choice.20 ひとときの平穏?(5)
「──砺波さん、これは一体何のつもりですか?」
「──御帳さんこそ、どうしてうちの教室に?」
睨み合う二人の少女、その間にバチバチと火花が散る。
「恋人として、彼とお昼をご一緒したいと思っただけですよ」
「ふーん? 『コイビト』として?」
「はい。何か問題がありますか?」
「そうね。アイツの恋人がアタシだってところにさえ目を瞑れば、特に問題はないかもね」
二人が立っているのは、教室に入ってすぐのところ。
お手製の弁当を持ってやってきた御帳珠洲を、同じく手作りの弁当を手にした砺波封伽が通せんぼしている形だ。
「なるほど。つまり、問題ないんですね」
「……御帳さんは、直接言われないと分からないタイプなの?」
「逆に砺波さんは、物事を直接は言えないタイプなんですか? ──彼への想いのことも含めて」
「はぁっ!? だから、アタシはアイツなんて!」
「隙ありですっ!」
「あっ、ちょっと!」
拮抗状態が崩れて、珠洲が封伽のガードをくぐり抜ける。そうなれば次に向かう先は、勿論「彼」の座席だ。
「って……あの人は今、いないんですか?」
「ふふん、残念だったわね。ほら、諦めて教室に帰ったら?」
「いえ。すぐに帰って来るでしょうし──すみません、この席の方はいますか? 良ければ、使わせてほしいのですけれど」
なぜか勝ち誇る封伽だったが、珠洲は特に落胆した様子も見せない。不在の「彼」の隣の席を指差して、近くにいた生徒にそう問い掛けた。
運動部員で昼休みも練習に出ているから使っても大丈夫、との答えに満足したようで、お礼を述べてから席を借りる。
「砺波さんこそ、自分の席に戻ったらどうです?」
「ぐぬぬぬ……」
今度は珠洲が勝ち誇った笑みを見せる。けれど、封伽には悔しげに珠洲を睨むことしかできず──否。
ここで引き下がるなんてことは、封伽のプライドが──あるいは、もっと別の感情が──許さない。
「──それは、何のつもりですか?」
「……み、見ての通りよ」
封伽は珠洲の後ろを抜けて、「彼」の席へと腰を下ろした。
何とも言えない羞恥で顔は真っ赤に染まり、声も上擦る。
とにかく珠洲に負けるのが嫌だという思い(何をもって「負け」なのかは微妙だが)に任せただけの行動だ。ぶっちゃけ何の意味があるのかも、何がしたいのかも分からない。
そんなことは封伽にも、珠洲にだって分かっている。
「……ふ、ふふん」
けれど、封伽が得意気に鼻を鳴らせば、珠洲はなんだか負けた気になるのだから不思議だ。状況的には負けてなんかいないし、そもそも勝ち負けの問題でもないのに。
そうなってしまうと、珠洲が取る行動は決まっていた。
「あ、ちょっと! 押さないでよ!」
「……私も、ここに座ります」
*
「──それで結局、そんなことになったってのか?」
屋上での瑞浪さんとの話を一通り終えた俺が自分の教室に戻って目にしたのは、思わず頭を抱えたくなるような光景。
空けていた俺の席にあったのは、二人の女子の姿。
俺の椅子に半分ずつ腰掛けて、俺の机に弁当を置いて、やけにゆっくりとした動きで箸を口に運んでいる。
パッと見だけなら、メチャクチャ親密そうな距離感。お互いに場所を譲ろうとしないせいで、かなり密着してるし。
けれど、互いの方を見向きもしなければ、二人の間には一切の会話もない。ギスギスした空気が伝わってきていた。
俺はそのまま回れ右して立ち去りたい気持ちを抑え付けて、渋々二人に近付いて声を掛け、何があったのかと尋ねたのだ。
そして答えを聞いて──今度は目眩を起こしそうになった。
ああ……瑞浪さん。
俺達の嫌な予感は、どうやら当たりそうだぞ。
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大晦日ですが、気にせず普通に更新しました!
新キャラの参入でカオス度も少し増しつつ「俺」が振り回されていく今作を、今後ともご愛読していただければ幸いです。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございましたっ!
全ての読者様に、来年も大きな幸福が訪れることを願って
よいお年を!
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