隠されていた真実



リーとアルフィーは、フォントネル家本邸へと出発した。



ミアと私は、リーが帰るまでエドワードの家にいさせてもらうこととなった。




「エドワード、ごめん。リーが帰ってくるの、一週間くらいになるかもだってさ。」



私が申し訳なさそうに言うと、エドワードがふっと笑った。





「全然、気にしないでいいよ。


てか、エドでいいよ。気楽に接して欲しいな。」



エドは、何を本当は考えているかわからない時もあるが、



最初会った時よりは表情が優しくなった気がする。




「なんか、エドの表情が柔らかくなった気がするな。」


「ははっ!


女の子に僕の愛称を呼んでなんて頼んだの、アリスちゃんしかいないしね!」



それだけ君のことを信頼してるからそう見えるんじゃない?って



嬉しそうな顔で言っていた。



「さーて!


今日は、カレーにしよう!


だから、食材を市場で買いに行かない?」



エドは楽しそうに私に聞く。



「エドワード様!


外に出られては危険なのでは、ありませんか?」



すかさずミアが懸念して言う。




「僕、元々王家所属の軍人だったの、こう見えて。


ま、父の意向でだったんだけどね。」


少し顔に曇りが見えた。




そんな時だった。




コンコン



ドアをノックする音が聞こえた。



「こんな時間に来客か?」



もう7時で、客人など来る時間ではない。



「アリスちゃんとミアちゃんは、奥の部屋に行ってて。


誰が尋ねてきても、君たちが僕の家にいるのは不審に思う。」


エドが真剣な表情で、奥にある部屋を指差し言う。






「はい。」


エドが扉を開けると、



「俺だ。入るぞ。」


「あんたがここに何のようだ。」


尋ね人の顔を見るなり、エドの顔色は一気に変わった。




「兄に向かってあんたとはなんだ。」



お兄さん?


私は、ドアに耳を当てて声を拾う。



「で、何のようだよ。こんなところまで来て。」


「明日、父上がトップから退き、予定通り俺が当主となる。


その祝いのパーティが明日行われる。


お前もパーティに参加しろ。」




エドにお兄さんいたんだ。



「ふーん。思ったより早いんだね。父上が退くの。


でも、僕は行かないよ。」



「そのパーティには国外からも大勢の貴族が来賓する。


ボスウェル家の次男が来ないとなると、問題になる。


これ以上、不仲説とやらの噂を流されるのは面倒なんだよ。」



エドの兄は、ため息をつく。



「ふっ!不仲説?よく言ったもんだよ。


説を立証できるね!実際僕たち、仲悪いもん。」


エドは、明るい声で言う。



「不仲だろうが何だろうがどうでもいいが、


ボスウェル家として、恥じない行動をしろ。」



私は、そこまで聞いて我慢ならなかった。


ドン!



私は、扉を勢いよく開けた。



「おい!実の弟に、そこまで言う必要ないだろ。」


一応姿を見せないように、フードを被ったが、


兄の顔がよく見えない。



「・・君は、誰だ。」



そう言って、エドの兄が私の方へ近づいてくる。



「な!それ以上、近づくな!」


エドが止めに入ろうとするも、


「顔を見せろ。」


兄の手によって、私のフードは脱がされてしまった。




「・・・っ!」


エドの兄は、驚きで瞳が揺れいてた。



「アリス・スペンサー・・王女?」



なぜ、私の名前を!



「おい、エドワード。


この王女とお前がなぜ一緒にいる。」


兄は、エドの方へ向き直る。



「てか、なぜあんたがこの子の名がアリスだとわかるんだよ。」


エドが鋭い視線を兄に向ける。


「オッドアイの瞳を持つものは、アリス・スペンサー王女だと


昔、父上に聞いた。


噂だと思っていたが、本当らしいな。」



ボスウェル家は、なぜ王女の存在を知ってるんだ。



誰かと話していたと言っていたな。



「あなたのお父様が、なぜ知っている?」


私は、すぐさま聞く。



「さあな。


それより、エド答えろ。


なぜここに、王女がいるんだ。」



「答えたら、パーティ行かなくてもいい?」


エドは賭けに出ているのか。


「答えないのであれば、そこの王女を人身売買する。」


な!こいつ何考えてるの。



「そんなことしたら、私のお父様が黙っていないぞ。」


「そんなもの、どこに俺がやったと証拠を残すと思う?」



完全に証拠隠滅できる自信を持っているかのような顔ぶりだった。




「王女を人身売買したくないなら、パーティへ参加しろ。


お前がこの家に女を連れ込むと言うことは、気に入っているからだろう?」



エドの兄には、エドのことは何でもお見通しなのか?



「はあ・・。わかったよ、行けばいいんだろ、人殺し。」



その声は周りを凍りつかせるほどの冷たさで、


目にはもはや輝きなどなかった。



こんなエドを見たのは、初めてだった。




「・・人、殺し?」


私は、思わず最後の言葉が印象的すぎて声に出してしまった。



「ああ。そいつは、僕の母を殺したんだよ。」



え・・。



エドの兄は、無表情のままエドから顔を背ける。



「(でも、なぜか悲しそうで苦しい表情をしているのは何故?)」



何か、わけがアリそうだ。





「・・・・とにかく、明日の朝には人通りが激しくなる。


王女とまさか会うのは想定外すぎるが、今日の夜にボスウェル家へ来い。」



兄は、馬車が家の前にとめてあると言って、出て行った。





「・・・エド。


もしかして、お兄さんと仲が悪いのって・・」



「そうだよ。あの男が小さい頃、屋敷の庭園で火遊びをしていたんだ。


だけど、それが原因で庭から家にまで発火して、大きな家事になったんだ。




そして、逃げ遅れた母は帰らぬ人となった。」




そんな!




「・・・」


私は、何も声をかけてあげられなかった。




「いいんだよ、アリスがそんな顔をしなくても。」


エドは頑張って笑おうとしているけど、瞳の奥があまりにも悲しく揺れていた。






──────





「じゃあ、準備は大丈夫ですね?」


ミアと私は、とりあえずエドについていくことに決めた。



エドの兄も、屋敷に秘密で入れてくれるのを許可してくれた。



「うん。でも、リーにはどうに伝えよう?」


リー帰ってきたら、びっくりするよね。



「大丈夫ですよ。ヴァンリー様がお帰りになる前には、


私たちもエドワード様のご自宅に帰ることができます。」




そうだけど・・。



でも、またエドの家に帰るのも気が引けるなあ。



どうにかリーと連絡とって、合流できたらいいのに。





そうして、港町から離れて、ボスウェル家の本邸がある



東の方角へ向かっていった。










「何年ぶりかな。」



5時間ほど馬車を走らせると、大きな門を構えた


ボスウェル家の屋敷が見えてきた。




「エド、何年も帰ってないのか?」


私が聞くと、エドは窓の外をずっと見ながら答える。


「まあね。僕、ボスウェル家嫌いだからね。」




なんだか、重い雰囲気になってしまった。





「着いたか。エドワードは、父上に挨拶しに行って来い。


王女様は、俺と一緒に来てもらおうか。」



玄関口に、エドの兄が待っていた。



「アリス様をどちらへ?」


ミアが聞くと、


「君は、エドと共に本館へ行ってくれ。


王女様に何かするわけじゃないから安心して欲しい。」



そう言って、私とお兄さんは別館へと向かった。







「さてと、君、オッドアイの瞳を持つなら、


あの能力も持っているってことだよね?」



入ったのは、エドの兄の自室らしき部屋だった。




「能力の話をする前に、名乗るのが普通だ。」


私は、椅子に座って言う。



「あー、それは申し訳ない。


俺は、ミハエル・ボスウェル。エドワードより1つ上だ。」



ミハエルも同様に座って話す。



「で、君さ。エドワードの家にいたのは、何か能力を使って


潜り込んだりしたわけ?」



何だと?



「違う。」


「じゃあ、なぜエドワードは、君を部屋に大事に守っていたのかな?


あいつは、そんなことをする奴じゃない。


誰かのために動くような。」



ミハエルは、少しニヤッとする。



「お前、本当はエドを大事に思っているんだな。」


「は?なに言ってるの君。」


「今までのお前の口ぶりは、エドを挑発する言動ばかりしか言わない。


だが、それは裏を返せば、弟が大事だからそうにするんだろ。」



私は、ミハエルの瞳をまっすぐ捉える。



「ははっ!何言ってるのさ!


俺は、あんな出来損ないの弟、いらないよ。


一家の恥にならないようにしてもらえればいいんだ、エドワードには。」


そう言っている声に、少し震えがあった。




「エドにも同様なことを言ったが、心にもないことを口にしてはならない。


そうすることで、余計ややこしいことを招く。」


「心にもないこと?俺は、真実しか語らないよ?」



「いいや、お前は自分にもエドにも嘘をついている。


エドに人殺しと言われた時、お前は複雑そうな顔をしていた。


あんなに苦しそうな表情を、お前はどう説明するんだ。




まるで、本当の真実は言えないかのような顔は!」



絶対に裏があるんだ。エドに隠している。


庭園での火遊びにより発火したとしても、家に燃え移るまでに時間がかかる。


それなのに、一家の妻をそのまま放っておくなんてしないはずだ。



そんな死に方は、聞いたことがない。



「・・に、お前に何がわかると言うのだ!!



たった最近知り合ったばかりの奴のこと、なぜ分かる?!


俺たちのことを知ったかぶりするんじゃない!!」


ミハエルは、机の上に置いてある書類をバサッと落として、


怒声をあげる。



「嘘をついている奴のことは目を見ればわかる。


これは私の能力でも何でもない。誰でもわかるはずだ。



時に真実を伝えるのが辛くても、相手に伝えなければならない。


伝えないという選択肢は、相手のためではない。


自分のためによる逃げだ。」




私も負けじと声をあげ言う。


そして、ふと机を見ると、小さい頃の写真だろうか。


エドとミハエルの仲良くピースしている写真が、書類の隙間から見えた。





「・・・お前にとって、弟は大事で守らなければいけない存在なんだろう?」


私は、その写真を手にして、ミハエルの前に差し出す。




「・・・・っ!


そうだよ・・、守ってあげたかった・・っ。


真実を知ることによって、悲しませたく、なかったんだっ!」



ミハエルは、その写真を手にして、大事そうに写真の中のエドを指でなぞらえる。




「本当は、火事でなんてお母様は亡くなっていないんだろう?」



「・・ああ。母上は、学生時代から周りの女からいじめられていたんだ。


貴族出身ではあったが、ボスウェル家に嫁ぐような家柄ではないという理由で。



そのせいで、病弱になっていった。そして、エドワードを出産してから


母上は体を壊してベッドに伏せるようになった。


母上は、エドワードにそれを悟られないように頑張って振る舞っていた。




しかし、母上の病気は治らず、エドワードが5歳の時に亡くなった。


でもその真実を伝えられたのは俺だけで、エドワードは母上の死をすぐに知らされなかった。



そして、母上を供養するために火を扱っていたメイドの一人が、


それを倒してしまい、家中に広がってしまった。



皆逃げ、その中に母上がいないことで、エドワードは母上が亡くなったことを


知ることになる。



まるで火事のために亡くなったかのように。」



そんな事実が隠されていた・・。



「だから俺は咄嗟に嘘をついたんだ。


俺が火遊びをしていたために、火事を起こしてしまったと。



母上が、自分の出産後に体調を崩して病を悪化させただなんて


そんなことエドワードには絶対知られたくなかった!



だから、俺が憎まれればいいんだと思った。


そんな悲しい思いを大事な弟にさせるくらいなら、嘘でも悪役でも


何でもなってやると。」


ミハエルの長年の思いが感じられる。




「おい、今の話、何だよ。」


いきなり、エドがミハエルの部屋に入ってきた。



「!エドワード!」



ミハエルは、驚きのあまり椅子から立ち上がる。



「何だよ!火遊びが嘘って!


母上は、火事で亡くなったんじゃないのかよ!!



なんだよ、僕の出産後に母上が体調崩したって。」



ミハエルは、どうにか誤魔化そうと試みるが、


どうやらエドは全て話を聞いていたみたいだった。




「・・・すまない。全て黙っていて。」


ミハエルは、顔を伏せる。



「何なんだよ!


じゃあ何か?僕は、ずっと罪のない兄さんのことを恨んでいたのかよ!



なんで!何で早くそんな大事なこと言わないんだよ!!!」



今までに聞いたことのないぐらいの悲痛な声をあげるエド。



私もそんな状況が苦しくてたまらない。


でも、ずっとすれ違いを起こしていた兄弟が、今真実を知った。




「・・お前には、エドワードには言えなかったっ。


お前の、傷つく顔を、見るのが・・辛かったんだっ・・」


ミハエルは、情けない顔でツーっと一筋の涙が頬を伝う。




その涙を見て、私は人間の弱さを実感した。


また、言いたくても言えず、相手を思うからこそ


言わない選択をした葛藤さを。



「・・・兄さん、ごめんなさいっ!


僕、ずっと・・」



エドは、ミハエルに近づくと、


ミハエルはエドを抱きしめる。



「・・俺が悪かったんだ。エドワードは悪くない。


自分を責めるな。ごめんな、出来損ないは俺の方なんだよ。」





そうして、二人は真実を知り、


ボスウェル兄弟は関係を修復することに成功した。






──────



「皆様、お忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます!


ボスウェル家当主として、ミハエル・ボスウェルを今後ともよろしくお願いします!」




次の日になり、パーティが無事開催された。



ミハエルとすれ違っていた時間を取り戻すかのように、


エドワードはずっとミハエルのそばにいた。




「はあ・・パーティ初めてだけど、


落ち着かないな・・。」



私は、目立ってはいけないため、


会場の端っこでため息をつく。




「アリス!」


すると、エドがやってきた。



「エド!


お兄さんと一緒にいなくていいのか?」



そう言うと、エドは私の手を引っ張って、



私をバルコニーへ連れ出す。




「アリスのおかげで、真実を知れて、兄さんとも関係が回復できた。


本当に感謝しても仕切れない。」


エドが目を閉じ、感謝を述べる。



「いや、私のおかげではない。というか、私ミハエルに失礼なことを言った。」


「ははっ!アリスらしいね!」


エドの顔は、もう心を閉ざす青年ではなく、


無邪気に笑う純粋な心を持つ青年へと変わっていた。



「なっ!馬鹿にしているだろう?!」


「アリス、嫌なら避けて。」


そう言うと、エドが私に顔を近づけ、口付けをした。




「・・!」


私は、いきなりすぎて避けることなんてできなかった。





「アリス。僕、君のことが好きなんだ。」


エドの思いがけない告白に、私は立ち尽くすしかなかった。










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