歌虫は鎮魂の歌を奏でる
背の高い木々が音を立てて大地に倒れていく。なぎ倒しながら走っている三メートルを超えた大男は、その背中に折れた矢をいくつも突き刺していた。
――ここまで来ればいいか。
そんな心地で
アミールはこの大地の支配者であるアルタイ族の青年だった。日々戦いだけが彼らの生きる術で、強いこと、生き残ることだけが彼らのアイデンティティだった。
それでもアミールはそんな日々に最近
――何だこれは。
不思議な声だ。アルタイ族のものとは違う。もっと繊細で、高い。それに妙な節がついていた。
泉に浮かぶ一枚の
「何をしている?」
「歌っています」
「歌?」
「あなたたちがいつも戦っているように、私たちは歌を歌うことが生きがいなの。歌は、誰かを傷つけない。楽しい気持ちにしてくれる。もちろん楽しいだけじゃない。悲しいも、歌にはある。あなたたちはどうして戦うの?」
「戦いこそが全てだからだ。オレたちは生まれてからずっと戦いだけを覚え、戦うことだけが使命だと教えられ、戦いから逃げることは即ち死を意味した。オレが今こうしていられるのも戦ってきたからだ」
その戦いによりアルタイ族だけでなく、他の多くの生き物たちが犠牲になっていることを、アミールは知っていた。特に歌虫のような小さくか弱い生き物は、彼らが腕を振るだけで跳ね飛ばされ、岩などにぶつかれば簡単に命を落としてしまう。
「ならあなたはどうして今、そんなに悲しい顔をしているの?」
「悲しい?」
アミールが首を
鳥たちがよく
「これが……歌?」
「そうよ。悲しい、という歌」
この日アミールは初めて悲しいという感情を知った。
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