謎多き少女


リーと出会ってから、


ミアにも誰にも内緒で、



森奥で何度か遊んだ。



だけど、子供ながらに思うことがあった。



それは、リーが私の瞳目当てに何か策略を考えているのではないかということ。




「それに、昔一度お父様がおっしゃっていたけれど、


私の珍しい瞳を目当てに人身売買する者が現れかねないと。」



私は、思ったことをはっきりというタイプで、


リー本人に9歳になった時言ってみた。




「まいったなあ。私がアリスにそんなことすると?」



リーとは約1年間接してきたけれど、


その思いは払拭しきれていなかった。



「しない保証は、どこにもないぞ。」



「全く君って子は、大人びてるんだか子供らしいと言うべきなのか。」


リーが頭を抱える。



「リーだって私と5つしか変わらないじゃないか!


リーも子供だ!」


実際、リーはその当時まだ14歳で子供であったが、有力貴族フォントネル家の


次期当主としての教育を受けてきて、大人びた貫禄があった。




「いーや、私は子供ではない。


アリスのように、証拠もなく人を疑わない。」


リーとそう言い合っていると、


「グルゥゥゥ」



ルークがやってきた。



「ルーク!お前は、私の味方になってくれるよな?」


ルークは私に擦り寄ってきた。


「ほら見ろ!ルークは私の味方だぞ!」


私は、リーに見せつける。



「ったく。虎に人の言葉が分かるか。」


リーは呆れた表情をしたけれど、


それはそれで嬉しかった。




最初会った時のリーは、優しかったけれど、


どこか冷たい印象もあった。



にっこりと笑う顔は、全て社交辞令のようだった。



だから、今こうして、リーが私に対して、


いくつもの表情を見せてくれるだけで嬉しかったんだ。




本当のところを言うと、リーを疑ってはいなかった。


リーのことを信じたいと思っていたから。






このままリーと遊んで、ずっと平和な日々が送れると思ってた。


だけど現実そこまで甘くはなかった。




──────アリス10歳。



運命の歯車は、この時から狂い出していたのかもしれない。



「アリス様、今日は珍しくリー様は来ませんね。」



ミアは、リーと私が仲良くしているのを唯一知る存在で、


ミアもまた、リーを信頼している。




「そうだな。確かに一週間前、リーは今日訪れると言っていた。」


私は、読んでいる本をパタンと閉じる。





カチカチ・・・




時計の秒針が部屋中に響き渡り、



日も暮れ始めた頃だった。






ガッ!


家の外で物音がした。




「ミア、私ちょっと外見に・・」


そうミアに告げた瞬間のことだった。



「おっと!その必要はねえぜ!


王女様!」



そう言って中に侵入してきたのは、


ガラの悪そうな3人組の男たちだった。



「何者だ!」


私は、威勢よく言うが、


男達はにやにやと笑う。



「王女様って聞いたから、どんな女かと思ったが、


まだこんな小さいガキだとは思わなかったぜ!」


その内一人が、ミアの両腕を掴み、


強引に紐を結ぶ。




「ミアに何をする!


その手を離せ!」


私が近づこうとすると、


男はナイフを取り出す。



「確かに、オッドアイの瞳を持つ姫さんだなあ。


王女様を売り飛ばしたら、どれだけの金が手に入るんだろうな?」



私も短剣に手をやるが、


相手の持つナイフの方が大きい。


私のとサイズが違いすぎる。



「・・・ふぅ・・」


呼吸を整えて、震える手を片手で抑えながら


考える。



何か案はないか!


ここをすり抜ける案は。


考えろ!考えろ私!





「・・お前らは、なぜ私が王女だと断定できる?」


私が今できるのはこれしかない。




「は?


そんなの依頼主から、王女の特徴を聞いたからだよ。


グリーンとグレーの瞳を持つオッドアイの娘だと。」



「そうか。では言い方を変えよう。


王女などこの国には存在しない。


お前の依頼主とやらは、飛んだ勘違いをしている。」



賭けに出ている。


こいつが上手く情報を吐いてくれなければ。



「か、勘違いなんてしてねえよ!


俺らの依頼主は、王宮の事情に詳しいんだよ!」


ミアを縛り付けている奴が叫ぶ。



「(このガキ、本当に10歳なのか?


大人の男3人を目の前にして、これだけ落ち着いていられるものなのか?)」



「王宮の詳しい事情は、貴族でさえほぼ知り得ない。


それをお前達の依頼主が知っていると言うことは、


王宮内通者ではないのか?」



「そ、そんなのそうに決まっ・・「黙れ!!!!」


目の前の男が、仲間の言うことを遮る。


だが、見事に引っかかったな。




「それ以上口を開いてみろ!


お前の首を今ここで跳ねてやる!


(畜生、なんなんだよさっきからこのガキは。


俺も依頼主からは王女の話を持ちかけられた時、


半信半疑だった。そんなのはあり得ないと。


だが、もしやこいつ本当に王女なのでは──?)」




「リーダー、こ、こいつが王女でないならよぉ、


よ、用はねえ、よな?」


もう一人の男が、怯えた様子で言った。




「いーや、この際このガキが王女かなんて関係ない!


お前、このガキを取り押さえろ!


(王女でも王女で無くても、


これだけ珍しい瞳を持つ少女だ。


高値でいずれ売れる。


そうなりゃ本望なんだよ、俺たちは王女なんざ実際どうでもいい。)」




な、なんだと?!


私が王女でないと知れば、出ていくと思ったのに。



この展開は、まずいことになったぞ!



「なっ!!」


二人がかりで私の腕と脚をきつく紐で縛り上げる。



「いいから、大人しくしてろよな・・」


これだけ強く縛られたら、全く身動きが取れない・・っ!


「アリス様を離してください‼︎」


縛られてるミアが必死に叫ぶ。








すると、



バンっ!



勢いよくドアが開く。





シュッ、シュッ、シュッ!


護身用の隠しナイフが3人の肩に正確に当たる。



「リー!!」


そこには、いつもより怖い表情のリーが立っていた。



「貴様らは何者だ。


この娘に何の用があって、ここへ来た。」


リーは怒鳴りも声を荒げもせず、静かに問い詰める。




「・・っ!お、お前は・・!!


フォントネル家の子息か・・!」


奴らのリーダーは、どうやらリーが身につけている服の


紋章を見て、すぐにフォントネル家のものだと気づいた。




「ほう、貴様はただのチンピラではないようだ。


貴族の紋章まで覚えている平民は、それほど多くはない。



お前達の目的は、この娘だろ?


今すぐ吐かないと、今度はこれを頭にぶち込むぞ。」


そう言ってリーが取り出したのは、銃であった。




「・・・お、俺たちは、・・王女がこの、


森奥で住んでいると聞いたんだ!


そ、それで、オッドアイの瞳を持つ娘を


連れ去り売れば、対価をくれると言われた、だけだ!」



「そうか。ただ、ここで尋問し続けるわけにはいかない。


続きは、私の館の尋問室で行うとしよう。


アルフィー!この者達を連れてゆけ!」


リーの護衛人アルフィーが現れる。



「かしこまりました。」


アルフィーとその部下達が部屋に入り、手際良く3人を連れて行く。







「さて、遅くなってすまない、アリス。」


リーは眉を潜める。


「ミアさんも、申し訳ない。」



私とミアの縛られた紐を素早く解く。



「いいの!リーが来てくれたから!

ありがとう!」


私は嬉しくなってリーに抱きつく。



「おっと!アリスが男3人に立ち向かう姿は、


流石に驚いたな。」



「リー見てたの?!」


「本当はすぐに助けるつもりだった。


だが、アリスが相手を圧倒していることに


私自身唖然としていたんだ。」



てことは、私が王女だってもしかしてバレた?!



「も、もしや、リーって私が、王女だって・・」


恐る恐る目を向けて言ってみる。




「ああ、かなり前から知っていた。


ついでに言うと、イザベル王直々にアリスの護衛を任されていた。


言えずにいてすまなかった。」


リーは申し訳なさそうに言う。



「そ、そんな!」


ミアが驚きのあまり、開いた口を手で抑え言う。




「そっかあ。お父様の命令で、」


私は、目を伏せる。


なんだ、リーが独断で動いていた訳じゃないんだ。



「あの時、初めて会った時、確かにただの女の子ではないと感じていた。


しかし1年ほど前から、城下町では王女が実はいると言う噂が数多く流れていた。



そして、その特徴がオッドアイの瞳を持つ少女だと。」



噂?!


どこからそんな情報漏れるんだ。やはり内通者がいるのは間違えないのか?




「私たちフォントネル家は、イザベル王と政治的にもタッグを組んでいる貴族の内の


一つなんだ。


だから、王宮へ仕事のために訪れることが多い。


その時にイザベル王にお話ししたんだよ。アリスと出会っていたことと、


アリスが危ないと。」



リーは私の瞳をじっと見つめる。


リーのオリエントブルーの瞳が、私の瞳を見つめて離さない。



「それで、お父様がリーに私を守れと?」


「そう言うことだ。黙っていてすまないと本当に思っている。」




「いやもういい。そんなことで私は怒ったりしない。」


リーに微笑みかける。


「私が、王の命令で便宜上アリスのそばにいたと疑わないのか?


いつかの時みたく。」




「私はリーを疑ったりしない、この先も。


確かに、リーは物事を慎重に判断して


論理的思考を持って一族のために行動する。



だけど、私のそばにいる時だけは、その匂いはしない。


私の直感が言ってるんだ、つまり信頼している。」




私は、ハハっと笑う。



「全く、君という子は。」


リーは私の腕を引いて、強く抱きしめる。



「絶対にアリスを傷つけるまねはしない。


私の名誉にかけて誓う。」



そう優しく、私の耳元で


リーは囁いたんだ。



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