第32話 魔王との対話

「よく来たな聖女。我は魔王ゼロ。お前たちは何が目的で我を討伐するのだ?」


「私が聖女、貴方が魔王。それが討伐する理由です」


「まあ待て、少し対話をしようじゃないか。どのみち我の力などお前たちには通用しない」


「なんだ、既に負けを宣言するのか?ずいぶんと弱気な魔王なんだな」


「弱気な訳ではないお。我とお前たちの力の差がわからんほど、愚かでもないだけだ」


「ちょっと意外ですね。あのアホ勇者なんかより、しっかりと会話が出来そうです」


「そうか…では再度質問だ。何故我を討伐する。魔族には魔族の役割がありこの世界に存在する。我を討伐する事でのデメリットも人間側にはあるのだ」


「それは、貴方達魔族が人間にとって脅威だからです。魔族1体で数百の人間があっさりと殺されてしまいます。そんな脅威を放ってなどおけません」


「その道理なら、お前たちもその脅威に入るのではないか?お前たち一人ひとりが数百の魔族の力と匹敵する。数万の人間と匹敵する力を持っている。我らよりよほどの脅威ではないか?」


「私たちは人々に被害を加えることなどありません」


「我も、今まで一人の人間も殺してなどおらんぞ?」


「ですが、他の魔族はどうですか?人々を殺していませんか?」


「では問うが、人間は人間を殺さないのか?すべてがお前たちのように人に危害を加えないのか?」


「いえ、一部の人間は少なからず人に害を与えます」


「我らもそうだろ?すべての魔族が人に害を与えるわけではない。一部の魔族が起こしているだけの事だ。我ら魔族と人間に、何が違いがあるというのだ?」


「それは…」


「それに、我らが滅べば魔神による支配の力が弱くなる。そうなると人類の進化は止まってしまうぞ?女神のいう事だけ信じると、人類はこれ以上進化が無くなってしまうぞ」


「それは、どういうことですか?」


「この世界は神と魔神によって管理をされている。神により人間が、魔神により魔族が生み出されている」


「魔神とは何ですか?魔族を生み出しているのは魔王である貴方ではないのですか?」


「その答えは正しくもあり間違いでもある。魔王とは魔神であり、魔族を生み出すは魔神である。故に我は魔王であり魔神である」


「つまり貴方は魔神で、貴方と同様の力を持つ存在が他にもいると?」


「それも少し違うな。魔王とは魔神100神の序列100位に与えられる称号。つまり、魔神で最も弱い者が魔王となり、魔族を管理する事になっている」


「つまり貴方より強い魔神がまだ沢山いると?」


「そういうことになる。神も同様、100神の序列100位に与えられる称号が女神、又は人神。今は女の神なので女神だ。話を戻すがを滅ぼす事で、世界のバランスが崩れる」


「それは具体的にどのように崩れるのでしょうか?」


「神が世界に与える影響は{平和}と{不変}、魔神が世界に与える影響は{争い}と{進化}だ。故に魔神を滅ぼす事で争いが無くなるが、人類から進化を奪う事となる」


「進化が無くなることで、人間にどんな不都合があるのですか?争いがなくなるのが良い事ではないのですか?」


「我が滅ぶ事で瘴気がなくなり、いずれモンスターも発生しなくなる。そうなるとお前達のレベルも上がらない。生産職の人間のレベルも同様だ。故に進化が無くなることは人間の退化と同義なのだ」


「それは…では私たちにどうしろと?」


「そんな事は知らん。それはお前たちが考える事だろう。進化を捨ててでも我を討伐するのであればそれも良し。進化の為に我を放置するのもまた一つ」


「……………」


マロンは言葉につまってしまう。

そこにさらに魔王からの言葉が続く。


「そもそも、神・人間側がこちらに攻勢の態度でいるのが元々の問題でもあるぞ。一部の魔族が人間を襲うのは事実だが、一部の人間は人間に対し、又は魔族に対して襲う事もあるだろう。大多数の魔族は人間にこちらから攻撃を加える事は少ない。四天王に関しても、魔王城に向かうものに対してのみの敵対で、無差別に向かう事も無かった。魔族は悪と神から刷り込まれることにより、人間は魔族を恨み敵対するように出来ている。魔族以上に多くの人間に悪意を持ち被害をもたらしている人間もいるのだが、それでもそんな人間より魔族に害意を持つように作られている」


「そうか。マロン、少し魔王と話をしてもいいか?


「……………ええ、どうぞ…」


「おい魔王、お前を殺せば進化が無くなるんだよな?だったら、女神も殺して不変も無くなったらどうなる?進化も無く不変も無くなる。俺たちはその先、どうなるんだ?」


「ほお、それは面白いな。人間は基本的には神の支配下。神に逆らおうなどと言う考えに至ることなど無いはずなのだが、お前は面白いな」


「神の支配下か…。俺は神からの転生者だ。故に神を崇拝することなどあり得ないからな。あんなつまらん世界、無くなってしまえばいい」


「神からの転生者だと?そう言えば最近、一人の神が好き勝手やった結果で神をクビになったとかいう、前代未聞の大問題があったが、それがお前だと?」


「ああ、おそらくそうなるな」


「その時にクビになった神は、確か全知の神。神の序列でも第1位の化け物だったはずだが…。それでその力か。納得もできるか」


「俺はそこまで詳しく覚えていないが、そうだったのか」


「ちょっと待ってください!エルクは序列1位だったのですよね?そんな彼を誰がクビにするのですか?」


確かに。

転生した直後はその辺の記憶もあったような気もするが、日が経つにつれ、その辺の記憶が無くなっていったような感じなんだよな。

なんだか、頭の中に靄があるように、全然思い出せない。


「序列1位と言っても100神での序列1位なだけだ。その上に大神5神、大神と同列で大魔神5魔神、さらにそれらを統べる存在で創造神がおられる。エルクと言ったな。お前は神だった頃は、この世界で12番目の力を持っていたのだ。今のお前はせいぜい中位の神と同等だろうな。そんな力で女神を殺しても、神界の力で消されるだけだろう」


「やはり、神はそこまでの力を持っていたのか…」


「我のステータスが、各値の平均で5万程度だ。お前の力はせいぜい20万程度だろ?上位の神であればおおよそ100万程。大神がおおよそ300万程で、創造神様が500万程だ。それぞれに能力もあり、ステータスの振られ方はそれぞれだが、おおよそはこのぐらいだ。その程度の力で女神を殺すなど、自殺するようなものだぞ」


「あー確かに俺一人の力なら、ステータスはオール20万だな。でもこのパーティーで共に行動すれば問題ないな」


「そうだね。僕がいたらエルクは最強って事だね。レンゲでも大神程度なら何とかなるんじゃない?」


「お前たち、何を言っているのだ?」


「いやな、俺単体なら20万だが、ここにいるリナと力を合わせれば、1000万まで上がるぞ、ステータスが」


「なっ……………1000万だと……………!!!」

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