木
やめてよ、という声が響く。
そこは深い森の中、多くの様々な種類の樹木が密集し、枝と枝、葉と葉、
「どうしてそんなことするんだよ」
彼の甲高い声だけが響き、他の樹木たちは葉を揺らしてせせら笑っている。
「ねえ! なんとか言ってよ!」
理由は分からなかった。けれど何故か彼だけが言葉を話すことができた。声を発することができた。
他の樹木の声こそ聞こえなかったが「気持ち悪い」「さっさと消えろよ」そんな心の声が
それでも他の樹木たちは彼をいじめることを止めようとはせず、それを制止する他の植物もいない。彼はただ耐えるしかなかった。
ある日の真夜中、彼の夢の中に光のローブを身に纏った女神が現れた。彼女は言った「何でも望みを叶えてあげましょう」と。
だから彼は願い、それは叶えられた。
「え?」
目を開けると周囲の樹木たちはどこかに消えていた。樹木だけじゃない。小川のせせらぎも、小鳥の
その光景に、彼は女神が本当に望みを叶えてくれたと感謝した。
「やったぞー!」
思い切り声を上げた彼だったが、そこに突然砂嵐が吹き付ける。
「痛い! 痛いよ!」
けれど嵐は止まない。
嵐が収まると、今度は雨が降り始め、それは夜に近づくに従い雪へと変わる。半日もしないうちに彼の足元は雪に埋もれ、葉の上にずっしりと雪が積み重なった。
彼は風雨に
周囲にあった沢山の樹木たちにより、自分は守られていたのだと。
彼が一本きりになり、何年が過ぎただろうか。
周囲には一本として草木が生えてこない。
気づくと彼の体には
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