弱さは心から
しばらく足がすくんで動き出せなかったが、
すぐに立ち上がって、ノアの行った方を追いかけ探しに行った。
「はあ・・・はあっ!」
かなり市場から離れたところに来てしまった。
「どこだ、ここ・・・」
私は息を整えながら、場所確認する。
「・・・」
周りを見渡しても、住民がいる様子ではない。
「家があるのに、誰一人として出入りしていないのか?」
まだお昼だぞ?
それとも空き家か?
サーッ‼︎
誰もいない閑静とした道に暖かい風が吹き上げる。
「あ、フードが脱げた・・・」
風のせいで脱げたフードを元に戻そうとした瞬間だった。
「おい!女だぞ!」
「急げ‼︎捕まえろ!」
物陰に隠れて待機していたのか、ざっと10人程度が
そう声を上げ、私に向かって走ってきた。
「なんだ?!」
私は、驚くも冷静に考える。
「(こいつら、何も手にしていない?!
まさか丸腰なのか?!)」
女だとわかって、10人もの男で手をかければ
捕まえられるとでも思っているのか?
私は、そう思いながら短剣を片手でギュッと掴み始める。
「っ!」
一人の男の手を見ると、握られていたのは縄だった。
「捕らえろ‼︎」
私は、やはり短剣では無理だと思い、必死に逃げた。
「っ・・・・はあっ!・・・」
けれど、さっきの疲労が影響してか、
速く走ることができない。
「っおい!待ち上がれ!」
追手の一人に右腕を掴まれてしまった。
「離せ!!」
私は片手に短剣を持っていたので、追手の腕に切り付けようとした。
「何!?」
しかし、そいつの腕に切り付けたつもりが、硬くて短剣が弾かれた。
「ふっ!無駄だぜ? 俺は、義手だからな。」
その男の手袋は短剣で破け、銀の義手が見えた。
「っ!・・」
すると、他の追手たちも続々と追いつき、私は捕まえられてしまった。
そして、一人の縄を持った男が近づく。
「悪いことはしねえよ、大人しくしていればな。」
私は激しく睨みつけるが、身動きが取れないため無駄だった。
「兄貴。」
私の腕を掴んでいる男が、そう言った瞬間、
兄貴とやらが頷いた。
「・・っ!」
何をする気だと、そいつの顔を見ようと思った時、
ハンカチを鼻と口に当てられ、そこで意識を失ってしまった。
「・・・ん」
しばらくして、睡眠薬の効果が切れたのか、私は古い小屋のような場所で目覚めた。
「・・いたっ。」
どうやら私は捕らえられ、両腕が縄で縛られてしまったようだ。
「どこだ、ここ。」
周りを見渡すと、一人の少女が隅っこで座り込んでいるのが見えた。
「・・・」
その少女も私と同じように両腕を縛られていて、
服も顔も泥で汚れていた。
だが、暴力をされたような痕はなさそうだ。
「(傷はつけたくないのか?)」
「なあ、あなたも捕らえられてここへ来たのか?」
私は、その少女に近寄り問いかける。
「・・・・」
少女は、私の方を向かなければ質問にも答えようとしなかった。
「どうした?」
私が一歩また近づけば、物凄く怯えた顔をして離れた。
「え・・」
なぜこの少女は、私と同じ状況で私に対して怯えているのだ。
「・・その、仮面・・」
するとその少女は、小さな声で何か言葉を発した。
「仮面?」
私は仮面を指差す。
「怖いっ!私を襲ってきた人、みたい!」
あ、そういうことか。同じような容姿をしているから、怖いのだな。
ならば仕方ないか。
「これで、いいか?」
私は、意を決して仮面を取る。
「えっ!・・」
本来ならば取ってはいけないが、私よりも明らかに年下の少女を
怖がらせてはいけない。
「きれいー!なんで目の色がちがうの?」
その少女は、仮面を取ったことで安心したのか、
私の方へ自ら近づいてくれた。
「んー生まれつきかな?
