44 王の心はバッキバキ
「やっぱりあなたでしたか、天使たちに願いを言ったのは」
「左様、王として、この国に巣食う魔性の女を殺そうと思ってな」
「……それで、そこの人が天使たちの代表ですよね?」
6枚の巨大な翼。たぶん、天使の中でも最上位の存在でしょう。魔王さんと同じくらいの魔力です。
話しかけましたが、思いっきり無視されました。顔をぷいって背けるとは……。
「……答えませんか。ならば、王。なんでこんなことをしたんです」
「貴様が、王を侮辱したからだ。国家を運営し、莫大な権力を持ってして国民にあがめられる、王を! 貴様は侮辱した!」
王は血相を変えてそう叫びます。侮辱、侮辱ですか。
「侮辱なんてした覚えがありませんが」
「なんだと……? 貴様は、処刑ではなく追放という温情を受けた身でありながら、異種族が仲睦まじく暮らす村を作るなどという、馬鹿げたことを行った」
王は、さらに目に黒く淀んだ殺意を燃やします。ねっとりとして、深い闇です。
「だがな、それは王である者のやる事だ! 貴様のような凡人がやることではない……王族が、この世の秩序を作る王こそが行って良い行為なのだ! それを貴様は、なんの許可もなく行った、それが侮辱以外のなんであるというのだ?!」
「……すごいプライドですね」
めちゃくちゃな事を言っていますが、実際にここまでの事態を引き起こしているので、本心からそう思っていることなのでしょう。
「だからこそだ。貴様と、貴様の作ったこの場所を破壊する」
「それで天使に願ったのですか。まったく……」
厄介なことをしてくれますね。もう仕事モードは終わりたいんですけど、村の平和が確定するまでは私は本気で働きます。
「天使も、なぜそんな願いを? 水を抜いていた天使と同じように騙されたのですか?」
「くくく、そうではない。貴様、天使が堕天する理由を知っているか?」
心に闇を持つ、でしたか? それがどういう基準なのかは知りませんが。
「天使はな、人の願いの内容などどうでも良いのだ。願いを叶えるための存在ではあるが、その結果どうなろうと天使は気にしない。感情というものがあるのか、疑いたくなるがな」
私もあなたにまともな感情を理解できるとは思いませんでしたよ。にしても、願いの内容を気にしない……だから善き迷惑者ですか。どんな願いでも聞き入れる、その結果どうなろと知らないという訳ですね。
水を抜いていた天使の様子から考えると、願いを叶えている最中は、他の願いを受け付けないんでしょうか?
うーん、なんだか本当に感情がないように思えてしまいます。水を抜いていた天使は感情がはっきりあるように思えましたが……あ、まさか。
水を抜いていた天使は、王の願いを最初断ろうとしました。天使が願いをたんたんと叶える存在なら、そんなことはしないのでは?
「願いを叶えることに疑問を持つ。それが堕天の理由ですか?」
「……ほう」
正解みたいですね。心に闇を持つという表現はあまり正しくないんでしょう。
人の願いを叶える存在、それなのに願いを叶えることに疑問を持ってしまった天使は堕天するんでしょう。
水を抜いていた天使は、どこかで願いを叶えた結果どうなるかを考えてしまったんでしょう。それで、ただ願いを叶える存在ではなくなってしまったと。
……天使ってかなり面倒な生き方をしているんですね。堕天した天使の方が正しく感じてしまいます。
「面倒な存在だろう? だが、なぜか天使は堕天を恐れる。だから御しやすいのだがな。さぁ、熾天使アズライル、奴を滅ぼせ!」
「……」
相変わらず天使は喋りませんが、私に敵意を向けてき……てませんね。あれ? かかってこないんですか?
