第2章
新たな門出
────【アリスside】
エドワード邸にリーが来たけど、ずっと部屋から出てこなくて
リーとあまり話せていない。
「・・・」
さっきエドワードと話している時に、
後ろの方にミハエルと一緒にリーが何かを話していた。
だけど、その時のリーは何か辛そうで何を考えているのか
さっぱり分からない顔だった。
「あんな顔をしているリーを見たことない。
凄く、遠くの存在に感じる・・。」
私は、自分の部屋のベッドで一人呟く。
「そんなに気になさるのなら、ヴァンリー様の部屋に行かれてはどうですか?」
ミアがいつの間にかいた。
「え!ミア、いたの?!」
私は、驚いて飛び起きる。
「ノックしたのですが返事がないものですから、勝手に入ってしまいました。
すみません。」
「いや、いいけど!今の聞いてたの?!」
そっちが気になってた。
「え、ええ。」
ミアはそっち?みたいな顔をしていた。
「はあ・・。」
聞かれていたか。
「そういえば気になっていたのですが、アリス様はエドワード様のこと
どう思われているのですか?
(もしかして、ヴァンリー様はその件で部屋にこもっているのでは?)」
「え!い、いや!
私は、エドのこと、好きだよ。
だ、だけど!!エドが言う好きと私の思う好きは、同じではない気がするんだが。
ただ、そう考えると、そもそも好きってなんだって思ったら、
頭がパンクしちゃって!」
はあ、こんなに自分が慌てるなんて・・。
「そうですねえ。好きという感情は、複雑なものです。
一概にこれだということは言えません。
ですが、離れている時に会いたい、話したい、その人の顔を見たい、と
思えばその方に恋をしていると思われます。」
ミアは、私に紅茶を淹れる。
「会いたい、話したい、顔を見たい・・。
だけど、それって友人にも当てはまらないのか?」
友人にだって離れていたら、会いたいと思うだろうし
話したいって思うよな、普通。
「まあそうですね。
だけど、友人には決して抱かない気持ちがあります。」
「友人には決して抱かない気持ち?」
「ええ。もし、『この人を他の誰にも渡したくはない』、と心で
思ったのなら、それは確実に恋に落ちていると言えるでしょう。
エドワード様に対して、そう思いますか?」
この人を、他の誰にも渡したくはない?
そんな感情を持つのか、恋をすると。
「いや、エドを他の誰かに渡したくはない、などという
独占欲は私にはないな。」
今の私には、その気持ちを理解することはできないが、
エドに対してそういった気持ちは確実にない。
「それならば、エドワード様に対しては友人としての好きという感情でしょう。
独占欲というものは、時に人を傷つけてしまうほどの激しい感情なんです。」
激しい感情。
そんな感情を私もいつか抱く時が来るのか?
「そうか。ならば、エドに言わなくてはならないな。
告白の返事をまだしていない。」
エドには、後ででいいと言われたが、
このまま保留にしたままではいけない。
「ちょっとエドのところへ行ってくる!」
私は、部屋を飛び出て、エドを探す。
「エド!!!」
エドは庭園にいた。
「アリスちゃん、どうしたの?そんな走って。」
「いや、告白の返事をしようかと思って!」
「え!今?!」
エドは驚いて、目を丸くする。
「うん!早い方がいいかなって!」
「ま、まあ・・。」
「私のことを好いてくれてありがとう。
私もエドが好きだ。でも、これは友人としての好きなんだ。
だから、エドの好きに答えることができない。
しかも、私にはまだやるべきことがある。だから、まだ恋なんて、できない。
それは、エドも同じじゃないのか?
ミハエルが当主となった今、ミハエルの側でやるべきことがあるはずだ。
それに覚えているか分からないが、
いつかの時お前に私と共に来いなんて言ったけど、撤回させてくれ。
お互い進むべき道があるはずだ。」
エドの瞳を捉える。
「君って子は、本当に不思議だよ。
なんでもお見通しなんだね。でも、残念だな。
アリスちゃんのこと本当に好きだからさ。本当なら君と共にいたいよ。
だけど、君のいう通り、兄さんの助手として
やらなきゃいけない仕事がたくさんある。
でもね、君に初めて出会った時から、僕は変わって、
兄さんとも和解できた。
君という存在は、これからも僕にとって大切なのは変わらないよ。」
「うん。私もエドと出会って世界を知ることができた気がする。
これからも友達として、よろしく!」
そうして、私とエドは握手をした。
「さて、そろそろ準備は整ったかな。」
私たちは、もうボスウェル邸から出発しなければならない。
「ここから城下町に行くと予定していたが、
現在、城下町では銃撃戦がここ何日かであったそうだ。
何者かはわかっていないが、今行くのは非常に危険だ。
だから、私の別荘がある北方へ向かう。
そこには、私の知り合いの情報屋もいる。
マリア妃のことも知っているかもしれない。」
リーが私の部屋にきて言った。
「そうなのか、銃撃戦。」
王宮に行くのにこんなに時間がかかるなんて。
「安心しろ。すぐに王宮に行ける。」
リーは私と話しているのに、全く目線が合ってない気がする。
「リー。何かあった?」
何か暗いオーラがある。
「何もない。心配しなくて平気だ。
準備ができたら、玄関口で待っていろ。」
そう言って、リーは退室した。