そうだ、私はアリス。あなたのお名前は?」
「とっても綺麗!私はエマっていうの!」
エマはニコッとした。
「エマか!かわいい名だな!」
すっかり打ち解けあった二人だった。
「あのな、聞きたいことがあるのだが、
その仮面をつけた奴らに何か言われたか?
捕まえられた時とかに。」
エマと結構な話をしてから、切り出す。
「な、なんか、人身、売買?するとか言ってた・・。」
エマは暗い表情になる。
「人身売買か。」
そりゃ傷はつけたくないな。
ならばこっちの方が優勢か?
「ねえ、アリス・・。人身売買ってことは、誰かに私たち売られちゃうんだよね?」
エマは不安そうな顔で私の手をギュッと掴む。
「いや、大丈夫だ。私がエマを守って、必ずここから出してやる。」
私のフォアサイトという能力は、未だ掴めていないところが多々ある。
しかし、わかっているのは、自身でコントロールできないということだ。
今まで2回しか能力は発動しなかった。
それはどちらも、私が本当に危機に感じた時だけだった。
どうにか自分の意思でフォアサイトを発動できればいいのだが。
「で、でも、あいつら結構強いし、武器も持ってるよ?
アリスは女の子だし、力じゃ敵わないんじゃ・・」
エマは心配してか、俯く。
「大丈夫、エマは何も心配するな。
ただこれだけは許してくれるかな?」
「何ー?」
「私のこの瞳は、誰にも見せることはできないんだ。
見せてしまうと、私の命に関わる。
だから、これはエマと私の秘密にしてくれるかな?」
私はエマの瞳をじっと見つめる。
「うん!もちろん!アリスの目、すごく綺麗だから、
絶対誰にも言いたくない!」
「ありがとう。奴らがきたら、仮面をつけてしまうけど
平気か?」
「平気だよ!私は、アリスがあいつらとは違うって
もう分かってるから!」
エマはすっかり心を許してくれたのか、満面な笑みを向けてくれた。
──────
「おい・・ここから出せ。」
ここに入れられてから、数時間が経った時
誰かが私たちのいる小屋へやってきた。
「手荒な真似はするなよ。
ジャン様がお怒りになられる。」
ジャン、だと?
まさか、あいつの仕業なのか?
「・・・」
私はあえて無言でいた。
「や、やめて!痛い!」
エマが最初に小屋から出された。そして両腕を縛り付ける縄に
別の縄を絡ませ、無理やり引っ張っていた。
「おい!その子が痛がることはやめろ!」
私は思わず口に出す。
「何だと?てめえ。」
私が口出ししたことが気に入らないのか、私の方へ近づく。
「なあ、てめえの面が仮面してて見えねえんだけどよ。
その仮面ごと殴り明かしてもいいんだぜ?」
「おい、やめろよ!ジャン様は、こいつの仮面を取るなとの命令だ。」
「ちっ!さっさと連れ出すぞ。」
ジャンてやつが、命令した?仮面を取るなって?
なぜだ。私の正体を知っているはずないのに。
まさか!・・いやないな。そんなことを考えてはダメだ。
「失礼します。2人の女を連れてきて参りました。」
そこは闘技場のような場所だった。
扉を開けると、そこにはジャンと縛り付けられ跪いているノアがいた。
しかも、かなりの暴力を振るわれていた様子だ。
「!」
私とエマは、椅子に縛り付けられた。
「お、おい。ジャン、これは、どういうことだ・・」
いたたまれない姿のノアがジャンに言う。
「これからが楽しい楽しい遊びの始まりじゃないか!」
そう言いながら、ジャンはノアのお腹にパンチを喰らわせ
ノアはついに倒れてしまった。
そして、ジャンが立ち上がり、私の方へ近づいてきた。
「まずは君からね?」
そう言ってジャンはエマの縄を解いて、強引に中央へ追いやる。
「おい!」
私はそれだけでもエマの苦しそうな顔で我慢ならなかった。
だが椅子にがっちりと縛り付けられ、ジャンの手下にナイフで
首筋に当てられているため、身動きが取れなかった。
「やれ。」
ジャンが合図すると、私がいる所と、ジャンとノアがいる所に
鉄格子が降りてきた。
そして、エマの所には小さなボックス型の檻が上から降りてくる。
「何をする気だ!」
嫌な予感しかしない。
「っ!」
すると、奥の方から一頭の鋭い牙を持った虎がやってきた。
「嫌っー!!!!!!!!」
エマの檻の方へ近づき、虎がよだれを垂らしている。
人身、売買ではない・・!?
