choice.39 そして選んだ未来へと(1)

エピローグ入り!


そして今日はここまで!

(2日目も10,000字を超えたぁ!)


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 そんなこんなで波乱万丈アクシデントはありつつも、まあ最終的には御帳さんとのデートは無事に終わった。

 俺にも御帳さんにも心境の変化はあったし、互いの心に小さくない爪痕は残っているが……とはいえ、世界基準で見れば何も起きてないわけだし、ここは「無事」としておくことにする。


 これにて、週末を利用した二人の少女とのデートも終幕。

 色々なことがありすぎて、すっかり頭から抜け落ちていたのだけれど……「俺が二人のことをよく知り、この関係を終わらせる為の結論を出す」という当初の目的は、果たせたと思う。


 約束の通り、俺が辿り着いた「選択」を明日の放課後にでも二人に伝えれば、この物語も幕引きというわけだ。


 ──だが、その前に。


 さっきも言ったように、結果的にはほぼ全てのことが円満に解決する方向に向かっているので、必要があるのかと問われると微妙なところなのだが……それでも一応、物語を終える前にやっておくべきことがあった。


 御帳さんが引き起こしていた(この言い方は語弊があるが)『異常』について、不可解な点はいくつか残っている。

 それを「異常は異常だから異常なのだ」なんてトートロジーで放置するのは、やはり後味がよろしくない。


 いや、俺としてはぶっちゃけ何でも良いんだけど……そうは問屋を下ろしてくれない人がいたというだけの話であって。


 うん。言うまでもないかもしれないけれど、瑞浪緋色さん。

 この件については当事者というわけでもないはずなのだが、意外と神経質な人なのかもしれない。


 とはいえ考察対象が『非現実』である以上は「現実に即した合理的な解釈」なんて不可能なので、彼女が語った推察は全て「〜と考えれば最低限の辻褄は合うが、確証はない」という注釈が末尾に付随するのだけれど。



 日曜日は御帳さんの家で昼食と夕食までご相伴に預かることになって、その後、空が暗くなってから帰宅した。

 家に着いた途端に疲れがどっと出て、そのまま倒れ込んで深い眠りに就いてしまいそうで──というタチが悪い気がしなくもないタイミングで、ポケットの中の携帯が震える。


 液晶に表示された『瑞浪緋色』の名前を見て、無視しても良いんじゃないかとも思ったのだが……たぶんその場合、何か別の手段でコンタクトを取ってきそうな怖さが彼女にはあるので、もう潔く諦めて電話に出ることにした。


「──お、まさか出るとは思わんかったわ」


 第一声がそれだったときは、やっぱり出るべきじゃなかったと己の判断ミスを嘆いたけれど。


 しかしふと気が付くと、俺は促されるままに昨日と今日のデートで起こったことを話していた。メインは『非現実』の話だったので、隠すべき箇所はちゃんと隠したはずだが……いや、そういう問題じゃなくね?

 やっぱり瑞浪さんって、疲労で思考能力が低下してるときに相手できる人じゃないよなぁ……それを狙ってこのタイミングに電話してきたってのは、流石に穿ち過ぎだろうけど。


 というか疲労が無かったとしても、瑞浪さんがその気になれば、俺から何でも聞き出せるのでは……? 何そのスキル、いくらでも悪用し放題じゃん。


 まあ、瑞浪さんの底知れなさ(俺の底の浅さかもしれないけど)は措いておくとして──彼女は、話を聞くだけ聞いて「ふうん、そっか。じゃあね!」で通話を切るような人ではない。

 もしそうだったら、俺がただの口軽野郎で終わってしまう……違うのかと訊かれれば困るけれど。


 果たして、全ての話を聞き終えた瑞浪緋色さんは、


「君の言う『非現実』、つまりは珠洲ちゃんを中心として起こるタイムリープのことやけど──それが起こるか起こらへんかの基準は、『』って考えるのが一番しっくりくるかな」


 と端的に結論付けた。


 例えば告白を拒否できなかったのは、御帳さんが「告白を受け入れてほしい」と望んでいたから。他の願いについても同様で、『繰り返し』のトリガーとなるのはいつも、俺が御帳さんの望みに反する答えを返したとき。

 確かに、その理屈で納得はできそうに思えるのだけれど。


「──って言うと、君は『それじゃ直近の二つは説明が付かない』とか思うんかな」

「……」


 その通りなんだが、言い当てられると軽くムカつくな。

 その通りだから、何も言い返せないけど。


 ──それって……もしかして、私のこと?

 ──私のこと、迷惑でしたか?


「あの二つの問いに対して俺が最終的に言った『答え』で、御帳さんは傷付くことにはなっただろ? だけど『繰り返し』は再発しなかった」


 その理屈だと、「御帳さんは自分が傷付くことを望んでいたのだ」なんて結論になってしまう。そんなわけはないだろう。


 けれど瑞浪さんは、まるで何でもないことのように言った。


「それは簡単やん──珠洲ちゃんがあのとき望んでたのは、君が『やったってわけ。

 たとえそれを言われた結果、自分が傷付くことになったとしても……嘘は吐いてほしくなかったってことやろ」


 だから一度目の答えでは『繰り返し』が起きたし、逆に二度目には何も起きなかった。

 状況証拠的には、納得せざるをえなかった。


「あとついでに言っとくんやけど、気付いてる? 君が逃げ出したときって、珠洲ちゃんの家から出られたんやんな?」

「そうだけど、それがどうかしたか?」

「冷静に考えておかしない? 屋上で告白されたときの『繰り返し』では、屋上から出られへんかったんやろ?」

「……あ」


 ……気付いてなかった。

 そうだ。あのときは確か、屋上に出入りするためのドアが何故か開かなかったんだ。


「これは今回、砺波さんだけが『異常』を認識できてた理由とも重なるんやけど……たぶん、それが珠洲ちゃんの『望み』を成就させるために必要やったからやないかな」

「……俺が御帳さんに向き合えたのは、封伽が背中を押してくれたおかげだからな」

「そういうこと」


 つまり、あのとき封伽が『自分が今ここにいる意味』として語った内容が、まさしく正解だったということ。

 状況を把握できているとは言いがたい状態にも関わらず、しれっと直感で正解を導き出していた封伽は、意外とではなく普通に凄いのかもしれない。


 そしてそれは、伝聞でしか事の顛末を知らないはずの瑞浪さんにも当てはまるのだけれど。


「まあでも、こんなん全部が全部想像でしかないんやけどね」

「…………」


 いやもう、もはや嫌味にしか聞こえなかった。

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