孤独なクジラのように





「お前なんかっ!俺と同じじゃねえ!!



俺は、俺はな!お前みたいに、婚外子なんかじゃねえんだよ!!」



ジャンは興奮しているのか、感情コントロールできていない。




「婚外子?」


「そうだ!こいつはな、実の母親が別の男と不倫してできた


この世に生まれてはいけなかった子供なんだよ!!!」




ノアは顔を伏せて静かに目を閉じた。





「しかもだ!!母親は子供なんざ欲しくなかったために、こいつを捨てた!


生まれてはいけない子供に加えて、母親にさえ必要とされていなかった


可哀想な子供!



俺とこいつが同類なわけねえんだよ!」



ジャンは声を荒げたせいか、呼吸を乱している。



そして、ノアは唇を強く噛んでいた。




「可哀想な人間だな。」


「だろ?やっとお前も・・「いや、お前だ。」



私は、ジャンの目と合わす。




「何?」


「いつまで本当の気持ちを隠したままでいる。


偽りの言葉でしか、取り繕えないのか?」



「何を、言ってんだ? まさか!


その瞳が光っていると言うことは、変な能力でも


使ってのか?!」




ジャンは何を言われているのかさっぱり分からない様子だ。





「いやこれは能力でも何でもない。


嘘をついている人間は、目を見ればすぐにわかる。」



私はジャンの目をじっと捉える。



「な、な!ふ、ふざけたこと言ってんじゃねえ!



こ、こいつ、が、どうなってもいいのか!」




檻を引き上げ、エマを引っ張り銃を当て脅す。



「や、やめろ!」


ノアは叫ぶが、身体中痛めつけられており、動くこともままならない。




「(こいつ、相当焦っているな。)」



銃を持つ手が震えている。



そして、瞳も揺らいでいる。







コツコツ・・




小さな足音が遠くから聞こえる。




この、感じは・・






「っ!」


私は、ニヤリとする。




「何笑ってんだ?!


こいつがどうなってもいいのかよ!!!」




ジャンがエマの頭に銃口を当て直す。





「エマはこれ以上傷つけさせない。


そして、お前の銃弾は絶対に当たらない。」




見えたんだ。未来が。


私のフォアサイトも進化していた。




最初の発動時間は、3分程度だったが、


今では10分も持続している。





「当たらない?


ふざけたこと抜かしてんじゃねえ!」


ジャンは、銃のセーフティバーを解除する。





「・・・」



私はただ佇む。






バンッ!!!!!!



耳を塞ぎたくなるほどの銃声が響き渡った。



ノアは思わず耳を塞ぎ目をぎゅっと閉じる。





「もう!遅いぞ。」


私の背後にいる男に言う。




「悪い、遅くなった。」




「ヴァ、ヴァンリーさん?!?」



ノアが目を開けると、驚いた表情で目を丸くする。




「だ、誰だ・・」


さっきの銃声はリーが撃った銃弾で、ジャンが持つ銃に当てて弾き飛ばしたのだ。





「いつ、仲間、なんか呼んだんだ・・?!」


ジャンは訳もわからず狼狽える。




「私の名は、ヴァンリー・ド・フォントネルだ。


君は、ジャン・ウォリックだね?」



リーはジャンの方を向いた。




「フォントネル家の、次期当主・・だと?」


ジャンは、リーが誰だか分かったようだ。


そしてもう抵抗などできないと悟った。




「アルフィー、ノア君とそこのお嬢さんを。」


アルフィーまで来ていたのか。




「はい、承知いたしました。」


アルフィーは血だらけのノアとエマを連れ出した。



しかし、アルフィーは山賊の対処をした後、


どうやってリーの居場所を特定したんだ?




「君は、生まれた時から孤児院で育ったようだが、


6年ほど前からウォリック家に養子として入った。


しかし、養母は君のことを歓迎していなかった。



そして、2年前に子供が産まれた、しかも男子が。」



リーが書類を見ながら喋る。




「っ・・」


ジャンは歯ぎしりしていた。




「それで君は、ウォリック邸から家出同然で飛び出し、


孤児院で一緒だった仲間を集め、下衆なことをしている。


ってとこかな?」



リーは書類から目を離す。



「・・さすが、フォントネル家の子息様ってか。


いいよな、貴族で生まれたやつは何不自由なく暮らしている。


俺たちみたいな汚いことをせず、醜い姿にもならず、のうのうと生きてやがる。」




こいつ、こんな過去を持っていたのか。




「では、なぜノアに絡み続ける。」



私が問うた。




「なぜ?ははっ笑わせるなよ。


あいつなんか俺よりも生まれてきてはいけない人間だっつーのに、


義理の父親の家で心底幸せそうに暮らしてるんだぜ?



俺もよ、実の両親の顔も知らない孤児だが、


あいつは婚外子で母親にさえ捨てられたんだよ!」



ジャンの言葉には何か引っかかることがある。






「お前、実は、ノアの境遇に同情しているだろ。


そして、ノアのことを羨ましくも思っている。違うか?」



そう私が言うと、ジャンは図星をつかれたかのような反応をする。




「同情?羨望?


何馬鹿なこと言ってんだよ。


俺は、あいつのことなんか憎たらしくてたまんねえんだよ。」



ジャンはそう言って、座り込む。




「・・・」「・・・」


私とリーは無言のまま、ジャンが話し続けるのを待つ。





「あいつなんかっ!


