さらなる宿命



森を出発して早3日が過ぎようとしていた。



やっとの思いで、最初の町に辿り着くことができた。



ホワイトボワール王国の一番端に位置する港町だった。





「アリス様、お体はいかかですか?


こんなに遠出をされたことはないので、お疲れでしょう。」


ミアが心配そうに眉を顰める。




「ああ、大丈夫だ。


それより、今晩泊まる宿をリーが探してくれているが、


遅くないか?ちょっと見に行ってくる。」



「いけません!アリス様!


アリス様のお姿を公然の場で誰かに見られでもしたら、


大変です!」


ミアが私の腕をがっちり掴む。



「だが、フードも深く被っているし、


顔半分もこの仮面のおかげで見えないぞ。」



「で、ですが!ヴァンリー様は、こちらで待つよう・・「大丈夫!行ってくる!」



私はミアの言葉を遮り、リーがいる場所へと行った。





「・・確か、ここの宿だったよな。」


少し人気のないところを選んだ理由は、


私を目立たせないためか?




私は、恐る恐る宿の扉を開けようとする。




「おい、そこのお嬢ちゃん。


君みたいな子がなぜ、こんな所にいるのかな?」



にひひと気味悪げに笑う男2人組が話しかけてきた。



「私の連れがこの宿の中にいるからだ。」


早速来やがったな、絡んでくる奴らが。





「んーそうか?


お嬢ちゃんの連れだと思われる奴なんざ、ここにはいねえと思うぜ?


どうだ、俺たちと一緒に探さないか?」



こんな誘拐の決まり文句に誰が引っかかると思うんだ。



「・・・」



私は無視して、宿の中に入った。



「っ!・・」


するとそこにいたのは、外にいた男達と同じような連中ばかりがいた。




「なあ?言っただろ?


君の連れはここにいないって。」


外にいた2人がいつの間にか、私の後方にいて



宿の中にいる連中もニヤリとしていた。






「(ま、まずい・・。


どうにかしないと・・。)」










「ミアさん!アリスはどこに行ったんですか!?」


その頃、リーはミアの元へ戻っていた。




「え、ヴァンリー様のところへ行ったのではないのですか?!」


「いや、来ていない。」


「アリス様は、そちらの道の奥の方に行かれた宿に、ヴァンリー様を探しに。」


「ちっ!あんの馬鹿。」


リーが柄にもなく、焦った表情をしているのをミアは見て、



「(アリス様のことになると、やはりこうも表情豊かになるんだわ。)」


密かに思った。










「見たところ、お嬢ちゃんはこの町の人じゃないなあ?


なんのために、ここにいるか教えてくれないかな?」



こいつら、もしや泥棒か。


宿へ訪れる旅人からお金を騙し取る詐欺師でもありそうだ。




「いや、お前たちに答える筋はない。」


「ふーん、そんなこと言っていられるのも今のうちだと思うけどねえ?」



そう言って一人の男が、私にナイフを首に突き立てる。




ツーっとナイフの冷たさが、私の首筋から感じられる。



このままでは非常に危険だ。



どうにか策を。





『(ふーん。

何か面白そうな出来事が、ここで起きてそうだね。)』


謎の男が宿の中を窓から覗く。






「ほら、今言えば、ナイフをどけてやるよ。


だが、拒否したら、どうなるかは分かるよな?」


そう脅す男だが、


私は左手で懐から短剣を取り、



男の腹部に短剣を刺す。



「ぉっ!!・・」


男の口から出た血が、


私の左腕の袖にかかる。




「てめえ!!


なにしやがるんだ!!!!」


もう一人の男が、逆上して


襲いかかってきそうになる。




まずい!とそう思った時、


私でもなにが起きているか分からなかった。





「え・・」



一瞬時が止まったかのように思ったが、



そうではなかった。





「見える・・・」



今目の前に襲いかかってくる男が、


私の心臓目掛けてナイフを突き刺そうとしている


未来が見えた。





「(動きが、全てスローモーションに、


見える・・!)」






「・・・っ」



いつの間にか、スローモーションだった動きが元に戻り、



私は自分でも気づかないうちにその男を難なくかわしていた。





「な、なに?


今、なにが起きたんだ?」


男もなにが起きたか分からなかったようだ。





「今一瞬で、時間が進まなかったか?」

「あ、ああ。 

まるで、その時間だけどっかに飛ばされたみたいだった。」



他の連中も分かっていなかった。




「お前、まじで何者なんだ?」


私が先ほど短剣で刺した男が口を開く。



「わ、わたしは・・」



自分でもなにが起きたのか理解できず、


今のを自分がしたと思うと、体が震えてきた。




ドンっ!


後退りしていたら、近くの椅子が倒れた拍子に


私も尻もちをつく。


「うわっ・・」



「なあ?嬢ちゃんよお、


ふざけるのも大概にしろよな?」


男は腹部に刺された短剣を抜いたのか、


短剣を右手に私の心臓に突き当てる。






「はいはーい、お遊びはそこまでにしときなよ。


お兄さんたち☆」



どこからやってきたのか、謎の長身の男が立っていた。




「銀、髪・・?」


あまりにも美しい風貌をしていたために、


思わず口に出ていた。




「誰だ、てめえ?」


一人の男が絡みに行く。


「うーん、君たちも、よーく知ってると


思うけど・・」


そう言いながら、その長身の男は、


高級そうなハンドガンを取り出す。




「卑劣なことをしている下郎共に


名乗る価値はないな。」


さっきまでの調子に乗っている感じから


一気に冷たく、目力だけで圧倒する雰囲気を纏っている。





「・・・!」


そこにいる連中は彼の持つハンドガンに反応し、


体が硬直している。




「さて、誰から殺られて欲しいー?」



彼は、ハンドガンでターゲットを決めている。



「お、おい、てめえら、ズラかるぞ。」


そう言って連中は急足で、宿を後にした。








「・・・・あの・・」


ハンドガンをしまう彼に声をかける。



「ん?君、惚れた?」


な!


「惚れるわけないだろ!


そうではなく、助かった。


お礼を言いたかっただけだ。」



私は、少し顔に熱を持って言う。



「ははっ!冗談だよ、冗談!


さて、君に聞きたいことが


あるんだけ・・」


安心したせいか、一気に体の力が抜けて、


彼の声が遠のいていく。




「おっと。


まいったな。」



彼は、意識を失い倒れそうになった体を


ガッチリと押さえる。


そして、私のかぶっていたフードがファサッと脱げる。




「・・・・この・瞳・・」







バンっ‼︎



「・・っ!

貴様、その子に何をした。」


その時、リーとミアがアリスのいる宿に辿り着いた。




「っと!

次は、誰かと思ったら、


君、フォントネル家の次期当主ではないか?」



「そういう貴様は、エドワード・ボスウェルだな?


ボスウェル家の次男か。」




リーは銃口をエドワードに向ける。



「君とこの子はどういう関係なのかな?


会うのは初めてだけど、


どんな時も冷静でいると聞く君を


ここまで感情露わにさせるこの子は


一体誰なんだろう。」




エドワードは、ニヤリと笑う。



「貴様っ!」


リーがハンドガンを握る手に力が入る。


「あーやめてくれよ。


僕は、この子を助けた恩人なんだから。」



「何?」


「この子、今はいないけど


さっきまでチンピラ集団に襲われていたんだよ。


それをたまたま通りすがりの僕が助けたんだよ。」



「その話を信用しろと?」


リーはアリスに付着している血を見る。



「その血は、なんだ。


それにそこに落ちている短剣は、


その子のものだ。」



リーはどうやら、エドワードが傷つけたと予測していた。



「いやいや、よく見てよ。


返り血でしょ!


さっきの連中の一人を刺した時に


付着したんだよ。」



リーはそれを聞き、顔を歪める。



「ふふっ。


君の洞察力と考察力は優れていると聞くが、


今の君は心が乱れて、


判断力も欠けているのかな?」



エドワードは煽るようにいる。




「貴様、それ以上・・「ヴァンリー様!


おやめください!


それより、アリス様をどこか安全な場所へ・・」


ミアがリーを止める。



「そうだね、そこにいるお嬢さんの方が


君より賢いみたいだ。


この近くに僕の部屋がある。


安心してよ、ここよりは少なくとも安全さ。」



エドワードがアリスをお姫様抱っこをしているのを


リーが止めに入る。



「それ以上触るな。アリスは私が運んでいく。」



エドワードからアリスを奪う。


「怖い、怖い。」








────



そうして、エドワードの住む家に連れてこられた。




「アリスはただ気を失ってるだけだよ。


じきに起きるさ。」


エドワードはひと段落したと見て、


ソファに座る。



「詳しく話を聞かせてもらおうか。」


リーはエドワードの首に剣をあてがう。



「しっかし、君、殺気立ってるなあ。


僕も君に聞きたいことあるんだよ。」



エドワードがソファに座り直す。




「聞きたいことだと?」



「あの子が、連中の一人に襲われた時に


時間が一瞬飛んだようだった。


その時僕にも何が起きていたか分からなかったが、


あの子の瞳が、光っていたんだ。」



その言葉にリーは眉がピクッと動く。




「つまり、お前はアリスの瞳の色を見たんだな。」



「あーオッドアイだったねえ。


あの子、もしかして昔噂されていた王女だったりするのかな?」



エドワードは、ふざけているように見えて、


実は勘が鋭い。




「王女はこの国に存在しない。」


「でもさあ?


火のないところに煙は立たぬって言うじゃん?


単なる噂ではないと、僕は思うんだよねえ。」



エドワードの目は、確信している目であった。




「・・(こいつ・・)」




「まああの子が王女かそうではないかは、


本人に聞くとして。


あの子、何か能力者だったりするわけ?」



「仮にそうだったとしても、


貴様に関係ない。」



そう言って、リーはその場から立ち去る。






「・・・ん」


体がだるい。


誰かがベッドに座っている気がする。



「・・・・リー?」


わずかに目を開けると、


そこには心配そうに見つめるリーがいた。




「どれだけ、心配したと・・!」


リーは私の手を握り締めながら、


ベッドに伏せる。




「ごめんなさい、リー。


リーが向かったと思った宿に行ったんだけど、


違ったんだね。」



「あそこで待ってろって言ったのに、


お前に何かあったらどうしようかと。」


リーがここまで焦る時は、私に関係することだ。



昔からこうやって心配ばかりかけてきた。




「ところで、ここはどこなの?」


リーが見つけた宿なのかな。



「ここはお前を助けたという男の家だ。」


あ!さっきの銀髪の。



「あの人は今どこにいる?!」


私は急いであの人のところへ向かいたかった。



「アリス、まだ動いちゃダメだ!」


「いやもう大丈夫だ!」


私は、リーを押しのけて


部屋から出る。



「これはこれは、もう起きてよかったのかな?


アリス嬢。」


リビングに行くと、


さっきの人がコーヒーを淹れていた。



「どうして、私の名を。」



「ああ失礼、そこにいるヴァンリー君から聞いたんだよ。


で、僕は、エドワード・ボスウェル。よろしくね?」



後ろを振り向くと、リーが不満げに立っていた。




「うん、よろしく、エドワード。」


私は、近くにある椅子に座る。



「さっき聞きそびれたんだけど、


君、能力者だったりするの?」


単刀直入に聞くエドワード。



「わ、私にもさっきの出来事はよく分からない。


襲おうとしてきた奴を


どうにかしようと思った時に、


そいつが次に取る行動が見えたんだ。


そしたら、いつの間にか私はそいつを


かわして時間が過ぎていた。」




スローモーションに見えた世界だった。



怖い、自分はなんなんだ。




「・・・あの、私、そのような話聞いたことがあります。」


ミアがそっと会話に入ってきた。



「ああ、俺もそんな昔話を聞いたことあるな。」


リーが目を伏せながら喋る。



「ミア、詳しく聞かせて。」


私は、その話がなんなのか知らずに聞きたかった。




「はい。昔、フォアサイトと呼ばれる力を持つ


女神がいたそうなんです。


フォアサイトとは、これから起こる未来を予測できる能力。


つまり、予知能力のことです。


女神は人々に恐れられ妨げられる存在だった。


しかし、その女神には4人の守護神がいたそうで、


その守護神は、東西南北に分かれて女神を守ってたみたいです。」


そこまで言って、ミアが話をやめる。



「それで、その女神は、どうなったのだ。」


私は、続きが聞きたくて、ミアに話すよう促す。



「女神は、自分が殺される未来を予知し、


自ら命を落とす。


これがその話の結末だ。」


ミアが言いにくそうだったのを察し、リーが代わりに言う。




「そんな!4人の守護神とやらに


守られていたのではないのか?」



「それをも上回る力を持つ悪魔がいたんだよ。


悪魔は自分の手を汚さずに、女神に未来を見せ


死を選ばせた。」


エドワードが怖い表情で言う。




「だが、今の話と私の能力でなんの関係がある?


その話は、ただの神話だろ。」



「その女神は、君と同じく


グリーンとグレーの瞳を持つオッドアイだったんだ。」




それを聞き、私は身震いが止まらなかった。




「アリス、もう部屋に戻ろう。


顔色が悪い。」


リーが私の肩を抱き、


部屋に連れ戻す。




「私は、何者なんだ?


ただの人ではないのか?」



王女という存在を隠すにも、


荷が重いというのに、



それ以上のものがのしかかる。







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