の人も、自分に対して同じように思っていたんだぞ、と。
迷惑かけた分。
お世話になった分。
理由は様々であれど、なにかお返しできる機会があるなら是が非でも自分がやりたいと。
たくさんの人が、そう思っているよ……と。
柳田さんはそう教えてくれたのだ。
いつも彼は、怒鳴る訳ではなくきちんと流れを整理し、やさしく諭して、正しい方向をむくようにとそっと案内してくれるような、そんな指導をしてくれる。
『そ。つまりは、すごーーーーく、その人に協力したくなるよね?』
「……は、い」
『だから今回、いつも田ノ倉さんに迷惑かけてるんだから、今回は私がお役に立ちます!!!!みたいな子がすごい多かったんだよ。それなら、公平にいくためにクジで決めましょうか……ってね。いやぁ、今までも色んな子たちと仕事してきたけど、周りのスタッフからシフトの奪い合いが始まるくらい慕ってもらえてる人とか初めてだわ』
「それだけ、キミはいつもいい仕事をしてるってことさ」と、心底可笑しそうに笑っている彼から、怒りの色は全く見えない。
怒られる気満々だった自分としてはかなりの肩透かしを喰らい、もう、今この瞬間自分の胸の内に渦巻く複雑な感情の置き所も分からなくて、どこか投げやりな気分で途方に暮れつつ、今はただ自室の天井を仰ぐより他になかった。
一応シフトの確認をすると、本日はもう代打の子がやる気満々で頑張ってくれているのでそのままゆっくりしてて、と言われてしまい、まさかの臨時のお休みを頂いてしまった。
さらに、本来ならば明日、明後日も勤務日だったのだが柳田さんから、お休みしてしっかり養生しなさいと指示されてしまったため、期せずしてここ数年取ったことも無い3連休を貰うことに。
なんというか、自分が関与しないところでトントン拍子に事が進んでしまって納得できないような気がしなくもないが、甘えられる時に甘えさせて頂こうと考え直し、素直にその提案を受け入れることにする。
「あの、今回は本当にすみません…。有難くお言葉に甘えさせてもらいます……」
『いやいや、僕らがキミに甘えすぎてたのも良くなかったって話だし、むしろこっちがごめんなさいって言わなきゃいけないとこなわけよ、本当はね。まぁそこは今後話し合うつもりなんだけど……あ、それよりさ……休んだ後の勤務日は覚悟しておいてねー?』
「え?」
何かを含んだような物言いが引っ掛かり、思わず聞き返すと、柳田さんの口からとんでもない発言がポロリとこぼれ落ちる。
『キミがさぁ、まさか同棲してるなんてさぁ?……いやぁ、長い付き合いだけど、僕そんなの知らなかったしー?……だからぁ……ふふ、今度の勤務日に、色々聞かせてね?』
「………ぇ、……どうせ、い……!!?」
『僕はもうあのメッセージ貰ってからどういうことなの!?って、気になって気になってしょうがないったら……!……事の真相を聞けるのを楽しみに、キミが戻ってくるの待ってるからー。あ、休みの間はちゃんと休むんだよー?』
突然の爆弾発言を投下されて混乱しきったこちらの反応はサラッと無視して「それじゃあ、彼氏さんによろしくねぇ」と、軽やかに歌うように告げると、それに対する返答も待たずに柳田さんは容赦なく通話を打ち切ってしまった。
……ちょ、待ってください柳田さん!!?
なにそれ!!
どこ情報なの、そんなデマ………っ!
…………。
………………。
………いや…、まさか……。
「あの、……くーちゃん?」
「………………」
電話の最中、いつの間にやら自分の後ろに回り込んで、ずっと自分を抱き抱えるようにして座っていた『くーちゃん』を振り向きざまに仰ぎ見れば、ふいっとわかりやすいくらいに顔を背けるその様に、ようやく事の次第を察した。
そしてそれを誤魔化すかのように、すりすりと頭を後頭部に擦り寄せる仕草を見せ始めた『くーちゃん』を、今回ばかりは心を鬼にして無視しながら、ひとまず、今すぐに確認すべきは自身のスマホである。
すすす、とスマホを操作して可能性が最も高いだろうショートメール機能をひらくと、案の定そこに最新の履歴が残っていた。
電話帳に登録していた『カラオケ/柳田店長』宛。
もちろんこの日時に自分がショートメールを柳田さんへ送った記憶は皆無。
送ったメッセージは以下の通り。
『こんばんわ。田ノ倉ささらさんと一緒に住んでいるものですが、彼女が体調を崩しているようなので、急で申し訳ありませんが、本日から、可能であれば数日間お休みを頂ければと思いご連絡をしました。ご面倒とご迷惑をおかけしてしまいますが、ご対応の程よろしくお願い致します。』
そこにはあまりにも出来すぎた文面が表示されていた。
その内容にだって、まっっったく覚えがない。
そもそも柳田さんにこんな丁寧な言葉遣いでメッセージを送ることは無いし、自分が自分の判断で送るとするなら他人のフリをする必要もないし、なんなら、誰かと住んでいるという事実も存在しない。
……が、こんなことが出来る存在は知っている。
「……!!?……な……っ、なん……!!!!?」
スマホの画面と背後の『くーちゃん』に視線を何度も往復させたあと、さすがにこれはない!と、自分は『くーちゃん』に抗議の声を上げかけたものの、肝心の言葉は出てこない…。
すると『くーちゃん』はするりとスマホを、自分の手ごと引き寄せて、自分の手にタッチペンを持たせる。
そしてそのまま、『くーちゃん』は自身の腕ごとタッチペンを軽やかに操作して言葉を繋げていく。
『ごめんね』
メモアプリを開いて、1番に書き出されたのは短い謝罪の一言。
『でも、こうしないと休んでくれないでしょう?』
続けてそんな文章を打った『くーちゃん』は、手を止めてぎゅう、と自分を抱え込んで甘えるようにすりすりと再び頭を擦り付けてきた。
「はーぁぁぁ……」
そんな、あまりにもわかりやすい『くーちゃん』の甘える攻撃を受けた自分の口から、思わず大きなため息がこぼれる。
だめだ。
もうダメだ。
何がダメって……自分が、一番だめだ。
「ごめんなさい…は、私の言葉だね……くーちゃん」
可愛くて、大好きで、一番近くて、たいせつな。
そんなこの子に今までずーっと酷く心配させていたのだ、自分は。
「それと、ありがとね。……大好きだよ、くーちゃん」
言いながら、今更ではあるが頭の中に『働き方改革』という言葉が巡る。
それを真剣に考え始めるきっかけがぬいぐるみとは……。
正直、中々特殊な事案だと思うけれど、それもまぁ、自分らしくていいと思うのだ。
あぁ……今日も、自分は周囲の優しさで生きているんだなぁ……と、感傷に浸りながら、『くーちゃん』のもふもふを堪能していられたのはそう長い時間ではなく、この連休の後、遠慮も加減もない柳田さんや同僚スタッフさん達からの、あまりにも激しい同棲疑惑に対する追求に割とガチで泣くことになるのだが……それはまた、別のお話。
✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣
前回主人公の苗字出したからついでに下のお名前も出しとこうぜ!というノリで出しました←
本当は漢字で「簓(ささら)」ちゃんって表記しようと思ってたんですが、誰も読めんわ!って言われそうだなと思ってひらがなになったという裏話もありけり(笑)
もう少し登場人物増えたら、主要メンバーの紹介纏めたいなー……と思っていますが、予定は未定( ˙꒳˙ )
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