「なんなんだろ。」
リーの様子が変だ。
私は、準備を終えて、玄関口で待つ。
「ミハエル!お見送りしてくれるのか?」
ミハエルが私のところへやってきた。
「もちろんするよ。君は大切な客人だし、友人でもあるからね!」
するとエドワードもやってきた。
「アリスちゃんのこと、兄さんも気に入ったみたいでさ!」
「なんだよ!ダメなのかよ!」
エドワードとミハエルは、なんだか楽しそうな顔をしていた。
「ははっ!二人とも仲良くなってよかったな!」
私も嬉しくてつい笑みが溢れる。
「本当にありがとう、アリスちゃん。また遊びにおいでよ。」
「そうだね。いつでもアリスちゃんなら歓迎さ!」
二人と離れてしまうのは、惜しくて悲しいけど
進まなくてはいけないな。
「うん!ありがとう!」
私は、そう言って、リーが準備していた馬車へと乗り込む。
「ヴァンリー君も元気でね。」
リーがやっときて、エドと会話をしている。
「ああ、お前もな。」
「全く!ヴァンリー君、君固いよ!」
ミハエルがリーの肩を叩く。
「ミハエル殿もお元気で、今後のご活躍楽しみにしています。
それから、アリスのことで随分と気を遣っていただき誠にお礼を申し上げます。」
「え?」
「こちらの別館、メイドや執事など多数の使用人がいなかったですよね?
アリスがフードや仮面を取っていることなどから、人目を避けてくださる気遣いを
してくださったことに気がつきました。
誠にありがとうございました。」
リーは深々とお辞儀をする。
「ふっ。さすがだな、君は。」
ミハエルとエドワードは、リーの観察力に感嘆した。
「アリス様、どうか、ご無事で・・」
ミアは、ボスウェル邸でしばらく預かってもらうことにしたらしい。
これから向かう別荘までの道のりは、変な輩がいるらしく、
女二人いると危険らしい。
それに銃撃戦からしばらく落ち着けば、ミア一人くらいなら
エドとミハエルが穏便に王宮へと送れるらしい。
「ああ。ミアと離れるのは、今回が初めてで落ち着かないが、
エドたちはきっとミアを大切な客人として扱ってくれるはずだ。」
いつもミアに危険と隣り合わせのような暮らしをさせてきた。
私のお世話係に任命されてから。
だから、今回はゆっくり休んでいてくれ。
そうして、エドとミハエルとミアとはしばしの別れを告げて、
屋敷を後にした。
「アリス、これから向かう地は寒い。
これを着なさい。」
しばらく馬車を走らせたところで、リーが自分のコートを脱いで
私に渡す。
「・・うん。ありがとう。」
さっきもそうだったけれど、全くリーと目線が交差しない。
ずっと窓の外を見てるか、書類に目を通してばかりで
私の方を見ようとしない。
そう考えているうちに、コートも着たせいか体が暖かくなり
眠ってしまった。
「アリス、もう着くぞ。」
馬車を走らせて、2時間ほどですぐにリーの別荘付近へと辿り着く。
ドンっ!
すると、馬車が何かに当たる音がした。
「どうした?」
リーの隣に座っていたアルフィーがすぐさま、御者に聞く。
「そ、それが!」
私も窓の外を見てみると、何人かの男達が馬車を取り囲んでいた。
「てめえら、貴族の者たちだろ!
ここは、俺たちの縄張りだ!勝手に入ることは許さねえ!」
怒鳴り声が馬車の外から聞こえた。
「山賊か。」
リーがボソッと言う。
「山賊?」
私が聞き返すと、リーが馬車から降りようとする。
「大丈夫だ。お前が見つかると大変だ、馬車の中で
大人しくしていなさい。」
リーは慌てている様子もなく、むしろ落ち着いていた。
「いえヴァンリー様、私が対処いたします。」
アルフィーが降りる。
「いいえ、こちらの道は私道ではございません。
ですが、それでも縄張りだと言い張られるのであれば、いくらでも請求してください。」
アルフィーがどうやら外の連中と交渉しているようだった。
「ふっ。これだから貴族って奴は、嫌いなんだよ。
全てお金を払えば、自分たちの都合を突き通そうとしたがる。」
「そうですか、気分を害することを申し上げたなら謝罪致します。
しかし、私たちはこの道を進まなければいけません。
支払い以外に何か方法がございますか。」
アルフィーは冷静に対応している。
「そんなのは・・これで終いだ!!!」
そう言って、アルフィーに何人もの剣や槍を持つ輩たちが襲いかかる。
「・・・。仕方ありませんね。
戦闘だけは避けたかったのですが、私がお相手さしていただきます。
御者、直ちに目的地へと馬車を走らせなさい。」
アルフィーは自身の剣を抜き、何人もの男たちを相手しようとしていた。
「りょ、了解しました!」
すぐさま御者は、馬車を走らせる。
「アルフィーさんは、大丈夫なのか?」
そうリーに言うと、
「ああ、俺の右腕の代わりになれる唯一の側近だ。」
リーの顔から、どれだけ信頼しているか分かる。
すると、次は、御者の叫び声が聞こえた。
「うわあ!!!」
何かと外を見ると、さっきの人たちよりもガタイの良さそうな男たち5人がいた。
「何事だ!」
次は、リーがすぐさま馬車から降りる。
「・・・。随分と残忍なことをするんだな。」
リーは、御者が剣で刺され血だらけで倒れている姿を目にする。
「・・っ‼︎」
私も窓の外からその姿を見てしまい、思わず声が出て手で抑える。
「ははっ!なあなあ、貴族様ってなんでそんな偉いんだ?
