choice.21 選択肢は作るもの(1)
このサブタイがやりたかったんじゃいっ!
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「……これは、思ってたより深刻そうやね」
物陰に身を潜めている(つもりらしい)二つの気配に気付いて、瑞浪緋色は呟いた。
視線に釣られて俺がそちらを見やると、片方は落ち着いた様子で俊敏に、もう一方は「やばっ!?」って感じに慌てて頭を引っ込める。しかし、その場を離れるつもりはないらしい。
いや、既に気付かれてるから手遅れだよ。
……と、突っ込む気力も湧かない。
瑞浪さんですら声音には呆れの色が濃くて、普段の軽妙さが薄れていた。彼女の底知れなさを思うと、これはよっぽどの事態と言っていい気がする。
だが、俺も同感だった。もはや笑うしかないよね、みたいな表情でこっちを見てくる瑞浪さんに、俺は黙って頷く。
御帳珠洲と砺波封伽の視線は、とりあえず無視だ。
どうせ理由は、「俺が瑞浪さんと二人きりで話している状況が気に入らないものの、何を話しているのかは気になるから」とかだろうし。
そして瑞浪緋色も俺も、会話の内容をそうやすやすと漏らしはしない。この距離なら、少し声を潜めるだけで、俺達の会話は二人に届かなくなるだろう。
他にちょうどいい遮蔽物が無いから、簡単には距離を詰めてこないだろうし。
……って、学校の廊下で何をやってるんだよ、俺達は。
放課後で人目が少ないのが、せめてもの救いだけれど。
──今日の昼休み、「どちらが俺と一緒に昼ごはんを食べるか」という理由で争っていた二人を見て、俺は悟った。
御帳さんと封伽、それから俺との不思議な現状が、「噂になるのは避けられないだろう」という瑞浪さんの予測。
二人が人目も憚らずに言い争っていたという話を聞いて、その予感が確信へと変わったのだ。
それでも、なんとか放課後までは持ちこたえた。まあ、御帳さんはクラスが違うからってだけの理由なんだけど。
たかだか十分の短い休み時間じゃ、いちいち俺の教室まで来ないし。封伽にも御帳さんにも、それぞれの学校生活があるんだから。
恋する乙女も、恋のことだけ考えてるわけじゃない(欲を言えば、恋のことは忘れてほしいくらいなんだが……あ、こんなことを言うと封伽は怒るか)。
けれど、放課後になれば再び二人が争うことは、もう目に見えている。今度は「どちらが俺と一緒に帰るか」とかで。
言葉だけ見ると自惚れみたいだが、そうじゃないのが嫌だ。
だから正直なところ、呼び止められる前に鞄を持って教室を飛び出し、そのまま学校から立ち去りたかったのだけれど──残念ながら、そうもいかない。
逃げて解決するなら、俺はどこまでだって逃げる。けれど、そうしたら事態はむしろ悪化しそうだし。
そして俺は、「逃げ」じゃない一手として、瑞浪さんに連絡を取った。いわゆる「困ったときは一人で抱え込むな」を実践してみたわけだ。
やり込められた事実は記憶に新しいし、正直油断ならない相手だとは思うが、他に頼れる相手もいない。
そもそも詳しく現状を知ってる人が他にいないから(俺が教えたからな。それが苦い記憶なんだが)……まあ、ここで頼ることまで計算の上ってことはないと思う。たぶん。
「いやあ。それにしても、彼女が二人もおる身で他の女の子と会う約束取り付けるとか、君もなかなか大胆やねえ」
「そういうの、今はいいから……」
落ち合ったのは教室近くの廊下。ちなみに小降りとはいえ雨が降っていたので、屋上で話すのは断念した。
瑞浪さんの態度はわりといつも通りだったけれど、対する俺は疲労が溜まっていた。
今日は朝から色々あったし……あとそもそも、瑞浪さんを相手にするときは気を張らなきゃなので、精神的に疲れる。
「もう。もしかして君、ウチがただ単に、ふざけたいからふざけてるだけやと思うとる?」
「違わないだろ」
「違うよ、失礼やねえ。空気がやたらと張り詰めてるっぽかったから、ちょっと解きほぐしたろかなって思ったんよ?」
いやいや。「まったく、分かってないなあ。これだから素人は」みたいなテンションで言われても、素直に信じられないのはどうしてなんだろうな?
「折角ウチが気を遣うてあげてるのに、信じられへんの?」
「つい数時間前にやり込められた記憶は残ってるからな」
「そうなん? せやったら、その記憶消しとく?」
「いや、遠慮しとくよ──って、待て待て待て待て怖い怖い怖い怖い!」
しれっととんでもない発言が飛び出したぞ!?
自然な流れすぎて、一瞬スルーしかけちまったじゃねえか!
ギリギリ踏み止まってツッコミを入れると、御帳さんは快活に笑い飛ばした。残念ながら俺は笑えそうにないんだが。
「あはは。まあウチも人の記憶は弄られへんよ、まだ」
「『まだ』じゃねえよ。今後できるようになる必要とか一切ないから。一生できないままでいいんだよ、それは」
……はぁ。
さっきは「単にふざけたいだけだろ」と言ったものの……この馬鹿みたいな会話で、少し俺の気分がマシになってるのは事実なんだよなぁ。
それを認めるのは、これでもかってくらいに癪だけど。
だがそれにしたって、変に気負わせないように、そう演出してるって可能性もあるよな……って、それは考えすぎか。
──閑話休題、本題に移ろう。
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