涙の大河
向こう岸が見えないほどの大きな河がゆったりと流れていた。その流れを見やり、一人の老女が涙を浮かべている。
どうかしたのですか、と尋ねると、彼女は首を横に振り「いつも思い出してしまうのです」と口にしてから、それを語り始めた。
かつてこの地域には
「あら、あなた。お帰りなさい」
彼女の夫
「そういえば今年も雨季が近づいてきましたね。また去年のようなことにならなければ良いのですが」
「村の人間どもはいつもそう言っておきながら何一つ対策を講じてこなかった。雨季になればいつ洪水になるだろうとびくびく
そう言うと、さっさと家に入っていってしまった。
雨季になり、村は雨の日が多くなった。
詠華は家の中で
そこに近所の
「詠華さん、上流で村が一つ流されたそうよ。村のみんなが
「そうなんですか。ただ、まだ夫が出かけたままで」
「旦那さんだって考えてるわよ。とにかく大事なものだけ持って、早く逃げるのよ」
それでも詠華は雨の中、しばらく夫の姿を探した。しかし彼はどこにも見当たらず、言われるがまま春未たちと共に村を離れた。
それから雨が止むまでに、実に十日余りを要した。
誰もが村が流されているだろうと思って戻ってきたのだが、そこには水たまり一つない、以前のままの村の姿が残っていた。
村の皆は口々に今回は神様が見逃してくれたのだと感謝した。だが詠華が後で聞いた話では、川が
詠華は夫の
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