第407話 変なもん。
二時間後。
ここはトーザラニア帝国上空。
ニールが背中の青い翼を羽ばたかせて飛んでいた。
「いやはや、背中に汗をかく場面もあったが……大体上手くいったな」
ニールの背負っている鞄が小さく開いた。
ジンが顔を出した。
「おい。奪った宝の中で変なもんがいくつかあった……後で見てくれるか?」
「変なもん?」
「まぁ。後で見てくれたらわかる」
「そういわれると気になるな……どこかに降りるか」
「いや……まぁトーザラニア帝国追手を用意できたとしても、お前の追うのは無理か」
「やっぱり空を飛べるって強いな」
「まぁ、まだ宝の分別が終わってないから、野営によさげな場所まで……いや、街宿に泊まるか? この際」
「ハハ。いいな。俺が指名手配されるまでに帝国の美味いモノを買い尽くしてしまうか」
「そうだな。指名手配か……いくらになるのか……。そもそも指名手配されるのか? お前の実力を知る俺が王様……いや、皇帝なら怖くて指名手配になんてできんが。国を滅ぼされんか、暗殺されんかビクビクして暮らすのは勘弁だ」
「俺、そんなことはしないが……。まぁ、あの舌戦で伝えたのはそういうことだからな。しかし、帝国は王国から手を引くかねぇ……。マジで帝都にはヤバい種を仕掛けちゃったんだけど」
「どうだろうな。手を引かないなら……なるようになるだけだな。じゃあ、俺は引き続き宝の選別を進めておくわ」
ジンが鞄の中に引っ込んでいった。
ニールは翼を大きく羽ばたかせて、遠くに見えた街へと向かうのだった。
二時間後。
トーザラニア帝国内にある中都市ヘブリマ。
ここは中都市ヘブリマでも指よりの高級宿屋。
ニールとボルトは豪華な家具の並んだ広く大きな部屋に入っていく。
ニールは鞄類を下ろすと、寝室に置かれたベッドに飛び込む。
「疲れたぁ」
ふかふかなベッドに顔を埋めたままに動かなくなった。
シルビアと小人達がぞろぞろと鞄からでできて、食事の準備を始める。
ボルトは鞄を置いたところで。
「じゃあ、酒飲んでくるわ」
ニールはベッドから動くことなく。
「んーいってら」
鞄から出てきたシルバーがボルトに声を掛ける。
「ワイらの酒も買ってきてくれや」
「分かった」
ボルトがそう一言返事すると、部屋から出て行った。
シルバーはベッドへと飛び込む。
「おほ。これはなんや……ふかふかのベッドやな。ええ、宿を取ったなぁ」
ニールはまだベッドから動くことなく。
「んー金は腐るほどあるんだ。このくらいの贅沢いいだろう」
「やな。金は回り回ってなんぼやから」
「そういえば、なんか変な物が見つかったんだって?」
「そうらしいなぁ。チューズのヤツがなんやいっとったわ」
「チューズが? へぇーなんだろうかっと」
ニールが疲労に重たくなった体を起こして、ベッドに座り直した。
ジンへと視線を向けると、ジンとジンの部下達で鞄を運んで持ってくる。
「おー悪いな。運んでもらって」
ジン達はニールの寝ていたベッドに乗って。
「それはいいんだが。今日は疲れただろう? 明日でもいいぞ?」
「いいよ。体は疲れているが、寝るには早いし」
「そうか。まぁ見るだけ見てくれ」
ジンが部下達に指示して、鞄からは緑色の宝石が埋め込まれた指輪と透明な石が埋め込まれている蛇に模した紫のブレスレットが出てきて、ニールの目の前に並ぶ。ちなみにシルバーも気になるのか近づいてくる。
ニールは眉を顰めて。
「その指輪って……」
ジンは頷いて、ニールの左薬指に光る指輪を指さす。
「そう。お前の付けている指輪と同じモノではないか?」
「確かに似ているな」
「その指輪の入っている箱には【ミールの指輪】と書かれていたな」
「ふーん。これ、集めてどうするんだろうか?」
「俺は知らん。ただ悪いモノではないだろう」
「そうだろうが……っと、それでこちらのブレスレットはなんだ?」
「それがな。チューズ曰く……生きているんじゃないかって」
ニールは「生きている? よくできた蛇のブレスレットではなく?」と呟いた。
蛇のブレスレットを……若干警戒しつつ手に取って、目を細めて凝視する。
「あぁ。よく気付いたな。確かに……そういう気配の波をしているな」
「そうなのか。俺から見たら、とても生きているように見えないんだが」
「しかし、これはどういう状態なんだ?」
「蛇だろ? じゃあ、冬眠しているか、擬死しているのかになるんじゃないか?」
「冬眠? 擬死? それを起こすには? ……って起こしたら危険だろうか?」
「危険……かも知れんが。ちょっと気にならないか?」
「確かな。これは明日、何しても問題ない場所に移動して、いろいろ検証してみるか」
「そうしよう。今のところ、気になるのは以上かな? なにぶん、多いからまだ終わらんからな」
「そうか。まぁ空いている人員を使ってゆっくりやってくれや」
ニールとジンとの会話が途切れたところで、シルビアに食事の準備が整ったと呼ばれた。
シルバーは「飯やぁー酒やぁー」と飛び上がって。
ニールはベッドから立ち上がって、体を伸ばす。
「うぐぐ。次はようやくクリムゾン王国か」
ジンが腕を組んで、口を開く。
「いや。しばらく、帝国に滞在して動向を探らないとだろ?」
「そうか……しかし、クリムゾン王国はずいぶん疲弊してそうだったから、国として立て直せるのかね?」
「どうだろな。帝国が手を引く確約はないが、一応駐屯していた帝国軍は一部潰しただろう。クリムゾン王国にどれだけ頭の切れるヤツが居るか、勝機に呼応できるか次第だろよ。それか、お前が王に立つ余地はあると思うぞ?」
「絶対に嫌だね」
「だろうな。じゃあ……また手伝うのか? お前が手伝ったら文官十人分だろうよ」
「それも嫌だな。書類仕事なんて……よっぽどだよ」
「ハハ。そうだな。よっぽどだな」
ジンが笑い、ベッドから飛び降りた。
ニールは渋い表情を浮かべて、ジンの後ろに続くのだった。
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