8年前 

アリスが8歳になった頃。



「アリス様!お目覚めください!


朝食が出来上がりましたよ!」



鳥の囀りが聞こえる。


そして、眩しい朝日が照らす。




「ん・・」


私は、あまりの眩しさに目が開けられない。




「さあ!布団は洗濯しますので、剥がしますよ!」



私の身なりを世話するメイドであり、


私の唯一の遊び相手であったミアは、



私が森奥で暮らす当初からずっと一緒だった。



「ちょっと!まだ眠いの!」



私は、駄々をこねるけど、


ミアの力に負けてしまう。




「いけません!


朝食を食べて、今日は読み書きの勉強をする予定があります!」




「嫌だ!


私は、ルークと遊ぶの!」


ルークとは、虎のことでアリスが飼い慣らしているペットみたいなものだ。



「ルークとお遊びになるのは、勉強をし終えてからです!」


ミアは、私が外に出そうになるのを止める。





「わかったから、手を離せ!」


そういうと、ミアは掴む手を離す。



「よし、今だ!」


私の作戦に引っかかった隙に、私は隠れ家から飛び出す。



「ちょっと!アリス様!!


無闇に外へ出てはいけません!」


ミアがすばしっこいアリスを追いつけるはずもなく、


完璧にアリスは逃げ切ったのだった。








「はあ。勉強、勉強って何のためにそんなのするんだよ。」


私は、森の中で育ったため、窮屈な暮らしをしてきた。



「おや、こんな森奥でお嬢さんがなぜいるのかな?」



初めて聞く少し低めの声は、ミア以外の人物だった。




「だ、誰だ!」


振り向くと、私よりは完全に年上だけど


まだ少年っぽさが抜けていない男がいた。



「その瞳は・・」


やばい。


私の瞳は、オッドアイで誰かに見つからないように


ひっそりと暮らしてきたのに、


こんな簡単に見つかってはダメだ。


どうしようか。




「そ、それ以上近づいてみろよ。」


私はそう言って、万が一のための短剣を手に取る。



「君みたいな小さい女の子が、こんな危ないモノ持っていたらダメでは


ありませんか?」


そいつは、怖がるどころかにっこりと笑う。




「な、馬鹿にするなよ!


アリスだって、ちゃんと・・ってうわ!」


私が短剣を強く握りしめていると、


その男は私に近づいて、短剣を奪い捨て


私を抱き上げる。



「アリスという可愛いらしい名をお持ちなのですね?


私は、ヴァンリー・ド・フォントネルと申し上げます。」



自分で名乗っちゃった。


また失態。



「ヴァン・・リー・・?」


一度聞いただけでは覚えられない名前だった。




「愛称でリーと呼ばれております。


ぜひそちらでお願いします。」


彼はそうにっこりと笑って、私の手の甲にキスを落とす。





「アリス様ー!」


遠くでミアの声がする。



「さ、私はこれで失礼しますよ。」


ヴァンリーは、すぐさまどこかへ去っていってしまった。




これが、私とリーの最初の出会いだった。










──【ヴァンリー side】



「ヴァンリー様、おかえりなさいませ。


こんなに遅くなるまで、どちらへ?」



側近のアルフィーは、私が脱いだ礼服を片す。



「ちょっと森奥で、変わったのを見ただけだ。」



「変わったの、ですか?」




あの子は一体、何者なんだ。



あんな森奥でひっそりと暮らす、謎の瞳を持つ少女。








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