どんだけ俺が、あいつの母親が酷いことをしたかを調べ上げて、


あいつに何度伝えても、傷ついた顔するのに、涙一つ見せねえ!



俺だったら絶対に、そんなへっちゃらな顔なんざできねえ。


なのによ、あいつ笑うんだよ。


『そうだったんだ・・。仕方ないよ。』って。



だから、そんな嘘みたいな笑顔なんか見せるな、


いっその事本音を言って泣いてみろって思って、いつも


あいつを挑発したり、傷つけたりしていたっ・・・・・」



ジャン、こいつ・・・。









「そうか。本当は優しい奴だったんだな、お前。」



私は、ジャンの目の前に跪く。



「・・っ悪かった・・・傷をつけるつもりは、なかったんだ・・」


ジャンは静かに涙を流しながら、私の体についた傷痕を見る。





「いやもういい。お前もお前なりに傷つき、苦しんでいたんだな。


だが、罪のない女、子供に手を出してきたなら、それは許されることではない。」


「・・・ああ・・」



ジャンが俯く。




「お前だけには言う。私はお前が言った通り、王女だ。」


「おい、アリス!」


リーが口を挟む。




「大丈夫だ。ほら、噂通り、グリーンとグレーの瞳だろ?」


私はそう言って仮面を取る。



「私は、今ぶち当たっている運命がある。


私のお母様が何者かに毒殺され、私も多分狙われている。


だが、隠れているわけにはいかない。立ち向かわねばならない。



どんなに嫌なことでも、真実に正面から向かわなければならないのだ。


だから、私は困難な道も歩んでいく。」




そう言うと、ジャンは私の目をじっと見る。





「・・・っ」



「厳しいことを言うかもしれないが、お前はまだ向き合おうとしていない。



逃避していたままでは、何も変わらない。



まずは、お前自身が変わって見せろ。」




そう言って、私はジャンに手を差し出す。




「ああ、そうするよ。」



ジャンは私の手を取り、一筋の涙を見せて微笑んだ。









────────



それから、ジャン及び他の手下の者たちは、様々な暴行罪で



逮捕された。








そして、ノアの家にノアとエマが運び込まれ、ジャックさんが二人の治療を


している。










「アリス・・すまなかった。」



一連の出来事が一段落して、リーが申し訳なさそうな表情をした。




「いや、もう平気だ。ジャックさんにしっかりと包帯を巻いてもらった。」




そう言っても、リーの顔は晴れない。




「・・・・いや、私という存在が居ながら、


もっと、早く助けに行けていたら・・」



リーが怪我をした首筋に触れる。



「そういえば、なぜ私があそこにいたのが分かったんだ?」



遠くから足音が聞こえた時は、リーしかいないと確信したんだが。



「アルフィーが教えてくれたんだ。」


「というか、アルフィーはリーの居場所が分かったんだな?」


「ああ。アリスが訓練して外に出ていた時に見つけたみたいで、


ノア君の家にいると分かったみたいだ。」



「なるほどな。」



私を見つければ、リーも確実に一緒にいるしな。




「アルフィーには、アリスとノア君が市場へ行った後に、護衛でつけておいた。


そしたら、アリスが何者かに襲われ連れて行かれたのを


アルフィーが確認し、あの場所まで特定できたんだ。」



「護衛をつけるとは、リーは徹底しているな。」



さすがとしか言いようがない。




「だが、私の方まで報告してからだったから、かなり遅くなってしまったが・・。」


「いやもう本当に気にするな。


私は、自分が危険だと知っていたが、一人で行ったんだ。」





リーは、まだ納得していない顔をしていたが、微笑んでくれた。









「ヴァンリー様、アリス王女様。


ノアのせいで、本当に申し訳なかった。


アリス王女様は、お怪我も負わせてしまい。」



ジャックさんが私たちのところへきて、申し訳なさそうに謝った。




「顔を上げてくれ。


私は平気だ。それより、ノアの怪我の方が酷い。


それに、ノアの過去を偶然知ってしまった。


ノアは、壮絶な境遇の持ち主だったのだな・・。」



そう言うと、ジャックさんは一瞬驚いた顔をして、すぐに悲しそうな顔になった。




「うむ・・。ノアは、わしの実の子ではないのだ。


ノアは母親が不倫してできた婚外子。そして、その母親さえも


捨てられてしまった。


孤児院でも、今回の事件の首謀者であるジャンという青年に


かなり酷い目に遭ったと聞いていた。



しかし、ノアはどんなことが起きても、冷静に平然とした顔をするのだよ。


だから、育て親のわしでも、掴みきれていなかったのだな・・。」




そう言い、すっかり肩を下ろしてしまった。





「ノアは、ジャックさんのことをとても大切にして、尊敬している。


リーが怪我人として運ばれた時、必ず助かると断言していた。



それは、ジャックさんを信頼しているからだろ?」



「・・! そうかい・・。」


ジャックさんは、嬉しそうに頬が上がった。




「あの子にいつも我慢させているのではないかといつも考えていた。


だから、あの子には絶対幸せになってほしいのだよ・・。」







そうだ。ノアは必ず幸せにならなければならない。

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君だけに咲く枯れない花 willy @mekook

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