「……天使? 何をしている! 人の願いを聞くのが貴様らの役目だろうが!」
天使が私に向かってきます。……やるしかないですね。
天使が大量の魔法陣をうかべます。これは……まずい気がします。とりあえず全力で防御魔法を使いましょう。
「くははは、どうした。手も足もでないか? いいぞ、そのまま押し潰してしまえ!」
こ、これは……強いですね。
普通にやったら勝てないかも知れません。ですが私には奥の手というやつがあるのです。
魔王さんに教えてもらったやつです……いきますよー。
「《覚醒》!」
「……!」
魔力が溢れます。この状態なら絶対に負けませんよ。
とりあえずは天使を拘束しましょう。
「……?!」
単純な拘束魔法ですが、魔力量で無理やり押さえつけます。
「あまり、人の願いを素直に叶えるものじゃありませんよ。少しは疑問を持ってみるといいです!」
魔力を大砲のように打ち出して、天使を遥か彼方へと吹き飛ばします。ついでに檻に入れた残りの天使たちも投げ飛ばしました。
「うそ……だ。こんなに、あっさりと?」
「はい。あっさりと、です」
《覚醒》を使うと魔力の量が倍近くなりますから。
「さて、王。村には平和が訪れましたし、貴方が今後にどと村に近づかないというのなら、このまま国に返してあげます」
「……応じなければ?」
「少々怖い目にあってもらいます」
「怖い目?」
はい、そうです。まずは王に魔法をかけます。これは飛行魔法ですね。
次は、コマのように回転させます。
「ぎゃぁぁぁぁぁぉ?!」
そしてそのまま上空に打ち出しましょう、ぽーんと。
「うわぁぁぁーー」
一瞬で見えなくなりました。しばらくすると自由落下で落ちてきます。地面に当たる寸前で、はるか上空へと転移させます。もちろん、勢いは保ったままで。
「た、頼む助けーーー」
無限に落ち続けてください。とりあえず、丸一日はそうしていてくれればいいですから。その後契約魔法で二度と村を襲えないようにして王国に返してあげます。
甘い対応かもしれませんが、ここで王の命を奪ったりしたら大変な事になりそうですし。
それじゃあ、落下を楽しんでくださいね。わたしはみんなのところに戻ります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
side王
どうしてこんなことになった。王を侮辱したあの女を懲らしめようとしただけなのに……なぜ無限に落ち続けるのだァァァァ。
「うぎゃぁぁぁぁああああ」
しかも、回転が加わってるせいでまともに姿勢も制御出来ない。
え、これはさすがに死ぬんではないだろうか。王たる我が、ここで?
いや、大丈夫なはずだ。まだあの女に復讐するまでは死ねない!
「うぎゃぁぁぁぁ、あ?」
む? 浮遊感が無くなった? まさか終わったのか? 下を見てみよう……いや、落ち続けているな。何故だ……加速しすぎたせいなのか?
なんにしても恐怖が薄れたのはいいことだ。このまま耐え続けることが出来るからな。
ぱくっ。突然、王たる我の視界が真っ黒に染る。そして聞こえてくるのは翼をはためかせる音と、生暖かいぬるっとした液体が体につく感触。落下は止まったが……これは、もしかして……。
「食われたァァァァァァァ?!」
……そして、国に帰ったのは3週間後だった。謎の巨大な鳥に食べられたかと思えば、そのまま丸呑みにされ、地獄のような思いをし、挙句の果てには排泄物と一緒に荒野に捨てられた。
その後も国へ帰る途中に追い剥ぎに会い、盗賊にボコボコにされ、国民にすら汚いものとして扱われた。
国に帰るまでの間、食料もなく、雨と虫で命を繋いだ。
やっとの思いで王都についても、誰にも王だと信じて貰えず、妻と息子でさえ最初見た時は完全に汚物を見る目をしていた。
そんな私はいま、玉座に座っている。だが、以前は玉座に座れば燃えたぎるような気持ちが湧いてきたが、今はもう虚無感しか覚えない。
「……もう、心が折れた」
人生で味わったことの無いほど辛い3週間だった。
これもあの聖女に関わったせいなのか……。
「……大臣よ」
「何でしょう、王よ」
「……聖女に関しての記録を消せ、もう関わることはやめる」
「それは……いいんですか? 王よ、あれほど執着していたのに」
「いい。もう、いいのだ……」
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