「やめろ!!!!」
私は必死に叫ぶ。
「それ以上動くんじゃねえ。切るぞ。」
ナイフを持った男が言う。
何が強くなりたいだ、何を守れるだ。
目の前にいるその子を守れないじゃないか!
「っ・・!」
私は悔しくて唇を強く噛む。唇から血が垂れるが、そんな痛み感じなかった。
「ふぇっ!・・」
エマがこれ以上にないほどの恐怖の表情になる。
そして、私に助けを求めこちらを見つめる。
「いいぞいいぞ!その顔がいいねえ!!!」
ジャンはご満悦の顔をしていた。
「・・で、・・とが、・・・るんだ・・?」
「ああ?何だって??
もっと大きい声で言えよ。」
ジャンが私を見る。
「何で、そんな事が、できるんだと言ったんだ‼︎」
私はそう叫び、力づくで縄を解く。
その拍子に、当てられたナイフが私の首を切り付けた。
「な、なっ!」
ナイフを持っていた男は驚き、尻餅をつく。
「・・・」
私は、そいつのナイフを奪い取り、その男にまたがった。
「ひっ!!!」
ガンッ‼︎
男の顔横の地面に、ナイフを突き刺す。
「死にたくなければ、出ていけ。」
私はそう言いながら、地面に落ちている石ころを
鉄格子を起動させる装置のボタンに投げつけた。
ウィーン‼︎
すると、私側とジャンとノア側の鉄格子が開く。
「し、死にたくねえ!!!!」
男は逃げるように、来た扉から逃げ出した。
他の手下の連中も一緒に逃げていく。
「てめえ‼︎」
ジャンは相当キレていた。
「グルゥゥゥゥ」
虎は私の方へ牙剥き出して近づく。
「・・・・」
私は虎の瞳をじっと見据え、睨みつけた。
「クゥーン・・」
虎は私の覇気に怖気付いたのか、元来た場所へ逃げて行った。
「なあ、女。お前何者だあ?
ノア君がさ、女を守るとか気を遣うとかするタイプじゃないから、
どんな女だと思って捕まえさせたけど、
やっぱり何か特別なものがある女みてえだな!」
ジャンはニヤリとする。
「早くエマとノアを解放しろ。」
私はジャンに近づく。
「じゃあ、その仮面外せよ。」
何だと。
「だ、だめ!!アリス、絶対外しちゃダメ!」
エマは、檻の中で必死に私に向かって叫ぶ。
「うるせえよ。」
ジャンは、檻の外から足でエマの頬に蹴りを入れる。
「おい。」
私もかなりキレていた。
「なあなあ気づいてるか?さっきからお前の目が、光ってることに。
しかも!グリーンとグレーにな!!」
まさか、ここでフォアサイトが発動しているのか?
でも、未来予測はしていない!
「お前、昔噂で流れていたオッドアイの瞳を持つ王女だろ?」
ジャンは初めから知っていた?
「確かにオッドアイだが、王女ではない。」
「俺はなあ、こう見えて、貴族の息子なんだよ。
王女が存在したとかしないとか、そんな噂、
貴族なら誰だって知ってるぜ?」
そうらしいな。
エドも知っていたし。
「う、嘘をつくな・・・お前は、俺と・同じ
孤児院で育っただろ!」
ノアが意識を取り戻したのか、途切れ途切れになりながらも言葉を発する。
「てめえ、それ以上喋るんじゃねえ!!!」
聞かれたくなかったのか、ジャンはノアの顔を蹴飛ばす。
「お前な、んか、・・所詮・・孤児院で育った・・・
親がいなく、て・・寂しい・・俺と同じ・・孤独なんだよ!」
「うるせえ!!!お前なんかと一緒にするな!!!!」
ジャンはこれまでに聞かない悲痛な声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます