第18話 きみからの提案
◇
「蓮見さん」
朝のHRが終わったあと、右側の席の田中くんから声をかけられる。
少し視線を向ければ、レンズ奥の綺麗な瞳とぶつかった。
それは今までと同じ光景のはずなのに、なぜか彼が少し違って見える。
「今日の放課後時間空いてたりする?」
田中くんからそんなことを聞かれるのは初めてだったから困惑して、え、と声を漏らした私はしばらく頭の中で考えてから。
「……放課後、何かあったっけ?」
私が忘れている学校行事のようなものがあるのだろうか、そんなことを張り巡らせていると、
「私情で申し訳ないんだけど、あの神社に来てほしいんだ」
全く想定外の答えを紡いだのだ。
だから焦った私は、周りに聞こえていないか確認をしてから、
「神社……?」
声のボリュームを絞って尋ねる。
「うん。ダメかな」
「いや、そういうわけじゃないけど…なんで神社に?」
私と田中くんが放課後二人で神社へ行くなんて、そんなおかしなイベント事が起こってしまうのは、どう考えてもおかしい。
それってやっぱり運命の人同士だから?
いや。それは神様が言っているだけであって私は一切信用はしてないけれど。
「ちょっと蓮見さんに話しておきたいことがあって」
そう言うと、眼鏡の真ん中をくい、と押し上げて「だけと」と言葉を続けると、
「話しているときに人に聞かれたくないし邪魔もされたくないんだよね」
言葉を付け足して、私を見つめた。
「え……?」
人目につきたくないところで話しておきたいことがある……?
それってもしかして告は………いや、でも田中くんに限ってそんなまさかねえ? だって優等生でガリ勉のあの田中くんだよ。そんな彼は恋愛のレの字も知らないようなあの田中くんだよ……?
「すごく大事な話なんだ」
と、淡々と告げられる。
「……だ、大事?」
「うん」
なんの躊躇いもなくゆっくりと頷いた。
告白の二文字が頭をよぎる。
こういう会話から恋が芽生えていくとか? 意識していくとか? ……いや、そんなまさかねえ、と首を振る。
「えっと……」
でも、どうしよう。もしもほんとに告白だとしたら、私なんて答える?
そりゃあね前よりは苦手じゃないし、田中くんと一緒にいると最近なんか不思議と嫌じゃないし。でも、だからといってそれがイコール好きってわけでもない。
そう思って、ちらと隣へ視線を向けるれば、規則に反しないような髪型で、眼鏡をつけて制服をしっかり着こなして、癖は眼鏡の真ん中のふちををくいっと押し上げるような人で。そんな人を私が好きになるはずが…ないけど……けど……
あー、なんて答えたらいいんだろう。
「──蓮見さん?」
ふいに声をかけられてハッとすると、困惑したように私を見つめて返事を待っているようだった。
「いきなりだったからやっぱり無理かな?」
眼鏡をくいっと押し上げて「それなら後日でも」食い下がる彼の言葉を遮って、
「大丈夫だよ!」
「え?」
「あー…えっと…放課後。……うん、多分大丈夫だと…思う」
あまりにも勢いよく漏れた言葉を誤魔化すように出た声は、かなり上擦っていた。どうやら全然、驚きを隠せていないようだ。
「ほんとに大丈夫なの?」
「う、うん、多分…」
──ああもう、後戻りはできなさそう。
「ほんと? よかった」
安堵したように声を落とすと、じゃあ放課後待ってるね、と付け足した彼の言葉に私は静かに頷いた。
どうすればいいのか決まってないのに、ほんとにこれでよかったのだろうか。時期尚早だったのかな、不安に思いながら彼の横顔を見つめると、田中くんはスッキリしたような表情で教科書を開いて予習をしているようだった。
その横顔が、いつもと違って見えるのは私の気のせいだったのだろうか。
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