※ 閑話:愛しい彼女の為ならば

◤◢◤◢◤◢◤◢注意◤◢◤◢◤◢◤◢


この先、一部暴力・流血描写が含まれます。

その手の表現が苦手な方はブラウザバックし、自衛して頂きますようお願いします。


ちなみにこの閑話自体は読み飛ばしても、ストーリー上問題はないです。


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たとえば、「彼女の好きなところは?」と言われてしまうと、答えきれないくらいたくさんあって、とてもではないがキリがない。


「それでは、1番を選ぶなら?」と言われたならば、これには迷わず『彼女の笑顔』と答えるだろう。


まだまだ幼さを残す顔つきの頃も、それはそれは愛らしかったが、成長して大人らしさに欠片も違和感が無くなった女性らしい今の彼女が浮かべる微笑みも大変魅力的である。


どれだけ疲れていようと、いつもその可愛らしい笑顔をもってして迎え入れてくれる彼女が、心の底から愛おしくて堪らない。


少し困ったような笑顔も、子供のように無邪気な満面の笑みも、控えめに上品に微笑む瞬間も、その全てが魅了してやまないのだ。


この愛の深さが視覚化できないのが本当に残念でならない。


好きだ。

愛している。

ずっと、一緒にいたい。


彼女もきっと同じ気持ちでいてくれているだろうと、そう確信している。


けれど、身も心もその存在全てにおいて愛くるしい彼女には、頻繁にが集まってくる。


それは……もう如何ともし難いもので、ただただ仕方がない事であった。


彼女が余すことなく振り撒くあの魅力には、ただの小虫では抗えまい。


だが、穢らわしい虫どもが、彼女の傍に寄ろうなど、到底赦されることではない。


今までもずっと傍らから、長らく見守ってきてはいたけれど、ただ見ているだけでは護れない。


……そう、のだ。


赦せない。

赦さない。


彼女のための『唯一』は、

……ずっと、ここに居るのに。


彼女の傍に在りたい。

彼女を傍で護りたい。


彼女と共に、──たい。



(……ずーっと……、キミと、一緒に)



───……ごとり、と。


重量感のある音とともに足元に転がったのは、赤黒い液体を棒の先から滴らせる鉄製のバール。


まさに今、自身の手から滑り落ちたそれを、今一度拾い上げながら、地に伏してその身を微かに痙攣させているを一瞥する。



(ほら、ここにもまた……1匹)



今日も、こうしてを駆除していく。


彼女に寄り付き、その甘やかで馨しい蜜を図々しくも無遠慮に吸わんとする愚かな虫どもから、何よりも愛おしい大切な彼女をこの手で護る、そのために。



「………………、ば、……けも、の……っ…」



が鳴く。


辛うじて発せられたそのか細い鳴き声は、ザワつく喧騒に掻き消されて、明るい世界には届かない。



(……渡さない)



じっくりと『それ』に狙いを定めながら、先程手にしたバールを勢いよく垂直に振り上げる。



(彼女は、ボクのなんだから)



そのまま一気に真下に振り下ろしたバールは空を切って風を鳴かせ、そして……────























無音を取り戻した路地裏のアスファルトに、とろりと粘り気のある赤黒い液体が拡がっていく。


表の喧騒とは裏腹に、耳に痛いほどの静寂の中、青白い月の光がその凄惨な光景をただ冷ややかに照らし出していた……。




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