オルゴール
オルゴール。それは職人の繊細な技術により爪を弾いてメロディを
私が置かれているのはアンティークのオークのデスクの片隅で、その背中側には小さな本棚があり、左側の窓辺には少女の為の
そう、少女である。今そのベッドの上で目を閉じて寝息を立てている彼女は一メートル二十程と小さく、腰まである長い髪が金色の敷き毛布のようにも見える。瞳も髪に負けず劣らずの黄金色で、誰もが彼女を見て「人形のよう」と形容した。
私がまだ仔犬のワルツを奏でていた頃、彼女のところには毎日のように家庭教師だという男性が遊びに来ていた。すらりと長身で、いつも黒いスーツを身に
彼女はいつも「早く大人になれればいいのに」と
大人がどういう存在なのかは知らないが、今この瞬間の彼女の輝きこそが貴重なのに、と私は思っていた。
やがてその男性は部屋を訪れなくなった。
彼女は部屋に戻ってこないことが多くなり、壁の向こう側で彼女の両親が互いを
私はメロディを奏でることはなくなったが、それでも彼女を見守り続けた。何故ならそれが私にできる唯一のことだったからだ。
けれど彼女はあの日から、二度とこの部屋には戻ってこなくなった。それとともに両親の口論も消え、家の中がひっそりとしてしまった。
それでも私はいつか彼女が戻ってきて、また自分を開けて他愛ない話を聞かせてくれると信じ、待ち続けた。窓も閉め切られ、カーテンも閉じたままの部屋は
一体どれくらいの歳月が流れただろう。
「ありました!」
制服姿の男性は許可なく私の蓋を開けた。
中に入っていたのはもう黒く変色してしまった血がしっかりとこびりついて離れなくなった、ひと振りのナイフだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます