一歩ずつ
──────【ヴァンリーside】
アリスは、旅の疲れと度重なる驚くべき真実のためか
部屋ですっかり眠ってしまった。
バタン
静かにドアを閉めて、アリスのいる部屋を後にする。
「アリスちゃんは、大丈夫かな?」
エドワードが、廊下に立っていた。
「気安くアリスの名を呼ぶな。
恩は感じるが、馴れ馴れしくするな。」
気に食わない。
その余裕そうな顔が。
「ヴァンリー君、今の状況わかってるのかな?
今、君たちに寝床を与えているのは、この僕なんだけどな。」
エドワードは、自分に指差す。
「しばらくの間、ここの家にいさせてもらう。
今の精神状態のアリスを、外へ連れ出すのは危険だ。」
そろそろ王宮へ送った手紙の返答を
アルフィーが運んでくるはずだ。
「ここにいるのは構わないが、タダでこの世界において
与えてくれるものは何もないよ。」
「分かっている。請求書をフォントネル家に送っておいてくれ。
後でお金は支払う。」
そういうと、エドワードは不満そうな顔をした。
「ねえ君も、たくさんの事業を任されている身なら分かるよね?
ギブアンドテイクがちゃんとないと、ビジネスにおいて人は動かないと。」
エドワードは不敵な笑みを浮かべる。
「何が言いたい?
お金はちゃんと支払うと言ったが。」
「お金なんて僕だって腐るほど持っている。
僕が欲しいのは、彼女だ。」
エドワードはアリスのいる部屋を指す。
「本気で言っているのか。」
エドワードの目はいつも見たくふざけず真剣だった。
「君がなぜアリスちゃんをあそこまで大切にしているか
分かる気がするよ。
だけど、あの子の正体はなんだろうか。
僕はね、あの子の情報が欲しいんだよ。」
自由人で何も考えていない奴だと思っていたが、
見当違いだったな。
「それで、貴様は、その情報を知ってどうするつもりだ。」
「んー、そうだな。
その情報を売って、ボスウェル家の株を上げるとか?」
エドワードは、そう言ってコーヒーを一口飲む。
「なんだと?
貴様、何を考えている。」
こいつの考えていることがさっぱり読めん。
「エドワード・ボスウェル。
心にもないことを口に出すな。
言霊が汚れるからやめろ。」
そう言ってきたのは、アリスだった。
その姿は、まさに王族の気品というのか。
アリスに纏うオーラが格段と違った。
「アリスちゃん、・・。」
エドワードは少し驚いた顔をする。
「私の情報が欲しいなら、いくらでもくれてやる。」
何を言い出すんだ。
「アリス、何を考えているんだ。」
長年アリスと接していても、
時々アリスの考えていることが分からなくなる。
「いいの?
僕が君の秘密とやらを知って、誰かに情報を売って。」
エドワードはアリスに近づく。
「ああ。お前はそんなことしないのを知っているからな。」
そう言ってアリスは、エドワードのネクタイを引っ張って、
目線をグッと近づけ合わせる。
「なっ!」
エドワードも驚いたのか、目をまん丸く見開く。
「お前の瞳を見れば分かるんだ。
エドワード・ボスウェルは、悪い連中のように
そんな卑劣なことはしないとな。」
エドワードは、少し頬を赤らめ口角が少々上がっていた。
「ははっ!僕の負けだよ。降参だ、降参!
君、本当に面白いね!!
気に入ったよ、やっぱり君は僕が目をつけただけある。」
エドワードが笑うと、アリスも笑う。
「エドワードは、私の命の恩人だ。
あそこで助けてくれなければ、私は命を落としていたかもしれない。
本当に感謝している。
それにこの瞳も見られているんだ。
だけど、真実を話すには私にも条件がある。」
本当に話す気なのだろうか。
「アリス、本当にお前・・」
「大丈夫だ。リー。」
アリスは私の方を見て、
まるで小さい子を安心させるかのように微笑む。
その顔は、まるで女神のように穏やかで優しく美しかったんだ。
「それで、条件というのは?」
「なあ、私と一緒に来ないか?」
アリスはエドワードの方へ向き直して言う。
「「え」」
私とエドワードの声が重なる。
「ど、どう言うことだ?アリス。」
アリスが突拍子のないことを言うものだから、
驚きが隠せない。
「エドワードは、調子者に見えるが、
リーと同様に洞察力が優れていると思ったんだ。
エドワードが了承するなら、
私と共に来い。」
アリスがそういうと、
エドワードがひざまづく。
「君が望むなら、どこへでも、王女様。」
そう言い、アリスの手の甲にキスを落とす。
「おい、待て。
私は王女だと言っていないぞ。」
アリスの言うとおりだ。
「ま、実を言うと、
僕の父上が昔そんな話を誰かとしているのを聞いたことがあるんだ。
ボスウェル家はね、古来から王家との繋がりが深い。
誰と話していたかは定かではないがな。」
誰かと話していた?
「おい、貴様の父親と王宮の極秘事情を話す者に
心当たりはないのか。」
その者が誰か分かれば、きっと王女のことを
国中に噂を流させた本人なはずだ。
「いや、分からないな。
僕は、ドア越しに聞いたんだ。
分かるのは男だったてことだ。」
「つまり、その男が黒幕ということか。」
アリスが手を顎に当て言う。
そうして、私たちは一週間エドワード宅に滞在した。
──────【アリス side】
早朝のことだった。
ヴァンリーが側近のアルフィーから郵便物を受け取ると青ざめていた。
「嘘だろ・・こんな時にっ。」
リーがあそこまで悔しがっている顔を見たことがなかった。
「どうしたの?お父様から返答に問題が?」
私がリーのそばに寄って問いかける。
「いや、陛下からの書状は問題ない。ただアリスを安全に頼むとだけだった。
だが、もう1通は父から緊急に戻れとの命令だった。」
あのフォントネル家に緊急で戻る用なんてあるのか?
「ヴァンリー様。本来ならば、アリス様も御同行していただければ、
王宮にすぐ辿り着くと思われますが、
道中は非常に危険ですので、アリス様をお連れするわけには
いかないかと思います。」
アルフィーが深刻そうな顔をする。
「ああ私もアリス連れていきたいところだが、
流石にそれはリスクがある。」
そんなにこの国は治安が悪いのか?
馬で女一人連れていけないほど。
「別に構わないが、なぜ危ないのだ?」
そう私が聞くと、アルフィーが口を開ける。
「・・・マリア妃が亡くなられて以来、
王宮の警備が厳しくなったため、かなりの人員が導入されました。
しかし、逆に地方の警備が手薄となり、最近物騒な事件が多いんですよ。」
「ならば、僕と行動していれば安全だね。」
そこへエドワードが会話に入ってくる。
「どう言うことだ。」
リーが突っかかる。
「だって、ヴァンリー君帰らないとなのに、
アリスちゃんどうするつもり?
僕に任せた方が安全だと思わない?
実は、僕は敏腕銃士なんだから、ね☆」
エドワードがウィンクを混えて言う。
「・・・・」
リーは何も言わない。
「リー。私はエドワードと共にいる。
安心しろ。」
「だが・・」
「リーのお父様がお呼びなんだろう?
帰らなくちゃダメだ。」
私は念を押す。
「・・わかった。」
納得言ってなさそうだったが、リーは承諾する。
多分リーは、エドワードが強いことを知っているものの、
口には出したくないんだな。
「(意外と子供っぽいところあるんだな。)」
私は心の中でそう思った。
────────
【登場人物紹介 vol.1】
・アリス・スペンサー 16歳
本作の主人公。王族の血はひいているが、存在を隠して森奥で育った少女。
物事をはっきりと話し、芯がしっかりとしている性格。少し男勝りな喋り方。
しかし、本当に悲しい時や泣きたい時には人前で感情に出さないタイプ。
家族のように頼れるヴァンリーのことをとても大切に思っている。
・ヴァンリー・ド・フォントネル 21歳
王族との親交が非常に深い有力貴族フォントネル家の次期当主。フォントネル家は、他の貴族と異なり多岐にわたって事業を行う経営一家。ヴァンリーは幼い頃より、英才教育を受けてきたため、全てにおいて一家のために行動する。性格としては、冷静沈着に物事を判断し、感情を表にあまり出さない。しかし、アリスのこととなると、感情豊かになる。
・エドワード・ボスウェル 21歳
フォントネル家と同様古来より、王族と親交にある有力貴族ボスウェル家の次男。
自由奔放に行動し、物事を深くあまり考えない性格。いつもふざけているように見えるお調子者。実際は思いやりがある優しい人柄である。しかし、実兄との確執により、心を閉ざすようになり、家を遠ざけている。そのため、城下町には住まず地方の港町に住んでいる。アリスのことは、不思議で唯一本当の自分を見てくれたと考え、
気に入っている。
・???
・???
・???
『〜コラム〜 No.1』
・話の中で出てきた女神の話は、アリスの住むホワイトボワール王国に伝わる
昔の神話である。【女神イーリスの悲劇】として知られている。
女神イーリスは、アリスと同様の未来予知能力『フォアサイト』を持っていた。
しかし、国民はそんな女神を恐れ、いつしか人々を守るために地上に降り立った
イーリスを妨げるようになった。そんな女神イーリスには、4人の守護神がいた。
彼らは、女神を守るように東西南北に分布されていたが、イーリスは守護神の一人
と恋に落ちる。しかし、幸せになるイーリスをよく思わない悪魔が現れ、国民に
イーリスの悪い噂をさらに流し追い詰めた。そして、悪魔の仕業でイーリスは、
自身の未来予知能力により、自分が殺される未来を見てしまい、ショックの
あまり自ら命を絶ってしまう。
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