俺たち同じ人間なのにさあ。」
相当貴族に対して、恨みを持っている連中なのか?
「ああ、私もそう感じるな。だが、それが突然人を斬る理由にはならない。」
リーは、剣に手を掛ける。
「そういう上から目線で余裕の顔をしたお前らが大っ嫌いなんだよ!
だからよぉ、お前たちみたいな汗もかいたこともなさそうな奴らが、
必死こいて助けを求め、絶望にひれ伏す顔がさいっこうに気分がいいんだ!」
こいつら、ここの道を通る貴族をターゲットにして襲う山賊か?
「貴族に対しての恨みが強いみたいだな。
まあ、この先に貴族の別荘が多いことから、この道を貴族が通らないわけないからな。」
「なあ、兄ちゃんよぉ。今の状況わかってんのかあ?
俺たち、5人もいるんだぜ?
兄ちゃん一人で俺らをやれると思ってんのー?」
馬鹿にしたような口調で言う。
「ああ。5人など訳ないことだ。」
リーは余裕であった。
「おいおい、馬車ん中に誰か一人いるぜ、兄貴!」
5人のうち1人が、アリスの存在に気づく。
「おい、お前。
馬車からそいつを連れ出せ。」
そう言うと、リーが剣を馬車の扉で振りかざす。
「これ以上近づいてみろ、お前の首が吹っ飛ぶぞ。」
リーは近寄ろうとする男の首筋に剣を当てる。
「おいおい、あんたもそれ以上その剣動かしてみろよ。
兄ちゃんの綺麗な顔が吹っ飛ぶよ?」
リーの首にリーダーらしき男と部下3人が剣を当てる。
「何、この状況・・。
私、どうしたら!」
あまりにも凄まじい状況で何も考えられない。
「だけど、今、私が動かないと!」
私は馬車の中にあった短剣4つを手にし、意を決して外へ出る。
リーの首に剣を当てる男たちの肩を狙って、連続で短剣を投げ当てる。
「「ぐぬっ!!!!」」
見事4人に命中した。
「アリス!!外に出るな!危ないと言っただろ!」
リーが鬼の形相で私を見る。
「だ、だって、このままじゃ・・。」
私の手は震えていた。
「き、貴様、俺の仲間に何するんだ!!!」
リーが気を抜いた瞬間に、脅されていた男がアリスに向かって
剣をかざす。
「危ない!!!!!」
そう言うと、リーはアリスを思い切りおしのける。
「・・・っ!!!!」
私は目をギュッと瞑ったが、何も痛みは感じなかった。
しかし、目を開くと
「リ、リー・・・?」
そこには、腕から血をダラダラと出て倒れているリーがいた。
「・・・・っ大丈夫だ・・」
リーは血だらけの腕を押さえて、立ち上がる。
「てめえ、さっきはやってくれたじゃねえか。」
リーダーの男が、私の方へ近づく。
「・・・それ以上、この子に近づくなっ・・」
リーは、そこにあった剣を拾い上げるが、
腕の傷のせいか、剣を持つ手が震える。
「よおよお、兄ちゃんその顔いいぜ!!
最高な顔してるぜ!!!」
リーの顔からは、冷や汗出ていて、痛みのせいか顔も青ざめてきていた。
「リー、腕の傷・・」
私は罪悪感で身体中震えが止まらなかった。
「なんで・・なんで私・・・私が出なければ・・」
こんなふうにリーが傷を負うことはなかった!
「・・平気だっ・・・何も考えるな・・」
リーは辛いのに、私に笑いかけてくれた。
「お前ら!!かかれ!!」
そう言うと、5人が同時にリーに襲い掛かろうとする。
その瞬間、あの時と同じように
5人の動きが全て見通せた。
スローモーションのように、リーダーがリーの左胸目掛けて
剣を突き刺そうとしていた。
「ダメ!!!!!!!」
私は、それを回避するために、リーの前に出て守ろうとする。
「っ!!!!」
私が刺されると思っても、リーに死んでほしくないって心の底から思った。
すると、5発銃声が聞こえた。
それは、5人に見事命中して、すぐに5人はその場で倒れた。
「え・・」
そこには、黒い仮面を被った一人の男が銃を構えていた。
「た、助けてください!!!
この人が、血だらけで!!」
リーはもう意識がなかった。私の腕の中でぐったりと倒れていた。
「来い。」
男は何も言わずに、リーを男自身の馬車に運び、
どこかへ向かった。
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